鈴ちゃんと僕の恋愛相談
「んでー。話したいことってなにー?」
「ていうか本当に奢ってもらっていいんですか??
僕、遠慮なんてしないですよ……?」
みんなと別れたあと、僕と鈴ちゃんは小鳥さんに呼び出された。
なんの用事だろう?
でもラーメンを奢ってもらえるなんて!
小鳥さん、最初はこわい人かと思ったけどすごく良い人だ。
入ったのは沖縄そばのお店。
沖縄そばっていいよね。
おっきい豚の煮付け。
鰹の澄んだ風味。
食べるのがすごく楽しみ。
早く来ないかな。
「ていうか皆とよくはぐれられたなー。」
「ラーメン屋巡りするって言ってきた。
これならついてこねぇだろ。」
「あったまいいー。
でもフランちゃんに後で怒られるだろうなー。」
「多分しばらくラーメン抜きだな。
まぁしょうがねぇ。」
ラーメン抜きだなんて。
それはとても大変だ。
でもそれくらい話したいことがあったってこと?
どんな用事なんだろう。
小鳥さんがお冷やを口に含む。
そして一度深呼吸した。
「……あの2人のことなんだけどさ。」
あの2人?
どの2人だろう?
「ああ、店長さんと山城さんだろ?」
「ちげぇよ、バカ。」
「冗談冗談。兄弟とひなひなだろ?」
ああその2人。
ていうか真剣なタイミングなのに、また鈴ちゃんは変なこと言って。
でもその2人??
小鳥さんのこと好きな2人だよね??
その2人がどうしたんだろう??
内心大興奮な僕を他所に小鳥さんがまた息を呑む。
そして絞り出すようにひとつの質問をした。
「あいつら……今日様子変だったよな……?
な、なんでだと思う……?」
「え、そりゃお前のこと好きだからだろ。」
鈴ちゃんの答えに、小鳥さんはぶわっと耳まで赤くした。
「あ、あいつらが、あたしのこと?
あ、あのバカも?雛乃も?」
「あとめぐちゃんもなー。
あの子もお前のこと好きだぜ!」
小鳥さんは口をパクパクさせて現実をどうにか受け入れようとしている。
そこにさらに鈴ちゃんは火種を投下した。
「いや、めぐるの本命はあのバカの方だろ……?」
「いやいや、小鳥っちのことも好きだぜ。
これはガチ。命かけてもいい。」
鈴ちゃんの真剣な声に、小鳥さんは口をつぐんだ。
2人の付き合いも長いと聞く。
鈴ちゃんが嘘をついていないことは察したみたいだ。
小鳥さんは耳まで赤くしたまま、頭を抱えている。
でもそうだよね。
みんな小鳥さんのことを好きでも、彼女にできるのは1人だけ。
みんなが魅力的だからこそ、迷うのは当然だ。
小鳥さんは誰を選ぶんだろう?
僕までドキドキしてしまう……。
「よし、じゃあ3人と付き合っちまえよ。」
「り、鈴ちゃん!?」
内心ドキドキしていた私の心も、さすがに鈴ちゃんのおバカな発言で一気に落ち着いた。
どうして鈴ちゃんはそんなおバカなこと言うの?
3人と付き合うなんて、あまりにも……。
「う」
小鳥さんはすぐに否定しなかった。
え?
嘘でしょ?
「沖縄そばお待たせしましたー!」
そんなタイミングで店員さんが沖縄そばを持ってきてくれた。
嬉しいけどタイミング!
いくら僕でもこのタイミングで沖縄そばに夢中にはなれない。
でも小鳥さんを見ると、沖縄そばを啜り始めていた。
気のせいか僕たちから少し目を逸らしながら。
しょうがないから僕も沖縄そばを啜る。
鈴ちゃんはニヤニヤしながら僕たちを見守っていた。
(で、でも3人が小鳥さん好きなのは分かるけど……。
さ、三股するかもってこと??
小鳥さん、それはあまりにも爛れてない??)
沖縄そばは美味しいけど、それよりも小鳥さんの真意が気になる……。
早く食べ終わらないと。
ていうかラーメン屋さん、秘密の相談に向いてないよ……。
お話してたら麺伸びちゃうもん。
急いで食べて僕も小鳥さんも箸を置いた。
意を決したように、小鳥さんはもう一度口を開いた。
「いやさ……。
でもこう、私とあいつは複雑なんだよ……。」
小鳥さんはいつも自信ありげで、スマート。
そんな面影を感じさせないくらいに弱々しい声。
「でもなにもしなきゃ誰かに取られるかもよ?
みんな超かわいいしなー。
彼氏できたーって言われたらどうする?
そうなったら祝福するしかできないぞ??」
鈴ちゃんがニヤけた口角を手で隠しながらそう聞いた。
小鳥さんからは見えないようにしてるけど、僕からは意地悪な笑みが隠せていない。
「いや、でもさ……。なんで急に……。
選べって言われても……。
だけど三股なんてあまりにも……。」
焦燥と罪悪感を感じてるんだろうか。
すごく思い詰めた表情。
でも鈴ちゃんはそう言うけど……。
(心配しなくても大丈夫じゃないかな?
みんな小鳥さんのこと好きだし。)
いや、だって。
僕が知る限り、みんな小鳥さんのこと大好きだよ。
倫理的に外れたことをしなくても、ずっと一緒だと思うな。
ていうか小鳥さんを超えるような人ってそう居ないだろうし。
よし、心配する必要はないって伝えよう。
三股とか普通に良くないもん。
「ねぇ小鳥さ
「じゃあ公然と全員の許可とればいいじゃん!!
三股、あいつらも許してくれると思うぜ!」
大きな声。
その声は僕の隣から、僕の声をかき消した。
「鈴ちゃひゃっ」
鈴ちゃんが僕の背中をつーっと撫でた。
そのせいで僕は口を挟めなかった。
そして有無を言わせないように、言葉を繋げた。
「なぁ小鳥っち。
みんなすごく魅力的なのは分かるよな?
うかうかしてたらまずいぜ。」
小鳥さんが苦々しげに頷く。
いや、みんな魅力的なのは分かるけど。
うかうかしても平気だって!
「やっぱりそう思うよな……。あぁくそ。」
「うんうん。だからさ、俺も応援するぜ?
みんな恋人にしちゃえよ!」
鈴ちゃんの悪魔のような誘惑。
小鳥さんは一つ大きなため息をついた。
「……変な相談して悪かったな。お会計してくるよ。」
よたよたとした足取りで小鳥さんはレジへと向かった。
鈴ちゃんはその背中をニヤニヤと眺めて、僕にウィンクをした。
鈴ちゃんは何を考えてるの……?
聞こうと思ったが、小鳥さんはすぐにお会計を済ませて帰ってきた。
そのせいで僕は何も聞くことなんてできなかった。
「え、えっと小鳥さん。
小鳥さんが良ければもっとお話する?」
お店から出てすぐにそう聞いたけど、小鳥さんは首を横に振った。
「……いや、大丈夫。ちょっと一人で考えさせてくれ。」
そう言い残して、小鳥さんは別のラーメン屋さんに向けて歩きだした。
ちょっと心配だけどこれで鈴ちゃんと二人きり。
僕は鈴ちゃんを物陰へと引きずりこんだ。
「ねぇ鈴ちゃん、なんであんなこと言ったの?」
「だってその方が楽しいじゃん!」
……。
鈴ちゃんの答えは単純明快。
普通にろくでもない。
どうお仕置きしようか。
そう考えたとき、鈴ちゃんはじゃーんとなにかを取り出した。
「黙ってくれたらこれやるよ。」
「そ、それは……!!」
鈴ちゃんの一日甘やかしチケット。
別名、なんでも好きなもの好きなだけ作ってあげる券。
なんとお菓子だって好きなものを好きなだけ作ってもらえる。
「ほれほれ〜。どうする〜?」
チケットをひらひらさせながら、鈴ちゃんは歯を見せてにやりと笑った。
僕の選択肢は……。
「も、もう!鈴ちゃんのいじわる!」
「へへっ。これで共犯だな!」
というわけで僕は黙ることを選んだ。
だ、だって!
小鳥さんなら別にちゃんとした選択するだろうし!
大丈夫かなって……。
黙るという選択肢が正しかったのか、今の僕には分からない。
チケットもらえて嬉しい!という気持ちだけが僕の心を満たしていた。




