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余命60年の私と余命8億年の君  作者: とりもち
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めぐるちゃんのお客さん


「……!?あれ!?えっ!?えっ!?」

「どうしたの?可愛い可愛いめぐるちゃん。

 ふふふ。ひざまくらありがとうね。」

「いや、でも、あれ???

 私がひざまくらしてたのに??」


困惑するめぐるちゃんを宥めて落ち着かせる。

2人でお昼寝してる間に、もうお昼になった。

帰ってご飯にしよう。

フランも小鳥もきっと待ってる。


「楽しかったですね。」

「ねー。またしようね。

 それともご飯食べたら続きする?」

「え、えっと……よければもうちょっとだけ……。」


ふふ。

お昼からの楽しみもできた。

あ、そうだ。

いっそ小鳥もフランもみゆちゃんもみんな巻き込むのもいいかもしれない。

かっこいいめぐるちゃんを皆にも楽しんでほしいし!


だけどアパートの前。

なんだかちょっと違和感があった。


「?」


自転車が置いてある。

どこから来たのか分からないレンタサイクル。

誰かお客さんが来てる?


「お昼のあと、また楽しみにしてますね。

 あれ?王子様?どうして私たちのお部屋に?」

「いや、なんかフランもこっちに居るっぽい?」

「?」


腕輪で調べたら、フランも小鳥のお部屋に居ることが分かった。

なんでみんな集まってるんだろう?

めぐるちゃんと2人で首を傾げながら、アパートの扉を開ける。


そして……。


「え!?え、えっ!?なんで!?」


そこに置いてあった靴を見るなり慌てた声を出した。

どうしたの?

そんな声をかける暇もなく、めぐるちゃんは靴を脱ぎ捨てて部屋へとずんずん進む。

その様子を見て、ひとつ遅れて私も気づいた。

脱いである靴が多い。

フラン、小鳥、そして誰かの靴。

果たしてこれは誰のだろう?

その答えをすぐにめぐるちゃんが叫んだ。


「ゆ、ゆいか!な、なんでここにいるの!?」


玄関の先、リビングから大きな声。

ゆいかちゃん、聞いたことあるようなないような。

ゆいか、ゆいか……。

あ、そうだ。

確かみゆちゃんが夏休みに友達になったんだっけ。

とりあえず私は手を洗ってこよう。

めぐるちゃんの知り合いなら、そんなに焦ることはなさそうだ。


「めぐ姉。事情が色々とありまして。

 2日ほどかくまってはもらえませんか?」

「そ、そんなの絶対に駄目だよ!

 お家の人に怒られちゃうよ!?」

「いえ、私にも譲れないものがあります。

 めぐ姉なら分かりますよね?」

「で、でも……。うー……。」


なにやらすごく揉めている。

めぐ姉?

どういう関係なの?


「お嬢様。」


部屋に入るに入れないでいたところ、フランが声を掛けに来てくれた。


「あの方はどちら様?」

「めぐるお姉様の妹君であるとのことです。」


ふむふむ。

秘密にしてたけど、やっぱり姉妹がいたんだね。

難しい話は分からないけど……。

挨拶くらいはしておこうかな。


「こんにちは、ってあれ?

 あ、もしかして……お店に来てた子?」


ゆいかちゃんはすごく見覚えのある子だった。

きっちりと前髪を揃えた黒のミディアムヘア。

切れ長の目に白のシャツ。

すごく知的な印象を感じる女の子。

私が執事喫茶で働いてる時に、何度も来てくれた女の子。

最後の日に大量の現金を渡そうとしてきた子だ。

 

「……っ!???いや、えと、その!?

 覚えてて……。え、え、え、ひゃぅ」


女の子は私を見るなり倒れてしまった。

ぷしゅーっと音を立ててショートを起こしたかのように。


知的な印象も一瞬で吹っ飛んだ。

あれ、お店に来てくれたときはそこまでやばくなかったよね?

涎を垂らして気を失う彼女に、フランがお布団を運んできた。

私はこれ、帰った方がいいかな?


次々と現れる疑問に困惑をする私の肩にぽんと手が載った。


「ナイス。ちょっと相談したいところだった。」


小鳥に褒められた。

よく分からないままに私は席につく。


「えっと……妹がお騒がせしました。」

最初に口を開いたのはめぐるちゃんだった。


「この子は唯華。

 えっと私の一学年下の妹です。」


ちらりと一瞥して、めぐるちゃんは唯華ちゃんのことをそう紹介した。

めぐるちゃんの一個下ということは高校2年生か。

正直、めぐるちゃんよりもしっかりして見えた。

私の顔を見て倒れるまではだけど。


「んでなんで急に泊まりにきたんだ?

 それに泊まりたいならあたしの部屋で良ければ……

「え、えっと!それはだめなんです!

 唯華は……えっとそのぉ……。」


めぐるちゃんは言い淀んだ。

なにか事情があるらしい。


「まぁまぁ。家族とかは色々あるもんね。

 私もお母さんが泊まりにきたら追い返すよ。」


私がそう助け舟を出すと、小鳥はそれ以上なにも言わなかった。

まあ小鳥だって家族とは色々ありそうだしね。

そこら辺の機微は察してくれる人間だ。


「あ、そうだ。じゃあ私の部屋に泊めようか?

 来客用の布団もあるし……

「それは絶対にだめです!」


強い言葉で遮られた。


「え、えとごめんなさい……。」


めぐるちゃんがひとこと謝る。

ちょっとびっくりしたけど、謝るほどじゃないよ。

そう言おうと思ったけど、続く言葉に私は口を閉ざすしかなくなった。


「え、えっと……。

 唯華は王子様のこと好きですから……。

 それも2重に……。」


2重に?


「中学の頃の王子様と、執事な王子様。

 両方に萌えを感じてます。

 しかも別人だと思ってます……。」


えー……。


「それに過剰な供給でショートしちゃうので……。

 お、王子様のお家には泊めないでくださいね。」


なんだかとてもややこしい子に好かれてしまっている。

小鳥ははぁ……とひとつため息をついてジト目で私を見つめた。

小鳥にはそんな目で見られたくない。

小鳥の方が女の子落としまくってるくせに……。


「まあいいや。

 でもそれなら呼び方どうする?

 王子様呼びのままで大丈夫?」


王子様な私と執事の私を別人だと思ってるなら、王子様呼びのままは悪かろう。

いや、同一人物だとバラしていいなら遠慮なくバラすけどね。

あの頃の王子様は死んだ。

もうこの世界のどこにもいない、と。


「それなら唯華が居る間だけお姉様って呼びますね。」

「お姉様っ!?」


え、え、めぐるちゃんにお姉様って呼んでもらえるの??

え!最高じゃん!


「浮かれすぎ。キモい。」

「小鳥、シャラップ。」


小鳥に水を差されたけど、めぐるちゃんのお姉様になれた。

妹がずっと欲しかったから嬉しいな。


「じゃあこの子は私の妹でもあるね。

 ぽわぽわふわふわの次女に、きりっとした三女。

 うわ、めっちゃ最高。

 2人まとめて抱きしめていい?」

「だ、だめです。

 私も唯華も倒れちゃいます……。」


ちぇ、残念。


「でもお店に来てたときの印象強いなー。

 クールでかっこいい子だなって思ってた。」


執事喫茶に足を運んでくれてた時は、倒れたりはしなかった。

いつも静かに珈琲を楽しんで、少しお喋りをしたら帰っていく。

ただ何度も呼んでくれるから、気に入って貰えてることだけは分かってた。


(あ、でもそうだ。忘れてた。)


「こんな話してる場合じゃないんだよね。

 私が居ると真面目な話できないだろうし、部屋に戻るね。」


うっかりしてたけど、今日は真面目な話をしにきたんだよね。

こんな妹談義してる場合じゃなかったや。


私が立ち上がると、フランと小鳥も立ち上がった。

家族の問題に首を突っ込むのは野暮だろうと、私と同じ判断をしたようだ。


ただめぐるちゃんはその判断に異議があるらしい。

私のワンピースの裾をちょんと引っ張った。


「え、え、居てくれないんですか??」

心底驚いたように、めぐるちゃんはそう言った。

「うん、だって私が居たらまた倒れちゃうでしょ?」

「そ、そうですけど……。」

不安がありそうな声。

姉妹喧嘩とかはあんまりしないんだろうか?

ちらちらと唯華ちゃんの方を不安げに見ていた。


「じゃあスマホの通話繋げておくのはどう?

 こっそりなら唯華ちゃんも変にならないでしょ?

 駄目そうな話題になったら、いつでも切ってね。

 それなら不安じゃない?」


私が聞くと、渋々といったふうにめぐるちゃんは頷いた。


「じゃあまたあとでです……。」

「うん、頑張ってね。」


2人を残して、自分たちの部屋へと戻る。

まあでもめぐるちゃんを頼ってこっちに来たわけだし、変なことにはなるまい。


そうぼーっと思いながら、私たちはスマホの前で唯華ちゃんが目覚めるのを待つのであった。

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