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余命60年の私と余命8億年の君  作者: とりもち
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夜と朝の間


ぱちりと目が開く。

なぜだかとても目が冴えてしまった。

今は何時だろう。


「フラン。」

「はい!お呼びでしょうか!」


ひと声掛けるとフランがぎゅっと私を抱き締めた。

今日はフランが私を抱き枕にする番。

抱きしめられるのも好き。

あったかくて癖になる。


「なんか目が覚めちゃった。」

「でも早く寝ないと駄目ですよ?

 夜ふかしは健康に悪いです。」

「眠れない……。」


フランが頭を撫でてくれる。

でも完全に目が覚めてしまったものはしょうがない。

ちょっと牛乳でも飲もう。

フランの手を引いて二階に上がる。


「あれ?」


誰も居ないはずの二階。

電気が点いてる。


「フラン。」

「ご心配なさらず。」


てくてくと歩いていくフラン。

冷蔵庫の前にその人は隠れていた。

雛乃だった。


「雛乃、なにしてるの?」

「よ、夜ふかしなんてしてないわ!」

「してます……。」


じーっと見つめるフラン。

上着を着て、外に出かける寸前の雛乃。

雛乃はわたわたと誤魔化そうとしたが、すぐに諦めてがくりと肩を落とした。


「……なんだか目が覚めちゃったのよ。

 だからちょっとだけお散歩行こうかなって。」

「正気ですか?一人で?こんな夜に?」


フランの目つきがこわい。

完全にお説教モードだ。

いや、まあ私だってお説教するけどね。

夜中にお散歩だなんて、危なすぎるもん。


それから10分ほどフランのお説教。


「もう二度とそんなこと考えないでくださいね。

 雛乃お姉様は可愛いんですから。

 誘拐されてしまいますよ?」

「ごめんなさい……。」

「ちゃんと分かったならいいです。

 ほら、顔拭いてください。」


半泣きの雛乃。

フランがハンカチでその顔を拭った。

お説教はおしまい。

雛乃はよろめきながら立ち上がった。


(でもせっかくの沖縄だもんね。

 お散歩したい気持ちは分かるな。)


雛乃の裾を引っ張って足を止めさせた。

怒られて終わりな夜なんて寂しいしね。


「ねぇフラン。3人ならいいよね。

 私もお散歩したいな。」


フランは少し迷ったあと、小さくため息をついた。


「ちょっとだけですよ。」

「ありがと、大好きだよ。」


フランを抱きしめて、外に出かけるための準備。

私が着替える間に、みゆちゃんのこともフランが鈴に任せてくれた。

いざ、出発。


「空、綺麗ね。」

「だねー。」


上を見上げながら歩く。

地元よりもずっと空が綺麗。

星が燦々と輝いている。


「お二人とも上ばかり見ないでください!

 せめて上を見るときは立ち止まってください!」


フランに嗜められてしまった。

すごく妥当な意見。

さすがフラン、賢い。

転んで怪我しても嫌だしね。

ちゃんと前を向いて歩こう。


「海綺麗だったね。明日で帰るの名残惜しいな。」

私がそう言うと、フランが首肯した。

「ですが、帰ってからも楽しいことはありますよ。

 みゆ様の運動会も近いです。

 一緒に応援しに行きましょう?」

そっか、それはすごく楽しみ。

あと秋といったらなんだろう。

めぐるちゃんの高校の文化祭とかもあるのかな。

あ、そうだ。

「雛乃の大学は学園祭ってある?

 小鳥と同じゼミだし、それで出展とか?」

「あ、えっと……。うちのゼミは特にないわ。」

それは残念。

雛乃と小鳥が仲良くお店番してるところ見たかったな。


「あとはなんだろ。芸術の秋とか?」

「お嬢様、芸術は得意ですか?」

「からっきし!雛乃はどう?

 芸術バトルで私に勝てる?」

「え、えーと……。新入りには負けないわ。」


なんだか返事にキレがない?

眠たいのかな。


「雛乃、大丈夫?やっぱり眠くなってきた?」

「ううん、大丈夫……。でも……。

 やっぱりなんでもないわ……。」


なにか言いたげに口を開け、その度に閉じる。

結局、雛乃は口を閉じることを選択した。

私たちはただゆっくり流れる時間の中、星を眺める。


「そういえば小鳥さ」

「こ、小鳥さんがどうかしたの!?

 かっこいいわよね!」


急に雛乃の口が開いた。

やっぱり悩み事は小鳥関係なのかな。

雛乃は楽しそうに小鳥のかっこいいところを語る。

いつもは照れながら語るのに。

今日はすごく饒舌に。

なんだか私に小鳥の良さを教えるように。


「小鳥さん、泳ぎ方教えるのも上手で。

 私、ちゃんと沈まないようになれたのよ。」


フランはうんうんと満足げに頷いている。

楽しそうな会話だけど、ごめんね。

ちょっと割り込ませてもらうね。


「雛乃、なんかあった?」

「え」


雛乃がまた口をぱくぱくとする。

私はそれを黙って見つめる。

少し時間が経ったころ、雛乃は観念したように口を開いた。


「ね、ねぇ新入りって小鳥さんのこと好き……?」


一瞬だけ私は面食らった。

いつかめぐるちゃんにも聞かれた質問。

でも雛乃への答えは決まっている。

いつか雛乃にも聞かれるかもしれない。

そう思って用意していた答え。


「好き!」


私は力強くそう答えた。

大丈夫。雛乃を傷つけるようなことはしない。

私は小鳥と雛乃の二人とも幸せになって欲しいんだから。

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