小鳥の隣に立つ人は
正直に言うと、私は小鳥のことをどう思ってるのか分からない。
ずっと一緒に居たい。
でもこれは恋人じゃなくてもできる気がする。
だからきっと私は恋人にならなくてもいい。
恋人になりたいって心から思ってる人がなればいい。
(……だから雛乃の邪魔はしたくない。)
私の言葉を受けて、雛乃は口を開けて呆然としている。
フランもきゅっとお口にチャック。
私の言葉を待ってくれている。
さて、少し頑張ろう。
私は雛乃を応援してる。
それをちゃんと伝えなきゃ。
好き、という私の言葉。
それを受けて呆然とする雛乃を見据えて語りかける。
「うん、私は小鳥が好きだよ。
一緒に居るとすごく楽しいし。」
「や、やっぱり。じゃあ……。」
「それに雛乃のことも好きだよ。
一緒に居るとやっぱり楽しいもん。」
雛乃の表情が変わった。
ちょっと驚いてる。
でも今はそれでいい。
私が小鳥に向ける感情はきっと、雛乃に向ける感情と同じ。
きっと、きっとそうなのだから。
「だからさ。小鳥と雛乃には同じ好きなんだ。
小鳥もきっと同じ。
このままずっと友達のままでいられたらなって。
お互いそんな風に思ってるんだ。」
でもこれは半分嘘。
小鳥はすごくモテモテだから。
私とずっと友達で居てくれる保証はない。
信頼はしてるよ。
でもやっぱりちょっとだけこわいから。
「だから、雛乃。雛乃が小鳥のこと娶ってよ。
小鳥を捕まえてくれない?
遠くに行っちゃわないようにさ。」
雛乃はなんて答えるか分からないのか、ただじっと私を見た。
それでもなにか答えはだせたみたい。
その口がゆっくりと動き出す。
「小鳥さんが新入りのことを好きだと思ったのは……。
私の勘違い……?」
私は頷いて答えた。
「それに新入りは私を応援してくれるの……?」
もう一度頷く。
もちろん応援するよ。
雛乃と小鳥がくっついたら嬉しい。
「ふぅ……」
雛乃は一つ息を吐いた。
納得してくれたかな。
これで安心してくれたらいいな。
明日からも可愛い雛乃見たいもん。
これで雛乃の勘違いは終わり。
これからも小鳥のこと、追いかけてくれたらいいな。
そう私は心の中で雛乃のことを応援して、夜空を見上げるのだった。
「新入りはうそつきね。」
「え」
雛乃はただひとことそう言った。
いや、なんで。
私、嘘なんて言ってないよ??
「新入りは小鳥さんが好きだって分かったわ。
絶対に小鳥さんと結びつけるから。」
「いや!ちょっと待って!
私の話聞いてた!?」
雛乃の表情はぷんぷんと怒っている。
頬を膨らませて、眉間にシワを寄せて。
いや!本当に嘘はついてないのに!
「どう見ても小鳥さんのこと好きじゃない。
私にはお見通しなんだから。」
「じゃ、じゃあ雛乃だってそうじゃん!
小鳥のこと好きなんでしょ?
大人しく応援されてよ!」
雛乃が全然譲ってくれない。
大人しく小鳥と結ばれて欲しいのに。
なんで私が小鳥を好きだなんて。
いつしか散歩の足も止まり、言い争いになっていた。
私は雛乃と小鳥に結ばれて欲しい。
雛乃は私と小鳥に結ばれて欲しい。
でもそんなのどうしようもないじゃん。
私は雛乃に幸せになって欲しいんだから!
「ふふっ。」
議論が白熱したころ。
フランは小さく笑った。
「フラン、どうしたの?笑い事じゃないよ……。」
「ごめんなさい。えへへ。」
フランは心底楽しそうに笑う。
そんなフランを見て、私たちは一度冷静になる。
私たちが落ち着いたのを見て、フランは笑顔でこう言った。
「じゃあみんなでお付き合いしたらいいんですよ。」
そんなあまりにも乱れていることを。
「ねぇフランちゃん。それは倫理的に……。」
「これはみゆ様とめぐるお姉様の発案ですよ?」
「え」
なんでみゆちゃんとめぐるちゃんが?
ぽかんとする私たちにフランはニコニコと説明を続ける。
「二人はこっそりと計画してるので、内密に。
みんなでお付き合いすれば、ずっと一緒です。
なにか問題はありますか?」
いや、それはそうだけど……。
でもそれはあまりに爛れてないかな。
みんなでお付き合いだなんて。
「ふふっ。でも良い作戦だと思いますよ。
そろそろ戻りましょうか。
明日起きられなくなっちゃいます。」
フランが私たちの手を引いて、貸別荘へと連れ戻す。
私も雛乃も帰り道は喋れなかった。
考えることが多すぎて。
フランの話す作戦への反論を考えるのに忙しくて。
でも結局なにも浮かばないまま、次の朝。
私は雛乃を屋上へと連れ出した。
「ねぇ」
「うん。良いと思うわ。」
それが雛乃の答え。
私たちの考えは一致した。
みんなでお付き合いする。
それが誰も傷つかない方法だって確信してしまった。




