恋バナと少しの寂しさ
この小さな部屋シャッフルを提案したのは私だ。
それは勿論めぐるちゃんと甘いひと時を過ごしたかったから……。
というだけではない。
一番の目的は恋バナ。
同じ部屋に住むめぐるちゃんから見た小鳥の話が聞きたいから開催したのだ。
深く考えないようにしてたけど……。
めぐるちゃんは私と小鳥、どっちが好きなんだろう。
ああでも本当は分かってる。
恋心を向けているのは小鳥に対してだろう。
キラキラとした目で小鳥を見つめる姿。
あれは確実に恋をしている。
私の目に曇りはない。
(雛乃とめぐるちゃん、2人とも応援したいし。
めぐるちゃんからの話も聞いておきたいな。)
時刻は22時。
お布団を隣に並べて距離も近い。
時間も場所も恋バナするのに最適な環境だ。
恋バナに繋げるための会話のロードマップも完璧。
なのでさっそく作戦開始!
根掘り葉掘り聞き出してやる!
「ねぇめぐるちゃん……。」
「王子様、恋バナしませんか?
お泊りの醍醐味ですよね??」
「え、えっと、うん。」
先手を取られてしまった。
ロードマップは捨てるしかない。
うん、ショートカットショートカット。
準備は無駄になったけど良いことだ。
あとはめぐるちゃんから聞き出せればミッションコンプリート。
腕が鳴るぜ。
まずはジャブから。
軽い質問にしよう。
そう思って息を吸い込んだ時だった。
「小鳥ちゃんのこと好きなんですよね?」
その質問に私は吸い込んだ息を詰まらせた。
いつか聞かれたのと似た質問。
あの時はなんて答えたっけ。
(……いや、でも今は。)
「友達として好きだよ。
私たちはこの距離感が一番だから。」
ただそう答えた。
だって意識して距離を感じるの嫌だもん。
気楽に話せる友達のままがいい。
それは何度も自分に言い聞かせたこと。
今さらぶれたりはしない。
「え、え、ほんとにですか……?」
「ほんとにほんと。
小鳥は私の大親友。」
めぐるちゃんは訝しげな目で見てくる。
でもそうとしか答えられないもん。
そんな目で見られても答えは変わらない。
「小鳥はかっこいいけどね。
逆にめぐるちゃんは?
小鳥のことどう思ってる?」
深堀りされる前に、めぐるちゃんに話題を振る。
ちょっと何か言いたげな表情。
それでもめぐるちゃんは私の質問に応えてくれた。
「……大好きですよ。」
ちょっとだけ言葉に詰まった。
だけどその赤らめた顔は恋してることを雄弁に語っていた。
「やっぱり!
ねえ、どこが好きなの??」
「え、えっと……。
常にかっこいいんだけど、本当は照れ屋さんで……。
それでもやっぱりかっこよさが勝るところ……。」
分かる分かる。
そう、かわいいけどやっぱりかっこいいんだよね。
見る目あるよ。
さすが一緒に暮らしてるだけのことはある。
「あとはちょっと支えなきゃってなるところです……。
小鳥ちゃん、あれで不摂生ですし……。」
「うん、皆のお姉さんぶってるけどね。
脇が甘いところあるもんね。」
「あとは……。」
めぐるちゃんの口からどんどん出てくる小鳥の良いところ。
もうこれは確定だろう。
でもやっぱりちゃんと言葉で聞きたい。
小鳥のことをどう思ってるか。
「ねぇめぐるちゃん。
1個だけ聞いてもいい?」
めぐるちゃんが息を呑んだ。
きっと私がなにを聞きたいか察したんだろう。
「小鳥のことはどんな好き?
友達として?
それとも恋愛的な好き?」
一拍だけ。
ほんの少しだけ間を置いて、めぐるちゃんは口を開いた。
「恋愛的な好きです。
私は小鳥ちゃんとお付き合いしたいです。」
いつもの少しおどおどとした様子は微塵も感じられなかった。
そんな力強い宣言。
(でもそっか。)
なんだか各方面に敗北感。
私はめぐるちゃんみたいに強く宣言できない。
それにやっぱりめぐるちゃんが好きなのは小鳥。
知っては居たけど、心にずきりとしたものを感じる。
めぐるちゃんから私へは敬愛。
それが確定したのは、少し寂しい。
「王子様?どうかしましたか……?」
「大丈夫。ちょっと小鳥に嫉妬しちゃった。」
わずかに沈黙。
その直後、めぐるちゃんの目が輝くのが見えた。
「こ、小鳥ちゃんに嫉妬!?
な、なんでですか???」
「わ、え、ど、どうしたの!?」
自分の布団から飛び出して私の布団へ身を乗り出す。
めぐるちゃんは明らかに興奮していた。
「え、えっと……。
めぐるちゃん取られて寂しいなー……って。」
それだけ答えた。
でもたったのそれだけなのに、めぐるちゃんは掛け布団を抱えて悶え始めた。
その様子を見守ること3分間。
動きが一度止まった。
そしてのそのそと私の布団に入り込んできた。
「これで寂しくないですよね。
今日は一緒のお布団がいいです。」
頭にはまだ疑問符がたくさん。
でもありがたい申し出。
寂しかったのは確かだから。
細い身体が私を抱き寄せる。
私はそれに身を任せて身体から力を抜いた。
温もりの中、瞼が落ちていく。
ああでも駄目だ。
めぐるちゃんが好きなのは小鳥なのだから。
「めぐるちゃん、駄目だよ。
めぐるちゃんが好きなのは小鳥でしょ……?」
「駄目じゃないですよ……?
だって私は……。
いえ、なんでもないです。」
めぐるちゃんは最後にそれだけ言って、私を強く抱きしめた。
私はもうそれ以上なにも言えずに、そのままその胸の中で眠りについた。
温かいのになぜだか寂しい。
そんな不思議な夜だった。




