カレータイムwith唯華ちゃん
今日のお昼ご飯はフラン特製カレーライスだ。
具だくさんで何杯だっておかわりできちゃう逸品。
食べすぎて動けなくなるレベル。
果たして唯華ちゃんのお口に合うか……?
「おいしい。すごい。とてもおいしいです。
なんということでしょう。
フランちゃんはお料理のプロなのですか?
すごい。スプーンが止まりません。」
とってもモリモリと食べていた。
美味しい美味しいと何度も連呼するから、フランもご満悦だ。
そわそわとお代わりを求めるのを待っている。
「唯華、はしたないよ。」
「いえ、たくさん食べるのもマナーです。
これだけ美味しいのですから。
残すなど失礼千万。」
「違う、お口の周り。」
めぐるちゃんが唯華ちゃんの口の周りをティッシュでゴシゴシと拭いた。
お姉ちゃんらしい行動。
いいなー。
私もしてみたい。
じー。
視線を感じて横を見ると、小鳥が私を睨んでいた。
余計なことをするな。
そんな圧を感じる。
(ちょっとくらいいいじゃん。
さっきのも結局、なんとかなったんだし……。)
唯華ちゃんが2度目のショートを起こしたあと、めぐるちゃんが色々と頑張ってくれた。
さっきまでのは夢だよ。
唯華は今、目覚めたところ。
お泊りしたいなら大丈夫!
一緒にみんなでご飯たべよう!
そんなことを矢継ぎ早に浴びせると、唯華ちゃんはひとこと「そういうことですか。」と言ってほっとひと息ついた。
めぐるちゃんの嘘を信じたらしい。
そして今に至るのだ。
「でも家出なんて大丈夫なのか?
警察沙汰になったりとか……。」
小鳥が心配そうに唯華ちゃんに尋ねた。
当然の疑問だろう。
「問題ありません。
対処はばっちりです。
それにめぐ姉が説得してくれます。」
唯華ちゃんはさらっとそんなことを言った。
めぐるちゃんは深いため息をついた。
「ということです……。
ご飯食べたらお電話してきます……。
とっても憂鬱です……。」
めぐるちゃんには珍しい心底疲れ切った表情。
「まあまあ。私がついています。
めぐ姉なら大丈夫です。ファイト。」
他人事みたいに、唯華ちゃんはカレーを頬張った。
「唯華ちゃん。」
「はい!なんでしょうか?」
なんとなく名前を呼んだら、ぴしっと背筋を正した。
そんなに畏まらなくていいのに。
「えっと……呼んでみただけだよ?」
「呼んでもらえるなんて光栄です。
わ、私も呼んでもよろしいでしょうか……?」
こくりと頷くと、唯華ちゃんは口をもごもごとさせた。
「神様……いえ、違います。
執事様……いえ、今日はオフです。
お仕事じゃないときに呼ぶのは駄目です。
迷惑になってしまいます……。
めぐ姉と同じ、王子様……。
ありえません。
憧れの王子様と執事様はまた違うのです。
なぜめぐ姉はそんな呼び方を……。」
とても迷ってるのが分かる。
さてさて、唯華ちゃんはどんなあだ名をつけてくれるだろうか。
すごく楽しみだ。
「あう」
唯華ちゃんががくりと項垂れた。
「おい、大丈夫か?」
小鳥が横から支え、顔をあげさせた。
そこには大粒の汗が光っていた。
「わ、私ごときの貧相な脳ではあだ名など……。
申し訳ございません……。
相応しいあだ名、考えられそうにないです……。」
さっきまでもりもり美味しそうにカレーを食べていたのが嘘のように、すごく憔悴した顔。
そのせいで皆からの視線も心なしか冷たい気がする。
そんな追い詰めるつもりはなかったのに……。
あ、そうだ!
ここは冗談でも言って場を和ませよう!
「じゃ、じゃあお姉ちゃんとかどう?
唯華ちゃんみたいな可愛い妹欲しかったか
「いいのですか!??
お姉ちゃん。お姉ちゃん。
なんと甘美な響きでしょう。
えへへ。ありがとうございます。お姉ちゃん。」
「……」
……。
…………。
やばい。死ねる。
冗談のつもりが、急に夢が叶ってしまった。
妹、本当にずっと欲しかったんだよ。
可愛い。
いい子いい子したい。
抱きしめたい。
いや、いいよね。
私、お姉ちゃんだもんね。
「お嬢様。」
フランがぴしりと私を呼んだ。
じっとりとした目。
私が何をしようとしたのか、瞬時に把握したようだ。
さすがフラン。
「こほん。なんでもないよ。
改めてよろしくね、唯華ちゃん。」
「はい、こちらこそよろしくお願いします。」
唯華ちゃんがペコリと頭を下げた。
そして追加でひとこと。
「お姉ちゃん。」
「はぅ……。」
スタンしそうになる心を気合いで耐えた。
新しくできた可愛い妹。
中々楽しいことになりそうだ。
『お嬢様!お電話です!』
どこからか電話がかかってきた。
誰かと思えば鈴からだった。
「ごめん、ちょっと電話でてくるね。」
みんなにひと声かけて中座。
なんでこんなお昼時に。
まったくもう。
「もしもし。元気?」
『よう兄弟!俺はいつでも元気だぜ!』
鈴はそう楽しそうに答えた。
まあ今日はこのみちゃんとデートって言ってたもんね。
楽しくて当然だ。
あ、そうだ。
「私と鈴ってどっちがお姉ちゃん?」
『なんだよ急に。きもいなー。』
一蹴されてしまった。
むかつくなー。
唯華ちゃんを見習ってほしいぜ。
『ていうかちょっと仕事で困っててさ。
ちょっと聞いてもらえない?』
鈴はそういつもと変わらない調子で尋ねてきた。
仕事?
あ、そうだ。
確か鈴は警察の仕事してたよね。
なんだろ。
『いやさ、三木製薬のご令嬢が家出したらしくてさ。
なんか知ってることないかなって。』
「いや、知らないよ?
あはは。なんで私が知ってると思うの?」
『やっぱりそうだよな!
悪い!変なこと聞いた!』
電話の向こうで鈴が快活に笑った。
まったく。
変な質問をするんだから。
ていうか鈴は腕輪で調べられるんだから、事情聴取なんてしなくてもいいだろうに。
『じゃあなんでお前の家にいんだよ。
このみとのデート邪魔しやがって!
絶対に許さないからな!
首を洗って待ってろよ!』
ぶちっと電話が切れた。
いったいどういうこと?
考えたってなにも分からなかった。




