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余命60年の私と余命8億年の君  作者: とりもち
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みゆちゃんの運動会 午前の部


『ぼくらーはしろーいいーなづまだー♪』


白組の大合唱。

みゆちゃんの小さな声は他の声に紛れて聞こえない。

だけど1年生の列の一番前。

そこでみゆちゃんは一生懸命に口を開けているのが見える。


「ふふっ。みゆ、頑張れよ〜。」


隣で応援する大家さんが小さくつぶやいた。

大家さんもとっても楽しそう。

ニコニコとみゆちゃんが歌うのを見守っている。


「フラン、みゆちゃんの声聞こえる?」

「勿論です。とってもお上手ですよ!」


尋ねると、フランも嬉しそうにそう答えた。

フランがそういうなら間違いないだろう。

声は聞こえないけど、元気で可愛い声をイメージする。

ふふっ。すごく楽しいな。


今日の運動会に来れたのは私とフランと大家さんだけ。

さすがに本当の家族でもないのに、皆で来ることは叶わなかった。

だからこの可愛さはちゃんと記憶して持ち帰ろう。

あとで皆にもしっかり自慢しないと。


「あ、見て見て!みゆちゃん手振ってくれてる!」

「ほんとですね!私たちも振りましょう!」

「だね〜。みゆ〜、がんばれ〜。」


3人でみゆちゃんに手を振り返す。

そうすると、みゆちゃんはにこーっと笑ってちょこんと自分の席に座った。


みゆちゃんの出場競技は全部で4つ。

1年生の50メートル走。

1年生の集団ダンス。

それと赤組白組対抗綱引き。

それに最後に保護者との二人三脚。

だからまだしばらくの間、保護者はただ見守るだけ。

のんびりフランが淹れてくれるお茶でも飲みながら待とう。


応援合戦が終わり、1年生50メートル走はすぐに始まった。

順番は男の子が先のようで、ちいさな男の子たちがワイワイと走っていく。

フォームなんてろくにない、賑やかなレース。

見てるだけで微笑ましい。


「みゆ様の出番、あと少しですよ。」


そわそわとフランが肩を叩いてきた。

女の子のレースも始まって、みゆちゃんの姿が見えてきた。

ぴょんぴょんとその場で跳ねて、軽い準備体操。

そのまま最前列へ。


ぐっと腕を前に出して走る準備はおっけー。

私たちも固唾を飲んでスタートを見守る。


ぱぁんっ!


スタートの合図と共に、みゆちゃんは全力で駆け出した。

そしてあっという間にゴールについた。

圧倒的すぎる1位。

みゆちゃんがゴールしてから4秒くらいして、2位の子がゴールした。


「ぶいっ。」


みゆちゃんが私たちに向けて片手でピース。

そしてそのまま小さくスキップをして、自席へと戻っていった。


(分かってたけど、みゆちゃん強いなー。)


一人だけ別のエンジンを積んでるみたいだ。

2年生どころか、6年生と一緒に走っても勝てるんじゃないだろうか。

足も手も小さいのに、他の人の何倍も早く動いてた。

果てはオリンピック選手かな。

あ、でも頭もいいからなー。

金メダルとノーベル賞の2冠を取っちゃうかもしれない。


「褒めに行けないのがもどかしい……。」

「あとでたくさん褒めてあげてね。

 みゆ、きっとすごく喜ぶよ。」


大家さんはそう言って私を慰めてくれた。

まあでもそのとおりだ。

帰ったらみゆちゃんお疲れ様パーティーもするしね。

その時にたくさん褒めてあげよう。


「フラン、みゆちゃんのダンスは何分後だっけ。」

「全学年のかけっこが終わってからですからね。

 だいたい1時間後くらいですね!」

「それは中々だね……!

 みゆちゃんはお友達とかな……。」


ちらりとみゆちゃんを見る。

あれだけかっこよく走ったんだ。

きっと今ごろみんなのスターだろう。


(……あれ?)


みゆちゃんは椅子に座ってぼんやりと空を眺めていた。

他の子たちはめいめいにお友達とお話したり小突きあったり。

そんな中で1人だけぽつんと静かに座っていた。


「お嬢様、どうかしましたか?」

「……いや、なんでもないよ。

 それよりお茶もらってもいい?

 喉渇いちゃった。」


顔を覗き込んできたフランを誤魔化す。

みゆちゃん、学校に友達居ないのかな。

でも友達少ないだろうなんて話されるのも嫌だよね。

あんなにいい子なのに、なんでなんだろう……。


「はいお嬢様。冷たい麦茶です!

 お爺様も良ければいかがですか?」

「ありがとうね、いただくよ。」


冷たいお茶を啜ってみゆちゃんを眺める。

ただみゆちゃんは退屈そうにしているわけではなさそうだった。

白組が勝つようにちいさな声でずっと応援している。

白組の子が勝ったら嬉しそうに笑い、負けたら少ししょんぼりした顔。

楽しんでるならいいのかな。

そんなことを考えている間に、1時間なんてすぐに経ってしまった。


「見て、ポンポン持ってる!かわいい!」


みゆちゃんたち1年生は両手に黄色いポンポンをつけていた。

小さな子たちとポンポンの群れが入場門で待機してる。

もうその光景だけでテンションが上がってしまう。

まだ曲も流れてないのにポンポンがたくさん揺れてるのは、みんなきっとソワソワしてるから。

早く音楽流れないかな。

見てる私もそわそわしてしまう。


音楽が流れ始めた。

曲は『ミックスナッツ』。

イントロが流れ始めると、1年生たちは洪水のようにわーっと声を上げながら走っていった。


みゆちゃんの持ち場は私たちの目の前。

持ち場につくとみゆちゃんは私たちにウィンクを飛ばしてくれた。

かわいすぎる。

白組に一億点あげたい。


みゆちゃんのダンスはそれはもう可愛さの塊だった。

もう最初のウィンクだけでもやばいのに。

ただしゃがむとか走るとかジャンプするとか、その動作の隙間に差し込むようにファンサービスしてくれる。


(み、みて今投げキッスしたよ……!)

(笑顔もとっても素敵ですね。

 みゆ様、ダンスもすごくお上手です。)


フランも微笑みを浮かべてみゆちゃんを見守っている。

さすがのみゆちゃん。

危なげなんてひとつもなく、ダンスも佳境。

最後のサビに入った。


「あ!」


フランが唐突に声をあげた。

なんだろうと思う間もなく、そのアクシデントは起きた。


パタパタとみんなが走る中、みゆちゃんの隣の女の子が転んでしまった。


(あ……!)


みゆちゃんがポンポンを外してその子の手を取った。

そしてぼそぼそっとなにか言葉をかけたて、最後にその子の目元を拭って立ち上がらせた。

さっきまでのひたすら可愛いダンスとは違って、静かに行われたその行動。

私はそれに目を奪われた。


みんなとは少し遅れて、転んだ子と2人で決めポーズ。

私たちが拍手を送ると、みゆちゃんはにこりと微笑んで退場していった。


「みゆは優しいからね。

 僕はとっても誇らしいよ。」


ホクホクとした顔の大家さんはそう言ってみゆちゃんの後ろ姿に手を振った。


私もあとでたくさん褒めてあげないと。

お昼ご飯は保護者と一緒。

一緒にお話するのが楽しみだ。

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