夏の終わりの最後の課題
夏の終わりの最後の課題
9月に入って、沖縄も終わった。
まだまだ暑いが、気持ち的にはこれから秋だ。
でもその前に。
とんとんっ
一階に住む山城さんに旅行のお土産を渡すため、下の階の扉を叩く。
お土産を渡せば、私の夏は完璧に終わりだ。
時刻は夜中23時。
山城さんの活動時刻。
「……どうしたの?」
扉がゆっくりと開き、山城さんが顔を出した。
相変わらず眩い金色の髪に宝石のような赤色の目。
もし外を歩けるなら誰もが振り向くような美貌だ。
滅多に姿を見ないから、見る度に見惚れそうになってしまう。
「こちら旅行のお土産です!
メアリお姉様には沖縄のお酒です!」
「……いいの?ありがとね。
ルートビア?飲んだことない……。」
フランがお土産を渡した。
ルートビアのリキュール。それを5本。
ちょっと変な味がするらしい。
そしてフランはそのまま山城さんを押しのけるように家に入っていった。
「わ!メアリお姉様!
今日はちゃんと片付いてます!
お嬢様!すごいです!」
部屋の奥からそんな声が聞こえた。
山城さんはふふんっと誇らしげな顔。
そしてちょんちょんっと部屋に入るように手招きした。
部屋の中はたしかに綺麗に整頓されていた。
前に来たときはお酒の空き瓶に食べかけのおつまみ、そんなもので溢れた汚い部屋だったのに。
今はきちんと全てがあるべき場所に収まっている。
「……今日はフランちゃんくるの知ってたから。
202ちゃんもおいで。お菓子あげる。」
山城さんがポテチの袋を開けて、座布団を2枚敷いた。
この時間にポテチか……。
食べたいけど、フランに怒られちゃうかな。
迷っていたら、フランが食べて良いですよとジェスチャー。
ここはお言葉に甘えることにする。
「……沖縄、楽しかった?」
山城さんがポテチをパリパリと齧りながら聞いてきた。
私も齧りながら答える。
「もちろんです。海、すごく綺麗でした。
みんなで水遊びしたんですよ。」
「お嬢様の水着、私が選びました!
可愛いのにすぐ上着着ちゃうから困りました!」
私の話に被せるように、フランがウキウキでそう報告した。
だってビキニは私に似合わないもん。
いくらフランのチョイスでもすごく恥ずかしかった。
「……ふふっ。それは見てみたいかも。
着てくれたらお金あげるよ?」
山城さんは妖艶な笑みを浮かべてそう言った。
やばい大人だ。
私はお金に釣られて恥ずかしいことはしない。
丁重にお断りした。
「……残念。202ちゃん、可愛いのに。」
山城さんは残念そうにそう言うと、のそのそと動いてお土産のルートビアに手を伸ばした。
瓶の蓋を器用に外して、しげしげと眺める。
そしてコップにも入れず、口に含んだ。
「……変な味する。不思議。」
一瞬だけ顔を顰めて、その後ごくごくと音を立てて飲みだした。
口に合わなかったかもと思ったけど、そういう訳ではないらしい。
「……なんか楽しい味。ごちそうさまでした。」
あっという間に一瓶飲み終えた。
そして山城さんはその空き瓶を適当に転がす。
空き瓶はコロコロと転がり、フランにぶつかった。
「あ」
飲んでから転がすまでが自然すぎて、私はなにも言えなかった。
だけどフランはその一瞬で鬼のような形相になった。
眉間にシワを寄せて、口元をきつく結んで。
「……ち、ちがうの!今のはたまたまで!」
「何が違うのですか?
少し見直したのに残念です。」
それから10分くらいフランのお説教。
なんだか面白いな。
山城さん、私よりも年上なのに全然そんな風に見えないや。
「うぅ……。もう今日はお酒飲まない……。」
山城さんはお冷やを飲みながらそう言った。
フランは私の膝の上。
撫でられることで怒りを落ち着かせていた。
「……でも沖縄か。懐かしいな。」
「え、行ったことあるんですか?」
ぐでーっと後ろに倒れ込む山城さんに思わず聞き返してしまった。
正直すごく意外だ。
山城さん、陽の光を浴びれないらしいし沖縄なんて最悪の相性だろうに。
「……当時好きだった先輩に連れてかれてね。
楽しかった……。楽しかったんだよ……。」
なんか言い方に闇を感じる。
今はお冷やしか飲んでないが相当に酔ってそうだ。
ここらで切り上げるのが妥当かな。
「夜も遅いですし、そろそろ帰りますね。
ポテチごちそうさまでした。」
「ごちそうさまでした!
また近いうちに伺いますね!」
フランの手を取って立ち上がる。
もう12時を過ぎた。
そろそろ寝ないと明日起きられなくなっちゃう。
「……あ、待って。」
ゆっくりとこちらに這い寄ってくる。
そして私の手を取って山城さんはふたことだけ言った。
「……私みたいにならないようにね。
ちゃんと自分に正直にね。
本当に私はなんてことを……。
あー……。うー……。」
山城さんの手が私から離れる。
そして力なく玄関に倒れて唸り始めた。
つんつんとつっつくと山城さんは寝息を立て始めた。
あまりにもどうしようもない。
「しょうがないですね。」
フランが腕輪を外して、山城さんをベッドへと静かに運んだ。
わずか10秒ほどの時間だった。
「では帰りましょうか!」
「う、うん。山城さん、お邪魔しました。」
眠ったままの山城さんに一礼してお家を後にする。
鍵はフランが締めてくれた。
「でもなんか急に酔っぱらったね。
山城さん普段あんだけお酒飲んでるのに。」
「普段のお酒とは勝手が違ったのかもですね。」
階段を登りながら世間話。
内心は別のことを考えながら。
(自分に正直にか―……。
その自分が分からないからなー……。)
なんだかすごく後悔していた山城さん。
あれはもしかしたら未来の私の姿なのかも。
そう思うとこわくなるけど、どうしたらいいのか分からない。
(……でもまぁ)
夏のやり残しはもうない。
明日からは秋が始まる。
秋の目標は自分の感情について理解することにしよう。
きっとそうすればこのモヤモヤは晴れるはずだから。




