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余命60年の私と余命8億年の君  作者: とりもち
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みゆちゃんの運動会 午後の部


「ただいま。えへん。」


運動会のお昼休み。

みゆちゃんは鼻高々に私たちのレジャーシートへと帰ってきた。

なにから褒めようか。

褒めたいことだらけで迷ってしまう。


「おねぇさん、ウィンクみえた?」


みゆちゃんに先手を取られてしまった。

ワクワクとした目で私の顔を覗き込む。

私が頷いて頭を撫でると、みゆちゃんはまたえへん、と小さな声で誇らしげに笑った。


「みゆ、手は洗ってきたかい?」

「もちろん。おじいちゃんもほめてほめて。」


頭を傾けるみゆちゃんの頭を大家さんも撫でた。

みゆちゃんはまたふふふと笑うと、お行儀よくシートの上に正座をした。


「おむすびだ。」

お弁当の中身を見たみゆちゃんが楽しそうにひとつ手に取った。

見た目は全部同じ、小さめのおむすび。

でも中身は特別製だ。

「みんなでそれぞれ違うものを入れましたからね。

 誰がどの具材を入れたか当ててみてください。」

フランが説明すると、みゆちゃんはくすりと笑った。

「ふふっ。でもこれはかんたんだね。

 ことりちゃん、せいかい?」

少し不格好なおむすび。

小鳥の、すぐにバレてる。

あとで教えてあげなくちゃ。

「うん、正解だよ。中身は分かる?」

「おにく。」

食べるまでもなく、みゆちゃんは答えを言ってのけた。

うん、正解。

さすがみゆちゃん、小鳥のこともよく分かってる。


「おいしい。つぎは……これ。

 ぜったいフランちゃん。」

「えへへ……。正解です。

 どうして分かったのですか?」

「とってもきれいだもん。

 ほうせきみたいにきらきら。」

「お褒めにあずかり光栄です。」


ぱくぱくとどんどん食べていくみゆちゃん。

ひとつ食べるごとに、見事に正解していく。

ちなみに私は当てられないようにズルをした。

私とはまったく関係のない、たらこおむすび。

簡単には当てられまい。


「おねぇさんはたらこだ。

 だれにもかんけいないから。」

「くっ。さすがだね……!」


簡単に当てられてしまった。

私の捻れた性格も把握されている。

それはちょっとだけ嬉しい。


「ごちそうさまでした。

 おひるからもがんばってくるね!」


おむすびをお腹いっぱいに食べたみゆちゃんは、元気よく立ち上がって自分の席へと駆けていった。

もうちょっとゆっくりしていってもいいのに。

でもそれだけやる気に満ちてるんだもんね。

お昼からも頑張れ、みゆちゃん。


次の競技は綱引き。

実は綱引きもお家でちょっと練習していた。

小鳥に紐を持たせて一生懸命に引っ張る練習。

二人三脚で構ってもらえなかった小鳥は、それはもう楽しそうにしていた。


中腰に構えて美しいフォーム。

みゆちゃんの姿は、ごちゃごちゃとした1年生たちの中で綺麗に際立っていた。


「あ、あー……。」


だけどさすがにみゆちゃん1人がすごくても、すんなりと負けてしまった。

綱引きは団体競技だからね。仕方ない。


「みゆ様、むすーっとしてますね。」

「ふふっ。練習してたもんね。

 あとで慰めてあげなきゃだ。」


みゆちゃんの次の出番はまた1時間後。

それまでむすーっとしてたらかわいそうだけど……。

みゆちゃんはしばらくしたらニコニコと他の学年の綱引きを応援し始めていた。


(さて!そろそろ私も準備を始めよう!)


そう、次の出番とは保護者との二人三脚なのだ。

私も軽く準備体操しておかねば。

みゆちゃんに恥はかかせられないからね。


「ちょっと体ほぐしてきますね!」

「いってらっしゃ〜い。」


大家さんに見送られて、私たちは少し開けた場所へ。

まああんまり走ったりはできないけどね。

軽く手足をぶらぶらさせたり、アキレス健を伸ばしたり。


「みゆ様、さっき負けて悔しそうでしたからね。」

「うん、絶対に負けられない戦いだ……!

 みゆちゃんのために頑張るぞ!」

「ねぇ、もしかして津留崎つるさきさんのお姉さん?」

「ひゃっ!」


急に話しかけられてびっくりして飛び上がってしまった。

な、なにもの!?


「ごめんなさい、みゆちゃんって聞こえたから。

 それに津留崎さんに聞いてた通りでしたから……。

 つい、声をかけてしまいました。」


熟練といった雰囲気の女の先生。

津留崎……はみゆちゃんの苗字だったかな。

苗字で呼ぶってことは……。


「あ、みゆちゃんの先生ですね。

 いつもみゆがお世話になっております。」


頭を下げると、先生も頭を下げた。

ていうかみゆちゃんは私のことをなんて説明してるんだろう?

彼女って説明してたらさすがにまずいぞ。

しょっぴかれてしまいかねない。


「近所のお姉さんですよね。

 いつも楽しそうにお話してくれてますよ。」


柔和な笑顔。

そんなニコニコと言われると、少し照れてしまう。


「津留崎さん、二人三脚すごく楽しみにしてましたよ。

 先生としてはこんなこと言っちゃだめだけど……。

 二人のこと応援してますね。」

「せんせい、ありがとうございます。」

「うわっ!」


不意に現れたみゆちゃんに、先生も飛び上がって驚いた。

当然だけど、私も驚いた。

さっきまで自分の席にいたのに、いつの間にここまで。


「せんせいとおねぇさんみえたから。

 こちら、わたしのじまんのおねぇさんです。」


みゆちゃんは私の腕を取ってそう紹介してくれた。

さすがに彼女であるとは紹介しないらしい。

ちょっと一安心だ。


「それとかのじょでもあります。」

「ふふっ良い彼女さんよねぇ。

 津留崎さんはモテモテね。」


しっかり彼女だと紹介されていた。

いや、厳密には彼女の彼女って関係だけどね。

私とめぐるちゃんが付き合ってて、めぐるちゃんとみゆちゃんが付き合ってるわけだから。

でも先生は冗談だと思ってくれてるっぽい……。


「あはは。そうなんですよ~。」


私は笑って誤魔化した。


「じゃあ私たちは戻るわね。

 津留崎さん、席に戻りましょう?」

「うん。ばいばい。またあとでね。」


二人に手を振って、私たちもレジャーシートに戻る。

その最中、フランが私のシャツの裾をちょんと引っ張った。


「ふふっ。みゆ様、あれわざとですね。」

「うん、知ってる。外堀を埋めにきたね。」


確実にあれは失言なんかじゃない。

ずっと昔から純愛だったというストーリーのために、今から種を撒いてる。

恐ろしい子……。


それはさておき、私たちの出番はしばらく先。

そこからはのんびりと大家さんとお話したり、フランにお茶を淹れてもらって過ごした。


そしてしばらくして……。


『二人三脚に参加する保護者の方は、入場門へお集まりください。』


そんなアナウンスが流れた。

緊張するけどようやく出番だ。


「頑張ってくるね!」

「いってらっしゃいです!」

「うん、いってらっしゃ〜い。」


フランと大家さんに見送られ、ずんずんと進む。

入場門のところで、みゆちゃんは手を振って待っていてくれた。


「めざせ、なんばーわん。」


ぴっと人差し指を一本立てるみゆちゃん。

二人そろって気合いは充分。

がんばるぞ!おー!


それからそれから。

のんびりと順番を待って、私たちの番。

せーの、で私たちは息を揃えて走り出した。


(まあ、でも……。)


二人三脚の結果は圧倒的な勝利。

いや、よく考えたら殆どの保護者は主婦か運動不足のお父さん。

ちゃんと準備した大学生とみゆちゃんのペアは、それはもう圧倒的だった。


「よくがんばりました。

 おうちかえったらごほうびあげるね。、」


みゆちゃんは私を見上げて、そうニコニコと笑った。

これで私もみゆちゃんも出番は終わり。

あとは運動会の終わりを待つだけ。


最後のリレーで赤組が勝って、赤組優勝で終わり。

残念ながらみゆちゃん達白組は負けてしまった。


でもみゆちゃんのかっこいいところも可愛いところもたくさん見れた!

私はそれで満足。

それに帰ったらみゆちゃんお疲れ様パーティーだ。

たくさん労ってあげないと!

 


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