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余命60年の私と余命8億年の君  作者: とりもち
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遭難と遭遇


彼女と出会った日、私は気づいたら山の中に居た。

思い出せる最後の記憶は、初めてお酒を飲んだこと。

飲んでからの記憶がほとんどない。

なぜだかすごく楽しかったことだけ覚えてる。


ただ、今の状況はすごく悪い。

見知らぬ山の中、電波は通じない。

酔いでふらつく足元。

倒れて滑落したら多分帰ってこれない。

(頭も痛いし、最悪……

 とりあえず夜明けまでじっと待つか。)

鞄を開けるとスティックパンが入っていた。

良かった。これさえあればなんとかなる。

口に咥えたその瞬間だった。


キィィィィンキィィィィン


「っ!!」

突然にガラスを爪で引っ掻くような、そんな不快な音が響いた。

咥えていたスティックパンを落とし、耳を塞ぐ。

それでも音は何度も、何度も鳴り響く。

頭が割れそうなほどの音。

じっとしていられなくなり、私は音の聞こえる方へと歩き出した。


何度も転び、何度も滑り、何度も吐いた。

それくらい音が放つ不快さは凄まじかった。

耳を抑えても脳に直接響く。

しかも落ち着いたと思った途端に、音量が上がる。

発生源をぶん殴らなきゃ気がすまない。

私はそんな気持ちで発生源を目指していた。


20分ほど歩いたところで、光が見えた。

そこに居たのは日本人形みたいに綺麗な女の子だった。

音の中で大粒の涙を浮かべて泣いているのが見えた。


「こんなところでなにしてるの?大丈夫?」

殴ってやろうという気持ちは無くなっていた。

そりゃそうだ。

泣いている女の子を殴れるわけがない。

私は気づいたら女の子に声をかけていた。

「ーーー!ー。ーー!!」

私に気づいた女の子がなにかを訴えている。

外国語だろうか?

何をいっているのか分からない。

「困る。確認。言語。」

首をかしげていると、女の子の口からおかしな日本語がこぼれた。

「乗り物。壊れる。った。

 チャルス鉱。直す。必要。

 ある。ます。疑問。チャルス鉱。」

酔った頭ではなにも理解できない。

酔っていなくても理解できる気がしない。

「乗り物が壊れたから、そのなにかが必要ってこと?」

私はなんとか意図を汲み取り、聞き返す。

「はい。間違う。否定。」

少女はブンブンと首を縦に振って、私の答えがあっていることを教えてくれた。

「でもそんな鉱石聞いたことないよ。」

その言葉を聞いて、少女はまた大声で泣き始めた。


「命。ない。3。時間。ない。

 終わり。近い。時間。ない。3。」

泣く度にガラスを全力で引っ掻く音がした。

でもそれよりも、顔をくしゃくしゃにして泣く女の子の顔に私は心を打たれていた。

「時間がないってどういうこと……?」

耳を抑えながら、少女に問いかける。

「余命。少し。時間。ない。

 チャルス。ない。帰る。ない。」

少女は泣きながら答える。

「時間がないなら、私が一緒にいてあげる。

 だから泣かないで。お願い。」

私は少女を抱きかかえ、頭を撫でた。

少しずつ少女の鳴き声が小さくなった。


「約束。疑問。」

潤んだ目で私を見る。

「うん、約束。」

私はその目をまっすぐ見て答える。


少女は涙で滲んだ顔をくしゃくしゃにして笑った。

「感謝。」

彼女がそれだけ言うと、私たちは光に包まれた。













目が覚めると、私のアパートだった。

昨日のことはどこまでが夢だったんだろう。

そう思いながら辺りを見回す。

「……?」

私の本が部屋中に散らばっている。

酔って暴れたんだろうか。

そんな時に声がした。


「おはようございます!お嬢様!」

二日酔いに響く大音量。

手には私の一番大好きな執事とお嬢様の恋愛本。


夢の中の少女か目の前に居た。


「約束通り、残りの3周期ご一緒させていただきます。」

少女が恭しく頭を下げる。

「こちらの惑星時間でいうと、約八億年!

 短い時間ですが、よろしくお願いします!」

満面の笑顔で少女が告げた途方もない時間。

これが私と彼女の馴れ初めだった。


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