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余命60年の私と余命8億年の君  作者: とりもち
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めぐるちゃんの妹の襲来


『お家には絶対に帰りません。』


スマホのスピーカーから、眠りから目覚めた唯華ちゃんの声が聞こえた。

怒りを含んだ声色。

スマホの向こうではきっとめぐるちゃんはたじたじとしているだろう。


『絶対に帰らないなんて……。

 ここに居ること、お家の人には言ったの?』

『家出です。母の横暴には飽き飽きしました。

 断固抗議の姿勢です。まったくもう。』

『まったくもうじゃないよ……。

 うぅ……絶対に怒られちゃうよ……。』

『怒られようが構いません。

 絶対に許してなるものか。

 私の心は憤怒に燃えてます。まったくもう。』


まったくもう、が口癖になってる。


『それにめぐ姉にも怒っています。

 どうして私の神様がこちらに居るのを黙って

『だって倒れて恥を晒すでしょ。』

『失礼。理解しました。

 確かにその通りです。さすがめぐ姉。』


ぱちぱちぱちぱちと拍手。

唯華ちゃんなりにめぐるちゃんのことは尊敬してる、のかな。

それはそれとして言うことを聞く気はないらしいけど。


『はぁ……それにしても……うぅ……。

 まさか神様にあんな姿を見せるとは……。

 どうして同じアパートに……。

 うう……恥ずかしすぎます。』


ちなみに神様とは私のことだ。

執事喫茶での私に一目惚れをして、すごくすごく尊敬しているらしい。

そんな一目惚れするほどか?

いくらフランが服や髪を取り繕ってくれても、中身は私だぞ。


「お嬢様、すごく可愛かったですからね。

 お嬢様がモテモテで鼻高々です。」

「ま、まあ確かに似合ってたぞ……。」


フランと小鳥が褒めてくれた。

ちょっと、いやかなり照れる。


「い、いや!今はその話じゃなくて!

 向こうの会話聞こう??」

「はい!」「ま、まぁそうだな。」


改めてスマホに向き合う。


『あぁ神様……どうか先ほどのご無礼は忘れてくれてますように……うぅ……。私は路傍の石ころです……。認知されたくなどないのです……。』

『い、今はそういうのいいから!

 どうして家出なんてしたの?』


ちょうど唯華ちゃんの暴走が終わったところだった。

いざ本題だ。


『部屋を勝手に漁られ、夢小説を見られました。』

『分かった。いくらでも泊まっていいよ。

 それはお母さんが悪い。』

『めぐ姉ならそう言ってくれると思ってました。』


話はまとまったようだ。

どうやら唯華ちゃんはめぐるちゃんのお部屋に泊まることになったらしい。

ていうかもうこれは通話切るべきじゃないかな。

今、唯華ちゃんすごく恥ずかしいこと言ってるよ?


『あぁ夢小説……。

 傑作だっただけに恥ずかしすぎます。

 だけど今度めぐ姉にだけはお見せしますね。

 王子様と執事様にでろでろに蕩けるまでえっ

『あ!通話!』


ぷつんっ


通話が終了した。

切るの間に合ってないし、切り方も不自然すぎる。

あんなの絶対に唯華ちゃん気づくでしょ。


(まあいいや。今、気にするべきことは……。)


「唯華ちゃんが泊まるなら、小鳥はこっちだね。

 楽しみ。今日は夜更かしサンデーナイトだ。」


めぐるちゃんのお部屋には2人は泊まれない。

そうなると小鳥の部屋を使うしかない。

つまり小鳥がしばらくこっちに来る。

素晴らしい。

テンション上がるぜ。


「別にあたしがめぐるの部屋に泊まれば……。」

「こっちに泊まるのいや?」

「いや、なんでもねぇ。」


余計な考えなんてさせない方がいいだろう。

小鳥がこっちに泊まるのが最善策。

それは私の中で確定なのだ。

他の案なんて考える余地はない。


「めぐ姉のバカっ!!!」


隣のお部屋からそんな声が大きく響いた。

やっぱり通話してたのがバレたらしい。


バタバタと走る音が聞こえる。

そしてすぐにガチャりと私たちの部屋の扉が開く音。


「勘違いしないでください。

 先ほどのはめぐ姉の仕組んだドッキリです。

 どうですか?驚きましたか?

 まったくめぐ姉のアイデアにも呆れたものです。

 ほら、めぐ姉謝ってください。

 めぐ姉の奇抜なドッキリにみんな驚いてますよ?」


唯華ちゃんは冷や汗をダラダラと流して、私たちにそう弁明した。

嘘をついているのは明らかだった。


「ごめんなさい。え、えっと驚いたでしょうか……?」

「うん、すごく驚いたな。」


めぐるちゃんの言葉に、小鳥が続いた。

思いっきり目を泳がせる唯華ちゃんが見ていられなかったからだ。


ただ思うのだ。


せっかく唯華ちゃんが描いた物語。

冗談で終わらせてよいものかと。


「ねぇ、本当にドッキリ?」


私がそう言うと、みんなが息を呑んだ。

空気を読め!

そんな視線が小鳥から刺さる。

でもそんなの知ったことか。

私はファンの期待には応えたいのだ!


「ドッキリじゃないなら……。」


ゆっくりと唯華ちゃんの側に寄る。

そしてその耳元に口をそっと近づける。


「……本当に甘やかしてあげる。」


そしてぎゅっと唯華ちゃんを抱き締めた。

さて、喜んでくれるだろうか?


「いたぃっ!」

「てめえは!なんでそんなこと!」


唯華ちゃんの反応を待つまでもなく、小鳥にすぱーんと頭を叩かれた。

頭を殴るだけに飽き足らず、グリグリと拳で頭を挟まれた。

とても痛い。

せっかく私を尊敬してくれてる子がいるのに、こんな辱めをするなんて!

小鳥はなんてひどいやつだ。


「唯華ちゃん、こいつの言うことは……。」

「駄目です。気を失ってます。」


めぐるちゃんの腕の中。

唯華ちゃんはまた気を失っていた。


「いたいっ、いたい、小鳥、離してぇ……。」


小鳥はしばらくの間、ぐりぐりをやめてくれなかった。

だ、だってめぐるちゃんの妹なら喜んでくれると思ったから……。

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