旅行のお土産選び
「みんな、みゆがお世話になりました。」
「おせわになりました」
旅行の最終日。
国際通りでみゆちゃんとはお別れ。
大家さんに手を引かれながら、もう一方の手で私たちに小さく手を振った。
そしてそのまま前を向いて歩き出す。
「また明後日ね!」
「楽しかったよ!」
私とめぐるちゃんがそう呼びかけると、みゆちゃんは振り向くことなく親指を立てて返事の代わりにした。
ハードボイルドな後ろ姿。
だけどその足は小さくスキップ。
みゆちゃんはこれから美ら海水族館。
はしゃぎたいのを我慢しているのが見て取れた。
さて、私たちはもう飛行機に乗って帰るだけ。
でもその前にお土産探しだ。
「じゃあ1時間半後にここで集合なー!」
「じゃ、じゃあまた後でです!」
鈴がこのみちゃんの手を引っ張って駆けていく。
雛乃と目が合った。
お土産選びはみんな好きなように動こう。
それは元々決めてあった。
だから今日は小鳥と雛乃と……。
「ねぇ小鳥。一緒に……。」
「悪い!また後でな!」
逃げられた。
は?
「え、え!?小鳥さん!?」
雛乃も困惑している。
めぐるちゃんだけが呆れた顔で小鳥を見送った。
なにか知っているのかも。
「めぐるちゃん、小鳥はどうしたの?」
「小鳥ちゃんはラーメン巡りをするそうです。」
「ラーメン巡り?ですか?」
フランが鬼の形相で食いついた。
ラーメン巡り……。
不健康の極み。
フランが嫌いそうな言葉だ。
「まぁ沖縄のラーメンは沖縄でしか食べれないし……。」
「そ、そうね。せっかくの旅行だものね……。」
私と雛乃がフォローした。
フランはしょうがないなというようにため息をついた。
「私だって鬼じゃないんです。
言ってくれれば許すのに。もうっ。」
フランはぷんぷんと頬を膨らませて歩き出した。
しょうがない。
小鳥は完全に別行動。
私たち四人でお土産選びだ。
「フランちゃん、私と手繋ご?
小鳥ちゃんのこと黙っててごめんね。」
「めぐるお姉様は悪くないです。
でも小鳥お姉様はしばらくラーメン抜きです。」
めぐるちゃんがフランと手を繋いだ。
私と雛乃はその後ろを歩く。
「残念だったね。」
「しょうがないわ……。
うぅ。もっと胃袋が大きければ……。」
雛乃はお腹をさすりながらそう言った。
でもラーメン屋巡りなんて、普通の胃袋じゃできないもん。
私は一杯でお腹いっぱいになっちゃうし。
「あれは小鳥がおかしいだけだから。
普通はついていけないよ。」
「でもこのみちゃんやキャプテンさんは行けそうね。
羨ましいわ……。」
雛乃はぐぬぬと悔しそうな声を出した。
まあ私ももっとたくさん食べられたらなーとは思う。
深夜のラーメン屋さん巡りなんて、すごく大学生っぽいし。
「そうだ!私も毎日食べればいいのかも!
そしたら小鳥さんとラーメン巡りも
「雛乃お姉様。」
「ごめんなさい、なんでもないわ。」
前を向いたまま、底冷えする声をフランが出した。
こわい。
雛乃はぶんぶんと首を振って、発言を取り消した。
「雛乃ちゃん、本当に駄目だからね。
小鳥ちゃん真似たら危ないよ?」
「だ、大丈夫よ!そんなことしないから!」
「本当かな~。雛乃はやりそう。」
「やらないってば!もう!」
雛乃をからかいながら歩く。
すると、めぐるちゃんが足を止めた。
「こことかどうですか?」
大っきなお土産もの屋さん。
ここならなんでも見つかりそう。
「さすがめぐるちゃんだね。よしよし。」
「そ、そんな褒められるようなことでは……。」
後ろから頭を撫でると、めぐるちゃんは耳を赤くした。
めぐるちゃんは良い子だからね。
どれだけ褒めても足りないくらいだ。
お土産を買う対象はキャプテンさん、メイドさんたち、山城さん。
山城さんは地酒でいいや。
なので残りのみんなの分を考えなきゃ。
「キャプテンさんは美味しいもの。
いちごうたちも美味しいもの。
つまり美味しいものを探せばいいのよ。」
雛乃はそう言いながら、売り場に向かった。
そしてすぐに帰ってきた。
「そういえば沖縄っぽい物あまり食べなかったわね。
なにが美味しいのかしら。」
「うーん、紅芋タルトとかちんすこうとかかな?
あ、あとキャプテンさんの分は大丈夫だよ。
小鳥ちゃんが買うって言ってたから!」
じゃあメイドさんたちの分を買えばいいのは分かったけど……。
でも意外と難しいな。
紅芋タルトやちんすこうは物産展でも買えるし……。
他はなにかあるかな。
考えていたら、フランが私の裾を握った。
「ふふーん。完璧な執事にお任せください。
ちゃんとリサーチ済みです!」
とてもドヤ顔なフラン。
これは任せてみてもいいかもしれない。
「折角です。沖縄でしか買えないものにしましょう。」
フランがぱっぱと籠に何種類も入れる。
そしてすぐにレジに向かった。
「でもフランちゃんに任せっきりになっちゃったわ。」
「確かにね……。自分で選んだ方が良かったかな……。」
まぁでも、すごくズルをしてる気分……。
いや、絶対に美味しいのは分かるけどね。
完全にフランに選んでもらうっていうのは……。
「買ってきました!では車に戻って試食です!
美味しかったものをお土産にしましょう!」
さすがフランすぎる……。
私たちに花を持たせてくれるなんて。
本当によくできた執事だ。
「さすがフランだね。」
「ふふんっ。お土産選びも完璧ですから。
期待しててくださいね!」
フランの頭をみんなで撫でて一度車へ。
食べ比べをした結果、紅芋のバームクーヘンが優勝。
これでお土産選びも完璧。
私たちの旅行ミッションは完全に終了となった。
さてと。
ここからは時間潰しだ。
「じゃあ暇つぶしにゲームしよう。
小鳥の駄目なところで古今東西。
かっこつけすぎ!」
「え!?」
めぐるちゃんが驚いている。
でもしょうがないじゃん!
お土産選び、小鳥ともしたかったんだから!
ガス抜きくらいはさせてよ。
「次、雛乃!」
「え、え、雛乃ちゃん!?」
雛乃は少し迷って……。
「……小鳥さんはすごく鈍いわ。」
「雛乃ちゃん!?」
雛乃もそう続けてくれた。
「はい!こっそりラーメン食べるところは駄目です!」
「じゃ、じゃあ素直じゃないところとか……?」
負けたら買い出しの罰ゲーム。
だけど結局、決着はつかずにみんなでお土産を買いに行った。
途中からは実質的に小鳥の良いところ発表会。
雛乃もめぐるちゃんもフランも、私の知らない小鳥の魅力を知っていた。
共有するって素晴らしい。
確かにみんなで付き合うっていいアイデアなのかもね。




