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余命60年の私と余命8億年の君  作者: とりもち
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りんこのコンビのデート見学


「だ、だ、だぶるでーとー♪」


9月の中旬。土曜日の朝。

車の中で鈴の歌が響く。

今日は鈴とこのみちゃんのデートを見学する日。

メモの用意もばっちり。

勉強させてもらう用意は完璧だ。


「今日は私たちは見学です。

 ダブルデートではないですよ?」


私の隣に座るフランが鈴の鼻歌に返事をした。

鈴はへへーっと笑って鼻歌を中断させた。


「そうだったなー。

 へへっ。俺らのことよく見ておけよ!

 最高のデートを教えてやる!」


鈴はそう自信に満ちあふれた声で私たちに宣言をした。

最高のデート。

それはいったいどんなデートなんだろう?

ちょっと期待してしまう。


「このみちゃんはなにか聞いてる?

 どこに行くんだろう。」

「えへへ……。

 実はですね。今日は僕がプランを考えました!」


助手席のこのみちゃんはそう応えた。

とっても楽しそうで自信ありげな声。


「いつも順番こにデートプラン決めてるんです。

 今日は僕の番なので!

 楽しみにしててくださいね!」


目的地も知らされぬまま車は法定速度で進んでいく。

着いた場所は、映画館のあるショッピングモールだった。


「今日はお買い物デートにしました!

 鈴ちゃんを可愛くします!」


このみちゃんはそう宣言して、鈴の手を引っ張り車から降りた。

そして勢いよく駐車場からモールの方へとてくてくと歩き出した。


(それにしても鈴を可愛くかー。

 中々のハードミッションだな……。)


いや、鈴が可愛くないわけじゃないよ。

ちょっとやんちゃな表情が多いけど、顔はすごく可愛い。

それは確かだ。

ただ鈴のセンスは私の真反対なのだ。

シャツの柄は派手な方がかっこいい。

そんな理由で高校の頃から私服はずっと派手な柄シャツ。


(……あれ?)


違う、私服だけじゃない。

思い返せば制服なんて一度も着てなかった。

どこでもいつでも派手な柄シャツ。

腕輪の力なのだろうか。

今さらその異常なこだわりに気づいた。


はてさて、そんなこだわりのある鈴だ。

可愛い服なんて着てくれるんだろうか?


「見てみてこのみー!似合うー??」


試着室のカーテンをさーっと開けて、鈴はそれはもう嬉しそうにくるりと一回転した。

スカートがふわりと揺れる。

見違えるように女の子だ。


「うん!鈴ちゃんすごく似合ってるよ!

 とっても可愛い!」

「えへへ。もっと褒めてー。」


くるりくるりとその場で回る。

そして急にすとんと止まった。


「よし!買ってくる!ごー!」


さっ!!と勢いよくカーテンを閉めて、鈴は元の柄シャツに着替えた。

そしてその勢いのまま、試着していた服を持ってレジへと駆け込んでいった。


「すごいね。鈴に可愛いお洋服着せちゃうなんて。」

「えへへ。ちょっと条件つけられちゃいましたけどね。

 鈴ちゃんのいつもと違う姿も見られて嬉しいです。」


条件?

私が聞く前に、鈴はパタパタと戻ってきた。


「次はこのみの番な!

 めっちゃかわいくしてやるぜ!」


鈴は投げキッスを飛ばして、また改めてレジへと戻っていった。

忙しない。

でも反発しなかった理由は分かった。


「このみちゃんも可愛いお洋服買うんだね。」

「恥ずかしながら……。

 うぅ……似合うかな……。」


このみちゃんは恥ずかしそうに目を伏せた。

いつものパーカーとショートパンツもすごく似合ってる。

だけどたまには雰囲気を変えてみるのもいい試みだろう。


「にしてもなんで急に?

 2人ともボーイッシュな格好が好きだよね。」


いい試みだとは思うけど、ちょっとだけ気になった。

なにがきっかけで女の子らしい格好にも興味持ったんだろう?


「それはですねー。えへへー。

 すっごくいいアイデアを思い浮かんだんですよ。

 聞いたらきっとすごくびっくりしますよ!」


にまにまとした表情。

おバカなことを考えてる時の鈴の表情に少し似てるかも。


「いいアイデアですか?」


私が聞く前にフランがそう尋ねた。

フランの目はキラキラと輝いている。

先輩カップルのいいアイデアがよっぽど気になるらしい。


「フランちゃん、人はねー。

 着てる服で気分とか変わるのは分かるよね?」

このみちゃんがフランに向けて尋ね返す。

フランはこくりと頷いてみせた。

「つまりね!男の子っぽい服と女の子っぽい服両方着れば無敵なの!」

急によくわからなくなった。

やっぱり鈴は悪い影響を与えてるのかもしれない。


「ふむふむ。」


フランはどこからともなく取り出したメモに熱心になにか書き込んでいる。

理解できたのかな?

さすがはフランだ。


「お待たせー!お待ちどー!いえーい!」


鈴がぱたぱたと弾むように帰ってきた。

そしてこのみちゃんの手を握った。


「なんのはなしー?」

「今、例の計画の話してるの。」

「あー。なるなる。

 どこまで理解できた?」


鈴はそう首を傾げた。

あんまり理解できてない。

私の顔を見て、鈴はすぐにそれを察してくれた。


「じゃーん!資料を配布します!

 でももうちょっとそっち行けー!

 ここだと邪魔になっちゃう!」


片手でこのみちゃんの手を引いて、もう一方の手で私の背中をぐいぐいと押して隅っこへ。

そこで鈴は1枚の紙を出して私に握らせた。


『最強デートの味変計画!

 普段はこのみボーイッシュ×最強かっこいい俺様。

 だけどたまには味変!

 このみボーイッシュ×最強可愛い俺様!

 最強かっこいい俺様×最強可愛いこのみ!

 最強可愛い俺様×最強可愛いこのみ!

 組み合わせは無限大!

 最高のデートを何回だって楽しもう!』


すごい熱量のチラシ。

意図は理解したけど……。


つまりはいつもと違う服装で、リードする方を決めてデートをしてみようということだ。


「いつもはお互い引っ張りあいですからね!

 ちょっと趣向を変えてみます!」

「だなー!えへへ。可愛いこのみ楽しみだぜ!」

「僕も可愛い鈴ちゃん楽しみだな。

 また明日のデートも楽しみだね!」


2人、両手を取り合ってニコニコと向き合っている。

このみちゃんにしては珍しく素直にデレデレになってる。

それだけ明日のデートが楽しみなんだろう。


「ねえ、これ私たちも真似してみていい?」


私が尋ねると、鈴もこのみちゃんも勿論いいよと首を縦に振ってくれた。

だけど首を傾げるものも1人。

フランは不思議そうに私の顔を見上げた。


「私とお嬢様はよく似たようなことしてませんか?」

「うん、だからこれは今度めぐるちゃんとだね。

 フランとはまた違うデートするから安心してね。」


首を傾げていたフランをぎゅっと抱き寄せる。

そう、フランとはすでにやっていたことだ。

執事服のフランにエスコートされたり、逆にシャツにスラックスの私がフランをエスコートしたり。

確かにあれはすごく楽しかった。

普段の良さにも気づけるしね。


ああだけど。

言葉にするとすごくワクワクする!

いつもと違うお洋服デート!

きっとすごく楽しいぞ!


「参考になったなら何より!

 じゃあ次はこのみのお洋服探すぞー!」


鈴が私とこのみちゃんの手を引いた。

うん、次はこのみちゃんの番だもんね。

どんなお洋服が似合うかな。

いつものパーカーも似合うけど、きっとワンピースも似合う。

ああそれにめぐるちゃんも……。

きっとかっこいいお洋服も似合うよね!


2人のいつもと違う姿を想像しながらお買い物。

とまぁ鈴とこのみちゃんのデート見学はとても勉強になったのであった。


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