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余命60年の私と余命8億年の君  作者: とりもち
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みゆちゃんの二人三脚練習


「おねぇさん、たすけてー。」


みゆちゃんは小学校から帰るなり、私の部屋に来てそう言った。

私の足に抱きついて顔をグリグリと押し付けてくる。

可愛い。

どんな用事でも助けてあげたくなる。


「フランちゃんもたすけてー。」


私の足から離れて、今度はフランへ。

みゆちゃんはフランに撫でて貰うとニコニコしながら、私とフランを外へと連れ出した。


「うんどうかいのれんしゅうしたいの。

 おてつだいしてほしいな。」


みゆちゃんの手にはハチマキが握られていた。

運動会、今週末だもんね。

みゆちゃんなら余裕だと思うけど、一緒に練習できるの嬉しいな。

何すればいいんだろ?


「ににんさんきゃくするの。

 おねぇさんおてつだいして。」

「?でもそれならフランの方が良くない?

 背丈もフランの方が近いよ?」

「ううん、おねぇさんがいいな。」


よく分からないけど、みゆちゃんのご指名ならしょうがない。

しゃがんでみゆちゃんの左足と私の右足を結ぶ。

大学生と小学生。

なんとも不格好な二人三脚が完成した。


みゆちゃんの肩に手を伸ばすと、みゆちゃんは私の腰に手を回した。

これで体勢もばっちり。

身長差はあるけど、けっこうな安定感。


「フラン、転びそうになったら頼むね。」

「もちろんです。安心して練習してくださいね。」


さらに私たちの後ろにピタリとフランがついた。

これなら心配なんて1つもない。


「じゃあまずあるくれんしゅうね。

 いっちにっ。いっちにっ。」


みゆちゃんが掛け声を出す。

私はそれに合わせて小さく足を前に出す。

とっても小さく不確かな歩幅。

後ろにフランが居るとはいえ少し緊張する。


「おねぇさん。ペンギンさんみたい。ふふ。

 ペンギンさん。ふふふ。」


私の歩き方がツボに入ったのか、みゆちゃんは声を抑えて楽しそうに笑い始めた。


「みゆ様?集中しないと危ないですよ?」

「えへへ。ごめんなさい。いっちにっ。いっちにっ。」


改めてゆっくりと歩き出す。

どっちの足から出そうとか決めてなかったけど、それで躓くようなこともない。


「とうちゃーく。」

「到着!完璧だね!」


あっという間にゴールまでついた。

ふふふ。中々悪くなかったんじゃないかな。


「おねぇさん、なでなでしてあげる。」

「ふふふ、ありがとね。」


みゆちゃんがぽんぽんと地面を叩いて、座るように促した。

言われるがままにしゃがみ込むと、みゆちゃんが頭を撫でてくれた。

いい気持ちだ。

頑張ったーって感じする。


「じゃあつぎははしろうね。」

「うん、次は……え?」


走るの?

危ないよ?


みゆちゃんが立つように促した。

そして小さな手で拍手。


「いちにっ。いちにっ。いちにっ。いちにっ。

 このペースでいくよ。いちにっ。いちにっ。」


え、無理。

絶対に危ない。

年長者として止めなきゃ。

絶対にこけちゃうよ?


「みゆちゃん、走ると危ないよ。

 やめた方がいいと思うな。」

「お嬢様、走らなきゃ勝てないですから。

 頑張ってください!」


フランに嗜められた……。

私が間違ってるの……?

だってすごい身長差だよ!

絶対に転ぶと思うな!


「たって、たって。」


ぼんやりとしてる私の手をみゆちゃんが引っ張る。

もう逃げられない。

私は勇気を出して立ち上がった。


「転びそうになったら支えます!

 さっきと同じことを早くやるだけです!」


いくらフランが支えてくれるとはいえ、転ぶと分かってるものをするのは恐ろしい。

ああでも頑張れ、私。

みゆちゃんにかっこいい所を見せたくないか?

うん、見せたい。

だよねー。

自問自答でどうにかやる気をあげる。

後ろでフランが手を叩き始めた。

走る時は近い。


「いちにっ。いちにっ。いちにっ。はいっ。」

「……いちにっ。いちっわっ!」


踏み出して数歩でよろめいた。

その瞬間、フランが私の手を取って強く引っ張った。

不思議なことに肩への負担もない。

あっという間に元の姿勢。


「ちょっとだけ踏み出すタイミングズレてました。

 でも踏み出したのは偉いです!この調子です!」


フランはそう言って褒めてくれた。

相変わらずの甘い評価。

でも褒めてもらえた以上は頑張らなくちゃだね。

よし、次!


たん、たん、とフランの手の音。

次にみゆちゃんの掛け声。

落ち着いて、一歩踏み出す。


「いちにっ。いちにっ。いちにっ。いちにっ。」

「いちにっ。いちにっ。いちにっ。いちにっ。」


さっきよりもずっといいペース。

流れに乗れた。

もつれることなく、ゴール地点まで走り抜けることができた。


「おねぇさんすごいよ。ちゃんとはしれたね。」

「ふふふ。どやぁ。えへん。」

「えらいえらい。かわいい。かっこいい。」


みゆちゃんがたくさん褒めてくれる。

めっっちゃ嬉しい。

ちゃんと練習相手になれた。

ふふふふふふふ。


「はやかったよ。」

「えへへ。」

「りずむかんいいね。」

「そうかなぁ。えへへ。」

「ほんばんもだいじょうぶだね。」

「本番?」


え、本番?


「うん、ほんばん。いっしょにはしろうね。」

「ちょ、ちょっと待って。

 本番?どういうこと?」


これは運動会の練習だよね。

二人三脚、友達と走るんじゃないの?


「ほごしゃににんさんきゃくでるの。」

「保護者二人三脚……。」


で、でもなんで私と?

小鳥やフランの方がよくない?

絶対に勝てるよ?


「小鳥やフランは?」

「ずるいからいや。」

「大家さん……。」

「ずるいからいや。」

「雛乃!」

「あぶないからだめ。」

「鈴は?」

「かわいそう。」

「私は?運動苦手だよ?」

「いいはんで。」


良いハンデとな。

そっか……。

でも小鳥やフランは確かに競技としてはつまらないかもだしね。

ていうか大家さんもその枠なんだ……。

恐ろしい。


「だからいっしょにがんばろ?

 わたし、おねぇさんとはしりたいな。」


キラキラとした目のみゆちゃん。

そんな目で見られちゃ……。


「よろしくお願いします……。」

「うれしい!ありがとね!」


みゆちゃんが私の腰に力強く抱きついた。

かわいい……。


(でもハンデかー……。)


よし、頑張ろう!

目指すは絶対的な1位!

下馬評なんてひっくり返して、かっこいいところを見せよう。


「もう一回いい?」

「もちろん。がんばろうね。」


振り返りさっきのスタート位置を見据える。

いちにっ。いちにっ。

フランの掛け声を聞きながら、私たちはまた一歩を踏み出した。


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