大学の後期はこのみちゃんと一緒に
秋も中頃。
今日から大学の後期授業だ。
とはいえ、特に何か大変なことがあるわけでもない。
なぜなら私は勉強だけはできたからね!
卒業までに取らなきゃいけない単位にも余裕がある。
分からないところがあっても、フランに教えてもらえればすぐに解決する。
つまり鬼に金棒!
憂慮すべきことなどなにもない!
完璧!
と言いたいところだけど……。
後期はちょっとしたミッションを頼まれてしまった。
「せんぱーい!こっち!こっちです!」
大学のカフェテリア。
そこでこのみちゃんが元気よく私に手を振った。
「ありがとね。席取ってくれて。」
「いえいえ!
それで今日はなんの御用ですか?」
そう、今日このみちゃんを呼び出したのは私の方。
頼まれたミッション、それは……。
「このみちゃん、後期の授業手伝ってあげる。」
このみちゃんが無事に単位を取れるように手伝うこと。
それこそが鈴から与えられた極秘ミッションだった。
話は沖縄に行く前に遡る。
前期の取得単位が発表されたころ、私とフランは鈴にこのみちゃんのお家へと呼び出された。
「兄弟!フラン!大変!やばい!ヘルプ!助けて!」
このみちゃん不在のお家にて、鈴が私に泣きついてきた。
珍しく本気で焦った声。
何かとっても大変なことがあったらしい。
「このみが単位落としてたんだよ!
なのにケロッとしてる!どうにかしないと!!」
ぐらぐらと揺すられる私の身体。
いくら鈴の弱い力とは言え、一生懸命に揺すられると返事のしようがない。
「鈴お姉様。一度手を離してください。
お嬢様、答えられなくなってます。」
「フーラーンー!助けて!お願い!」
今度はフランに矛先を変えた。
ゆっさゆっさとフランの身体を揺する。
「もうっ。いいです!このまま聞きます!」
でもフランはお構いなしに、聞く姿勢に入った。
これくらいは全然問題ないらしい。
しばらくフランを揺すり続けて、もう体力が尽きたのか鈴の力がガクリと抜けた。
そして力なくぼそりと私たちにお願いをした。
「このみ、大学やる気ないのかも……。
このみのお母さんとお父さんになんていえば……。
なぁ兄弟。お前、同じ大学だろ……?
助けて……。」
今にも泣きそうな鈴の姿。
さすがに私たちも断ることなんてできなかった。
そして今に至る。
「えー。でも大丈夫ですよ?
僕、そんなおバカじゃないですから!」
だけど鈴の心配とは裏腹に、このみちゃんは自信満々である。
これは中々骨が折れそうだ。
鈴曰く、このみちゃんは心配しすぎると反発するらしい。
となると次の策……。
「このみちゃん、じゃあ一緒の授業取ろうよ。
私、大学に友達居ないからさ。
一緒の授業を友達と取るの憧れてたんだ。」
このみちゃんの目がきらりと光った。
よし、食いつきそう。
「それなら!ぜひです!」
鈴曰く、このみは頼られるのに弱いぜ。
さすが鈴だ。
このみちゃんの弱みをちゃんと分かってる。
「じゃあ取る授業決めようか。
取りたい授業とかある?」
私が聞くと、うーんと首を傾げた。
「前期は必修以外全部落としましたからね……。
ひとまず基礎科目で単位稼ごうと思ってます!」
「へー。」
(必修以外落としたの!?
そこまでとは聞いてないんだけど!?)
平静を装いながらも、内心ではドン引きした。
そりゃ鈴も泣きついてくるわけだ。
あまりにもやる気がない。
「じゃあ後期は一旦単位稼ぐ方向にしようか。」
「あ、でも取りたい授業は決めてきました!
良ければこの中で一緒に受けられませんか?」
すかすかのスケジュール渡されたらどうしよ……?
恐る恐ると共有されたファイルを開く。
最悪、鈴に代わって怒る覚悟を持って……。
「こ、このみちゃん!」
ファイルを見て、私は思わず声を出した。
だってそのファイルの中。
「すごい!めっちゃちゃんと考えてるね!
教職目指してるの!?
絶対に似合うね!」
「え、えっと……はい!」
とってもぎゅうぎゅう詰めになったスケジュール。
どうやらやる気がないわけではないらしい。
必修に教職課程に必要な授業まで。
ちゃんと考えてスケジュールを組んでいた。
(あ、でもまだ喜ぶには早いか。
前期は単位落としてるわけだし。
もうちょっと話聞いてみようか。)
「でもこれだけ取って大丈夫?
ちゃんと頑張れる?」
「はい!大丈夫です!」
とっても自信満々だ。
やっぱり一応はお目付け役としてある程度同じ授業取っておこう。
スケジュールを写させてもらってると、このみちゃんがゆっくりと口を開いた。
「ていうか前期は……。
鈴ちゃんのことで集中できなかっただけですから……。
だから後期は大丈夫です……。
うぅ……頑張ります。」
ふむふむ。
そっか、そういえば前期は鈴の面影を追いかけてふらふらしてた時期か。
それを乗り越えた今なら、確かに心配はないのかも……。
(まあでも……。)
友達と一緒の授業、普通に楽しそうだし。
一緒に授業計画は中止じゃなくていいかな。
というわけで、いくつかの授業を一緒に取ることになった。
ただまあ……。
このみちゃんのやる気がなかった理由は鈴に伝えられないかな。
親友のよしみだ。
鈴のせいだってことは伝えないでおいてやろう。




