お家映画会の準備
まずいことになった。
フランが今日の夜に映画を観たいらしい。
それでアパートのグループラインに呼びかけたんだけど……。
『大丈夫。なんの映画観んの?』
『ごめんね。おじいちゃんとみたいテレビある。』
『ごめんなさい!野暮用があって……。
今日は帰り遅くなるので……。』
ということで小鳥しか観れないらしい。
これはまずい。
小鳥とフランと3人。
しかも夜だなんて。
いかがわしいことになりかねない!
対策しないと……。
「一緒に映画見ませんか?」
「……え、いやなんで?」
山城さんの部屋。
声を掛けると不思議そうな顔をされた。
「あ、ごめんなさい……。
忙しいなら大丈夫ですが……。」
「……ううん。今日も暇だよ。
でもなんでそう私を誘うの?
嬉しいけど……。変な感じする……。」
フランを抱えながら、山城さんは頭の上に疑問符をたくさん出した。
でも来てほしいんだよな……。
山城さんがいてくれたら、変な雰囲気になることもないだろうし。
でもそれを直接伝えるのはなー……。
「山城さんとも仲良くなりたいなって。
えっと……だめでしょうか?」
「……うっ。そ、そんなに言うなら……。
えっと……ありがと……。」
山城さんは照れながら了承してくれた。
良かった。
これであんまりドキドキしなくて済みそう。
「お嬢様。そういうのは良くないです。」
だけどフランが私の建前を許してはくれなかった。
執事として看過できないらしい。
責めるような目で私をじとーっと見ている。
「……フランちゃん。どうしたの……?」
「お嬢様が悪い嘘をついてます。」
「え、え、そうなの202ちゃん……?」
じとーっとした目が増えた。
2人の4つの目が私を見つめる。
もう諦めるしかないか……。
「ごめんなさい。
仲良くなりたいのもそうだけど……。
ちょっと他に理由あって……。」
私がそう言うと、山城さんはビールの蓋を開けた。
「……理由によってはやけ酒するよ。
私の心は傷つきやすいから気をつけてね。」
目つきは変わらずじとついたまま。
私が正直に言うのを待っている。
フランも裾を何度も引っ張って急かしてくる。
もう逃げられない。
「小鳥と暗い部屋で一緒だと……。
えっと……。
なんか変な空気になりそうで……。
山城さん居たらそんな風にならないかなって。」
山城さんはごくごくとビールを飲んでいる。
めちゃくちゃ申し訳ない……。
「……ぷはっ。私そう言う話好き。
もっと話して。肴にするから。
つまり小鳥ちゃんのこと好きなんだね。」
「!?い、いや好きではないですよ!?多分……。」
すごくニヤニヤしている。
もうやけ酒ではないみたいだ。
ただそれはそれでしんどい。
人に話すの小っ恥ずかしいし。
「……じゃあ好きじゃないのに変なことするの?」
「い、いやそこも色々あるんですよ。」
「……ふーん。色々ね。」
最初に失礼を働いたのは私だけど、この状況はとても辛い。
山城さんは分かったような顔でにやりと笑っている。
フランは正直に言えて偉いですと言うように頭を撫でてきている。
自分の部屋に逃げ込みたい……。
ぴんぽーん。
チャイムの音。
そしてとんとんとノック。
「……あ、もしかして。ふふふ。」
山城さんは悪い笑みを浮かべてのそのそと扉を開けに行った。
チャイムを押したゲストの正体。
それを見て言える言葉はたった1つだけだった。
「げ」
「げ」
どうやら相手も同じことを思っていたみたいだ。
綺麗に言葉が重なった。
「小鳥お姉様!」
フランが小鳥を大喜びで出迎えた。
ただ私はとても気まずい。
だって山城さんすごくニヤニヤしてるんだもん。
その綺麗な顔を歪めて、私が何か言うのを待っている。
「えっと……小鳥。なんで来たの?」
「いや、山城さんも誘おうかと思ったんだよ。
ほら、山城さんともっと仲良くなりたくてさ……。」
ひゅーっと山城さんが口笛を吹いた。
その言い訳はもう私が使った。
微笑ましい目で見られるからやめて欲しい。
「な、なんだよその目は。」
小鳥が少し焦りだした。
さすがに今の生暖かい空気感に気づいたらしい。
「小鳥、いったん帰ってぇ。」
きょろきょろしてる小鳥をぐいぐいと玄関まで押す。
小鳥も少し恥ずかしかったのか、抵抗なく締め出すことができた。
「……なんで小鳥ちゃん追い出しちゃうの?
せっかく楽しくなりそうだったのに。」
山城さんはポリポリとピーナッツを噛みながらそう言った。
「小鳥と変な空気になりたくないからなんて、本人の前では言えないですよ。なんかそういう空気を望んでるかも……とか勘違いされたくないですし。それに本当に小鳥とはただの友達ですから。それ以上のこととかのぞんでないですし。」
「……すごく早口だね。」
私の言葉を遮って、山城さんはおつまみを机に置いた。
そしてゆっくりと私の背中を押し始めた。
「……いいよ。映画一緒に見てあげる。
夜まで寝るからまたね。」
「わ!ありがとうございます!
メアリお姉様とご一緒できて嬉しいです!」
「……でも私は一切喋らないからね。
楽しみにしてる。」
そのまま山城さんに押されて、フランに手を引かれて部屋から出た。
外では小鳥が突っ立っていた。
「山城さんも来てくれるって。」
「……そっか。分かった。」
そういうと小鳥は自分の部屋へと戻った。
なんだか少しだけ気まずい。
(……旅行の前の方が気楽だったかも。)
ふとそんなことを感じてしまった。




