新しい朝のランニング
「改めておはよう。めぐるちゃんの彼女2号。」
いつものラジオ体操の開始時刻より10分遅れて、私たちは全員集合した。
そして小鳥にそういうと、小鳥はため息をついた。
「……それだとお前はいちごうになるぞ。
メイドさんと被るからその呼び方やめろ。」
うん、それは確かに由々しき事態だ。
もう二度と呼ばない。
「はやくはじめよ?
しょうがっこうにおくれちゃう。」
「わ!ごめんね!」
それも確かに由々しき事態だ。
大急ぎでラジカセのスイッチを押してラジオ体操開始。
そっか、みゆちゃんはもう学校始まってるんだもんね。
朝からバタバタしちゃってごめんね。
そうして私たちはラジオ体操をいつもより全力で乗り越えた。
私も今のシチュエーションに少し燃えてるのかも?
そんな気がちょっとだけした。
倫理的には駄目なんだけどね!
というわけでラジオ体操も終わり。
いつもなら私とフランと小鳥とみゆちゃんの4人でランニングだけど……。
今日はやっぱりめぐるちゃんも来てほしいよね。
その思惑が全員一致したのか、みんな同時にめぐるちゃんの方を向いた。
「え、えっと……。私は走れないですよ?」
めぐるちゃんは手をパタパタと拒否の姿勢。
だけどみゆちゃんがその手を取った。
「きょうはいっしょにあるきたいな。」
「え、えっと……。そうだね。えへへ……。」
めぐるちゃんは一瞬で陥落した。
みゆちゃんに手を取られてゆっくりと私たちの方へと歩いてきた。
めぐるちゃんのもう一方の手。
ちょっと迷って、小鳥が握った。
私はそんな小鳥の手を握り、横に並ぶ。
みゆちゃん、めぐるちゃん、小鳥、私、フラン。
みんなで横に並ぶと中々壮観だ。
早朝じゃなきゃ通行の邪魔だと怒られてしまうだろう。
「いってらっしゃ~い」
大家さんの声に見送られて、私たちはランニング……もといお散歩へと出発した。
「かのじょとおさんぽっ。うっれしいっな。」
みゆちゃんの足が軽やかに高く跳ねる。
みんなで手を繋いでいるから、その振動は私のところまで届いた。
「えいっ。」
「わっ」
今度は私が思いっきり跳ねてみる。
すると端っこのみゆちゃんが驚いたような声をあげた。
「おいバカ。危ないからやめろ。」
「へい小鳥ー。これしきが危ないだって?
腕が鈍ったんじゃないのかい?」
「……。」
小鳥は顔に青筋を立てた。
ちょっと怒ってる。
まあでも軽口に怒れるならいい関係かな。
変に距離感を探られるよりも気楽だ。
「みゆちゃん、同時にジャンプしよ!」
「うん、わかった。」
「せーの!」
私とみゆちゃんで同時にジャンプ。
精一杯の力で跳ねたけど、小鳥とフランとみゆちゃんがうまいことバランスを取ってくれた。
危なげなく着地!
やったぜ。
「あれ?ねぇ小鳥?ね、ねぇなんか力強くない!?
やめっ!いたいっ!!」
安全に着地できたのに、小鳥が手を強く握ってきた。
ぎゅーって優しい効果音じゃ説明できない。
ぐぎぎぎとかミシミシとかそんな感じだ。
「痛いの痛いのとんでけです。」
フランは左手を撫でてくれてるけど、小鳥に握られた右手の痛みを緩和することはできてない。
とても痛い。
これが彼女仲間にすること?
あまりに容赦がない力のいれっぷりだ。
「ひ、ひどい!」
私が抗議すると、小鳥はぷいっとそっぽを向いた。
「お、王子様。大丈夫ですか……?」
2つ隣からそんなめぐるちゃんの心配する声。
そうだ、良いこと思いついた。
「めぐるちゃん、小鳥とチェンジして!
彼氏として私を守って!!」
「え!?え、えっと、はい!」
めぐるちゃんと小鳥の位置が変わった。
これで私を懲らしめるものはいない。
「ふぅ……。
これで大魔王から離れられたぜ。」
「ぁ゙ぁ?」
小鳥がこわい声を出してるけど構うものか。
今!私の隣には!彼氏が居るのだから!
「もう暴力はできないよ。
めぐるちゃんが守ってくれるんだから。」
「え、う、うん。頑張ります!」
めぐるちゃんも意気込みながらそう応えてくれた。
彼氏とはいいものだ。
悪い人から私を守ってくれるのだから。
「さぁ行くよ。小鳥のおバカ!」
「めぐる、みゆ、ちょっと悪いな。」
「う、うん。」
「うん。」
小鳥は2人から手を離してこっちに向かってきた。
あ、まずい。
逃げようとしたが、フランが私の手を掴んだまま。
「た、タンマ!ひゃっいたいっ!」
「お嬢様、理由もなくおバカって言っちゃだめです。」
小鳥にデコピンされ、フランに嗜められた。
味方がいない……。
「え、えっと……。ごめんなさい。
今のは王子様が悪いと思ったので……。」
めぐるちゃんが私に謝ってきた。
うむ、すごく妥当な理由だ。
「いいんだよ。今のはね。
めぐるちゃんの判断力を見極めるための試練。
よく合格したね。」
めぐるちゃんなら手を離して、その頭を撫でる。
よくできました。
よし、これで私の株が落ちることはない。
「めぐる、こいつ追放しようぜ。」
「な、なんでさ!?」
「あの流れで師匠ヅラすんのむかついた。」
小鳥は意地悪だ。
でも私の彼氏はめぐるちゃんだから。
そんな悪い提案には乗らないだろう。
「う、うーん……。」
「め、めぐるちゃん?迷ってないよね?」
「おばかっていっちゃだめだからね。」
やばい。
めぐるちゃんとみゆちゃんの二人も渋い顔してる。
「ごめんなさい。おばかはもう言いません。」
私が謝ると、めぐるちゃんはほっと一息ついた。
どうやら許してもらえたらしい。
「めぐるちゃん、ばしょかわってー。」
「うん。いいよ。」
今度はみゆちゃんとめぐるちゃんが場所チェンジ。
現在の位置はめぐるちゃん、小鳥、みゆちゃん、私、フラン。
小さい二人に挟まれて幸せ。
「よしよし。あやまれてえらいね。」
「お嬢様。ご立派でしたよ。」
しかもめちゃくちゃ褒めてくれる。
正直褒められるようなことはしてないけど……。
褒めてもらえるならいっか!
嬉しいな。楽しいな。
「そろそろ折り返すか。」
小鳥の言葉に全員でうなづいて、手を繋いだまま回れ右。
いつもよりもずっと早い折り返し。
今日は平日。
私と小鳥は来週からだけど、めぐるちゃんとみゆちゃんは学校があるのだ。
「デートしたいな。がっこうやすんじゃだめ?」
みゆちゃんが私を見上げてそう聞いてきた。
うるうるとした目。
いいよって答えたい…。
「みゆ様、それはダメですよ。
運動会の練習がありますよね?」
「じょうだん。えへへ。」
みゆちゃんは悪戯な笑みで私の手の甲にそっと口をつけて、小さくぴょんっと跳ねた。
「……っ」
まあ私は不意打ちに強くないので、なにも言えずにぎゅっと唇を結んで堪えることしかできなかった。
「おねぇさん、どうしたの?」
ニマニマと見上げてくるみゆちゃん。
ああもう。
「ふらん……ちょっと手を離して……。」
「はい!」
「わ、おねぇさん?わ、わ、わ、。」
くしゃくしゃとみゆちゃんの頭を撫でる。
そしてフランと手を繋ぎ直した。
みゆちゃんもフランも笑顔。
ちゃんと年長者としてのプライドも見せれた?はず?
「おねぇさん、だいすきだよ。」
「……っ!!」
やっぱり見せられなかった。
ぐへぇ。
みゆちゃん、それはずるい……。
そのままみんなで歩いて、アパートの前。
そこで解散して朝ごはん。
みゆちゃんは大家さんの部屋で。
めぐるちゃんは自分の部屋で。
小鳥はフランと私の部屋で。
いつもどおりな朝ごはん。
「行ってきますね!」
「いってきます。」
いつもよりもちょっと遅れたから、今日は大家さんが2人を駅まで車で連れて行ってくれることになった。
手を振る2人を、残った3人で見送る。
私、フラン、小鳥の3人が残された。
「ねえ、3人でどっかでぱっと遊ばない?
付き合った記念に!」
私が提案すると、小鳥もフランも頷いてくれた。
さあ、どこへ行こうか。




