昔、私は王子様だった
助手席からフランの運転を眺める。
それは私よりも上手で、一切の危うげがない。
もう日は落ちて暗くなった世界。
喋らないでいると尚更気は滅入るばかりだった。
「……チューリップ畑、気に入ってくれた?」
何か喋ってないとさっきのことを思い出す。
どうにか私は口を動かす。
「はい!とても綺麗でドキドキしました!」
フランはニコニコとそう答えてくれる。
まるでさっきのことをなかったことにするように。
その後も私とフランは違う話をし続けた。
フランの料理のこと。
明日は何をしたいか。
小鳥に送ってもらったことへの埋め合わせのこと。
でも先に耐えられなくなったのは私だった。
「ねぇフラン。
……フランはさっきのこと気にならない?」
私が王子様だった頃の話。
そしてこんな風になってしまうまでの話。
忘れたくてしょうがない、私の話。
その質問にフランは……
「なんの話ですか?
私にとってお嬢様はお嬢様です!
王子様の頃の話なんて私には関係ないですよ?」
そう言ってきょとんとした。
「あ!でも王子様の格好は見てみたいです!
すごく似合うと思います!」
フランの顔を見るとすごく目を輝かせていた。
そっか、この話題を避けてたんじゃなくて本当に興味がなかっただけなんだ。
フランにとっての私は、今のちょっと駄目な私。
小鳥と同じで、昔の私なんか気にしない。
「ありがとね、フラン。」
私は改めて礼を言う。
「?ありがとうございます!」
ちょっときょとんとしたあと、フランは嬉しそうに笑った。
多分もうあの子と会うこともない。
もし会う時があっても、その時は『もう王子様じゃないよ』ってちゃんと言えるだろう。
「ってあれ?」
あの子のことを思い浮かべたら、彼女がどこに居るか分かってしまった。
そういえば腕輪、起動したままだった。
1時間ほど運転したのに、あの子は全然動いていない。
せいぜい50メートルくらい。
外はもう暗い。
女の子が1人で歩くには危ない時間。
「……ごめん、フラン。
ちょっと戻ってもらっていい?」
フランにお願いして来た道を戻る。
王子様じゃないよって言うのはもうすぐ後になりそうだった。




