そわそわの朝
「ねえ、小鳥。朝だよ。」
「こ、小鳥さん、そろそろ朝ですよ。」
雛乃と二人で小鳥の身体を揺する。
よっぽど熟睡してるのか中々起きない。
どうしようか。
今までだったらちょっとくすぐるくらいだったけど……。
(ええぃっ!)
雛乃と二人の目標を定めた以上、ここで日和るわけにはいかない。
せっかくの旅行だしね。
ちょっとだけ大胆なことしてもいいかな。
いいよね、きっと。
私は寝ている小鳥を後ろから抱きしめた。
そして耳元で囁く。
「小鳥。朝だよ。早く起きないと。」
「……ん、!?わ、な、なんで!?」
「ぎゃっ!!」
飛び起きた小鳥の頭が私の頭にぶつかった。
すごく痛い。
で、でも今は……。
「お、おはよ。げ、元気……?」
どうにか振り絞るように私はそう言った。
小鳥は目をキョロキョロさせて困惑中だ。
こういう時はなんと言ったらいいんだろう。
気の利いた言葉を……。
「こ、小鳥さん。えと新入りは……。
小鳥さんに気持ちよく起きて欲しかったのよ!
だから……責めないであげてほしいわ……。」
私が何か言う前に、雛乃がそう恐る恐ると庇ってくれた。
その言葉を聞いて、小鳥はふぅとひと息ついて雛乃の頭を撫でた。
そして私の前髪をかきあげた。
「……頭、大丈夫か?あたしも驚きすぎたよ。」
「う、うん。大丈夫。」
うーん……。
なんかちょっとだけ意識してしまったからか、こういういつもしてもらってることすらドキドキしてしまう……。
い、一旦退避!
「め、めぐるちゃんも起こさなきゃだから!
起きて!めぐるちゃん!」
「あ、王子様……。おはようございます……。」
「朝ごはんだよ!おーきーて!」
「は、はい……。」
めぐるちゃんの手を引っ張って無理やり起こす。
小鳥から逃げるようにめぐるちゃんの起床を手伝って、朝ごはんの時間。
私と雛乃は小鳥を挟み込むように座った。
「小鳥、あーんしてあげる。」
朝ごはんの小さなサンドイッチたち。
その中のひとつを小鳥に差し出す。
「な、なんかおかしくないか?
熱でもあるんじゃ……。」
小鳥はそう言って雛乃の方へと少しだけ椅子をずらした。
雛乃は唇を噛み締めて少しだけ迷う。
そして……。
「こ、小鳥さん。あ、あーん……。」
すっごく顔を赤くして雛乃はそう言った。
私はともかく、雛乃がそう言ったのは衝撃だったらしい。
小鳥の動きがピタリと止まった。
「ひ、雛乃までどうし……」
「小鳥、隙あり。」
「むぐっ。」
呆然と開いた口にひとまずねじ込んでおいた。
余計な疑念は抱かせない。
今はとにかく私たちの好意をそれとなーく伝えたい。
それとなーく。
「せ、先輩。なんかおかしくないですか?」
このみちゃんが訝しげに私を見てくる。
小鳥に気づかれるならまだしも、このみちゃんにバレるのはちょっと恥ずかしい。
ここは誤魔化すほかない。
「別に。いつものことだよ?」
私はそうとだけ答えて、次にねじ込む用のサンドイッチを構えた。
いや、違うな。
「あ、ごめん。次は雛乃の番だね。」
「え、ええ……。が、頑張るわ。」
ここは雛乃に譲ろう。
小鳥は二人で分け合うのだから。
「小鳥さん、あ、あーん……。」
「……」
恐る恐ると言ったように、雛乃は小鳥の口元にサンドイッチを突きつけた。
小鳥はそれを拒むこともできずに、ゆっくりと口に含んだ。
「……」
小鳥はなにも言わない。
ただ口を動かしながら、私と雛乃を交互に見た。
それからも困惑し続ける小鳥に二人でご飯を食べさせ続けた。
小鳥と同じように困惑の目で私たちを見るこのみちゃんとめぐるちゃん。
フランとみゆちゃんは微笑ましげにニコニコと。
鈴は意地の悪そうな笑みを浮かべて、にやにやとしていた。




