お姉ちゃんトーナメント
唯華ちゃんも混ぜてみんなでごちゃごちゃゲームをし続けて、夕方の5時。
その可愛い声は唐突に響いた。
「あ、ゆいかちゃんだ!!」
大家さんとお出かけしていたみゆちゃんがお家に帰ってきた。
そして玄関から勢いよく走ってくると、その勢いのまま唯華ちゃんに抱きついた。
「ひさしぶりだね!
げんき??
ごはんちゃんとたべてる??
きょうはあそびにきたの??
わたしもまぜて!!」
矢継ぎ早な質問。
唯華ちゃんと遊べるのが相当に嬉しいらしい。
「ねぇねぇゆいかちゃん。
きょうはおとまり??
いっしょにしゃしんとりたいな。
あたまなでてあげるね!」
相当、どころではないな。
めちゃくちゃ喜んでる。
にこにこのにこにこ。
勢い良すぎて、唯華ちゃんを押し倒す勢いだ。
「みゆちゃん、唯華ちゃん困っちゃうよ。」
私がぽんと肩に手を置くと、みゆちゃんは小さく唸り声をあげた。
「うー。
ゆいかちゃん、あんまりあえないから……。
ゆいかちゃんちゃーじする……。」
みゆちゃんはぎゅっと唯華ちゃんを抱きしめた。
されるがままだった唯華ちゃんも、そこでようやく言葉を発した。
「今日はあまり会えない分、たくさん遊びましょうね。
みゆお姉ちゃん。」
みゆお姉ちゃん。
「みゆお姉ちゃん!?」
思わず口に出てしまった。
え、私の妹の唯華ちゃんに別のお姉ちゃんが!?
そ、そんな……!
「ゆいかちゃんはめぐるちゃんのいもうとだから。
わたしのいもうとでもある。」
みゆちゃんはそう言って唯華ちゃんの頭を撫でた。
なんてことだ。
まさか先を取られていたなんて。
「で、でも唯華ちゃんは私の妹でもあるよ。」
「わたしのいもうとだよ。
わたしがさきにおねえさんになったから。」
みゆちゃんと睨みあう。
こうなったらしょうがない!
「お姉ちゃんバトルで勝負だ!」
「のぞむところだ!」
というわけで私とみゆちゃんの勝負の幕が上がった。
「わ、私の妹なのに……。」
「ではめぐるちゃんも参加するがよい!
想いがあるならば、力で示せ!」
めぐるちゃんの手を引き、一緒に準備を始める。
いつものホワイトボードを用意し、私、みゆちゃん、めぐるちゃんの順で横に並んだ。
小鳥はそそくさと逃げた。
「ではルールの説明です。
これから私がお題を出します。
解答者の皆様はよりお姉さんらしい答えをホワイトボードに記入してください。
解答の中から、唯華お姉様が一番お姉ちゃんに相応しい解答を選びます。
全3問で、一番得点の高い者が勝者です!」
「皆様、頑張ってください。」
フランの横から唯華ちゃんが手を振った。
あれはきっと私に向けて振ったんだ。
私も手を振りかえして答えた。
あ、フランも手を振ってくれた!
ああ2人とも可愛い……。
癒される……。
「では第1問です!」
きりっとした顔になったフランがフリップを私たちに向ける。
そこには第1問のお題。
『疲れてへとへとの唯華お姉様。
お姉ちゃんは何をしてあげますか?』
(……サービス問題かな。)
こんなの楽勝だ。
私はすらすらとホワイトボードにマーカーを走らせた。
「ではボード集めますね!」
解答者の準備ができたころ、フランがボードを回収した。
「では皆様の回答はこちらです!」
フランが順番に回収したボードを表にしていく。
『たくさん褒めて抱きしめてあげる。』
『たくさんかたもみしてあげる。』
私の回答と、内容的に恐らくみゆちゃんの回答。
唯華ちゃんもふむふむと頷いていて好感触。
あとめぐるちゃんはどんな回答を用意するんだろう?
『読み聞かせしてあげる』
めぐるちゃんの回答。
読み聞かせしてあげる?
読み聞かせしてあげる……。
そんな小さい子にするようなこと?
これは私とみゆちゃんの戦いかな。
少し首を傾げて唯華ちゃんの反応を見る。
ただそこには……。
「め、めぐねぇ。そ、それは……。」
顔を真っ赤にさせて、ぷるぷると震える唯華ちゃんが居た。
「唯華。誰が優勝?」
「めぐ姉です……。」
「ありがとね。唯華。」
2回戦、3回戦をするまでもなく、優勝が決まった。
え、どういうこと?
「読み聞かせは、読み聞かせはずるいです。
それは、それは。」
自分の身体を抱きしめるようにカタカタと震える唯華ちゃん。
『読み聞かせ』って私の知ってる読み聞かせと違うの?
ちらりとめぐるちゃんを見る。
めぐるちゃんは私とみゆちゃんを一瞥すると、唯華ちゃんの元へ。
そしてそのままぎゅっと抱きしめた。
「いくら王子様とみゆちゃんでも!
唯華の一番のお姉ちゃんは私です!」
力強い宣言。
私もみゆちゃんもその宣言には負けを認めるほかなかった。
というわけで、お姉ちゃん王決定戦はめぐるちゃんの優勝。
読み聞かせがどういう意味なのかは分からない。
だが……。
脅してでも勝つ。
その姿勢に私たちは負けたのだ。




