運動会の練習、そのに
「ただいまー。
おねぇさん、またれんしゅうしたいな。
ににんさんきゃく、しよ?」
フランと小鳥と戯れていると、帰ってきたみゆちゃんが部屋に飛び込んできた。
手には足を縛るためのリボン。
ランドセルを下ろすこともなく飛び込んできたことから、相当に気合いが入っているらしい
「みゆ、あたしはどうだ?」
小鳥が二人三脚のパートナーに立候補した。
「いや。おねぇさんとがいい。」
みゆちゃんはにべもなく断った。
「な、なんで……。」
小鳥は相当にショックを受けていた。
でも小鳥を選ばない理由は前に聞いたからスルー。
今は気合いに溢れてるみゆちゃんが最優先だ。
運動会は明日。
みゆちゃんの晴れ舞台を彩るためにも、私も頑張らなければ。
「お嬢様、こちらへ。」
「ありがとね、フラン。」
フランが私をジャージに着替えさせて準備ばっちり。
とはいえフランも慣れたもの。
着替えには一分もかからなかった。
そわそわそわそわしているみゆちゃんを追いかけるようにアパートの駐車場へ。
さっそく練習をしよう!
「頑張れー。」
「お嬢様、みゆ様、ファイトです!」
今日は小鳥も見てる。
恥ずかしいところを見せないように頑張らねば。
「行くよ、みゆちゃん。」
私がそういうと、みゆちゃんは小さく頷いた。
みゆちゃんの準備もばっちり。
いちにっ。いちにっ。
みゆちゃんは小さく唱え始めた。
ゆっくりと2人の呼吸を合わせて……。
「いちにっ。いちにっ。いちにっ。いちにっ。」
「いちにっ。いちにっ。いちにっ。いちにっ。」
今日は最初っから絶好調だ。
息ぴったりのいいペース。
ゴールまで躓くこともなく、あっという間に走り切ることができた。
「お嬢様!早かったですよ!」
フランが嬉しそうに褒めてくれた。
私はそれにピースで返す。
「ちゃんとおぼえてたね。しゃがんで?
えらいえらいしてあげる。」
今度はみゆちゃんまで頭を撫でてくれた。
まあ二人三脚の練習してたの昨日のことだしね。
間に色々ありすぎたけど、これくらいならお茶の子さいさいなのです。
「ことりー!うらやましいでしょー!」
「いいよ!あたしはフラン撫でるから!」
みゆちゃんに撫でられながら、小鳥に手を降ってみる。
すると小鳥は対抗するようにフランを膝に抱えて撫で始めた。
それで対抗できると?
考え方があまりに甘っちょろい。
「みゆちゃん、私も撫でていい?」
「いいよ。なでて?」
みゆちゃんが私に向けて頭を傾ける。
その手は私を撫でたままに……。
つまり今、私たちはお互いに撫であっている!
一方的に撫でているだけの小鳥には負けないのだよ。
「むぅ……。」
手の先から少し不満げな声。
みゆちゃんが口を少し尖らせていた。
あれ、撫で方悪かったかな?
「いまはわたしのばん。」
「わ、ごめんね!小鳥ばっかり見てたね!
違うんだよ、小鳥の悔しがる顔が見たかっただけ!」
「じゃあもっとなでてー。」
みゆちゃんがぎゅっと私を抱きしめた。
よしよし、みゆちゃんは可愛いね。
小鳥の一億倍かわいいよ。
もう食べちゃいたいくらい。
「えへへ。てれる。」
集中して撫でると、楽しそうな笑顔に戻ってくれた。
きらきらとした笑顔。
さらに愛おしい。
でも5分くらいしたころ、みゆちゃんはそっと私の胸を押してなでなでタイムを終了させた。
「れんしゅうつづけよ?」
そそくさと紐を足に結び直すみゆちゃん。
だけどその顔はこころなしかツヤツヤしている。
満足してくれたみたいで良かった。
みゆちゃんが満足してくれたなら、私も幸せだ。
紐を結び直して、再スタートの準備はばっちり。
あとは2人で息をあわせるだけ。
「行くよー、ってあれ?どうしたの?」
「かんがえちゅう。」
腕をだらりと下ろした姿勢。
みゆちゃんはなにかを思案していた。
そしてカッと目を見開くと、大慌てで紐を解いてフランと小鳥のもとへと駆けていった。
え、なに。
もしかして2人と競争させようとか?
逆立ちしたって勝てるわけないよ?
30メートルほど離れた観客席。
そこでフランとみゆちゃんが何やら会話している。
小鳥がぶんぶんと首を横に振るのが見えた。
なにを会話してるんだろう…。
みゆちゃんがとてとてと可愛らしく戻ってきた。
でもその逆にフランと小鳥はアパートへと戻ってしまった。
「ちょっとまっててね。」
みゆちゃんは私の手を握ってそう言った。
「2人は帰っちゃったの?」
「ないしょ」
口元に人差し指で内緒のジェスチャー。
でもすぐに2人は戻ってきた。
なぜかその手に軍手を嵌めて。
「何それ?」
笑顔のフランに問いかける。
フランはすぐに答えを見せてくれた。
「こうするのです!
小鳥お姉様、タイミングは任せます!」
「あー……うん。」
なぜか結ばれてる2人の腕。
同時に地面に手をつき、そしてそのまま……。
同じタイミングで逆立ちした。
「さぁ勝負です!お嬢様!」
「がんばろ、おねぇさん。」
え、こわい。
なに、二人三脚ならぬ二人三腕?
ていうかフランはともかく小鳥はなんでそんなことできるの?
やっぱり改造人間なの?
「そんなドン引きの目で見んな。傷つくぞ?」
そんなこと言われたってこわいものはこわい。
早く終わらせないと。
逆立ちの人間が横に居るってけっこう不気味だ。
「ではハンデとして私たちはここから走ります。」
私たちの5メートルくらい後ろ。
そこに逆立ちのまま2人は構えた。
「がんばろ、おねぇさん。」
みゆちゃんは平常心。
すごい。
私は後ろに逆立ちしてる人がいるのすごく気になる。
「いちにっいちにっいちにっいちにっいちにっ。」
スタート前。
息を合わせるためにそう呟く。
みゆちゃんと呼吸が重なっていくのを感じる。
「スタートです!」
フランの声が響いた。
私たちもそれに合わせて足を前へと踏み込む。
「いちにっいちにっいちにっいちにっ。」
「いちにっいちにっいちにっいちにっ。」
みゆちゃんと一緒に掛け声をあげて前へ。
大丈夫。
向こうは逆立ちだし、スタート位置も後ろ。
そうやすやすと追いつかれは……。
「ひゃっ!」
「わっ!」
あっという間に横に並ばれた。
私はそれに驚いて、息が乱れた。
その隙に2人は私たちを追い抜いてゴールへと駆けていく。
後ろ姿も中々の恐ろしさ。
いや、フランがこわいわけじゃないけどね。
二人三腕なんて見たことなかったから……。
その後ろ姿を追うように私たちも体勢を立て直して、前に向かって走る。
ただ勢いを殺した私たちでは追い抜けず、当然のごとくに2位だった。
「ふふっ。私たちの勝利です!」
逆立ちしたままドヤ顔のフラン。
逆さまであってもフランはかわいい。
「ね、もういっかいしよ。つぎはまけないよ。」
「望むところです。みゆ様。」
というわけでもう一勝負。
小鳥は達観した顔で流れに身を任せている。
なにも言わずに、さっきのスタート地点を向くように身体をぐるりと反転させた。
(まあ明日、みゆちゃんに楽しんでほしいしね。)
私も覚悟を決めよう。
次はびびったりするもんか。
そして私たちはまた走り出す。
運動会まであと少し。
みゆちゃんの思い出に残る運動会のために。
私たちは何度だって走るのであった。




