楽しい海遊び
「「海だー!」」
「うみだー!」
浮き輪をつけた鈴とこのみちゃん、その真ん中にみゆちゃん。
手を繋いだ3人が海に向かって大きく跳ねる。
綺麗なジャンプに綺麗な着地。
海と言ったらこれだろう。
そんなお約束を感じるジャンプだった。
「はい!次はお前ら!」
「え、私たちもやるの?」
鈴が振り向いて私たちを指差した。
いや、私はそんなにキラキラできないし。
「王子様、私もやってみたいです。」
白の水着を着ためぐるちゃんが私の手を引いた。
みゆちゃんセレクトのパレオの水着。
爽やかだけど、ちゃんと露出がある。
みゆちゃんはいいセンスをしている。
「王子様?」
めぐるちゃんが首を傾げた。
ちょっとじっくり見すぎた。
「なんでもないよ。
まぁでもめぐるちゃんがしたいなら。」
「ありがとうございます!」
ぱっと顔を明るくするめぐるちゃん。
こういうお約束みたいなの好きだよね。
手を繋いでジャンプ準備。
「こちらもばっちりです。めぐるお姉様。」
フランの声。
フランの手には小鳥の手が握られていた。
そして小鳥は雛乃の手を握っている。
ジャンプの用意ができた。
みんなで一斉に駆け出す。
あとはせーのでジャンプするだけ。
「せーのっ!」
ちょっとの浮遊感。
そしてすぐに地面につく。
うん、なんだかすごく楽しかった。
みんながジャンプしたがる気持ちも分かった気がする。
「もう一回やろう。
次はもっと完璧なジャンプを見せてあげる。」
「いや、別にいいだろ。早く泳ごうぜ。」
小鳥に一蹴されてしまった。
私のジャンプ、絶対次はもっとかっこいいのに。
まあでもいいや。
今はそれよりも……。
きらりと青く煌めく海。
私たちは目の前に広がるそれに目を奪われていた。
早く飛び込みたい。
泳げない私ですらそう思うほどに、沖縄の海は綺麗に光を放っていた。
準備運動はばっちり。
ゆっくりと水に近づく。
つま先で触れると、ひんやりとした。
「早く来いよ!」
腰まで浸かった小鳥が楽しそうに手を振ってきた。
小鳥はプールの時と同じ泳ぐ用の水着。
思いっきり泳ぐために、髪はお団子。
今にも泳ぎたいのを私たちが海に入るまで待ってくれているらしい。
「し、新入り。せーので入りましょう?」
「王子様、手をつなぎましょう。
手をつないでれば溺れないです。」
雛乃とめぐるちゃんも泳げない。
3人で手を繋いでゆっくりと水の中へ。
気持ちいい。
「お嬢様方。大丈夫ですか?」
後ろからフランの声。
私たちが倒れないように気をつけてくれているらしい。
「うん、大丈夫。つめたくて気持ちいいや。」
私が答えると、フランはちゃぷちゃぷと音を立てて私たちの前へと回り込んだ。
「こちら足元がでこぼこしております。
少しお気をつけて。」
足をさっさと動かして動線を確保。
腰まで浸かるくらいの場所まで無事にたどり着けた。
「大丈夫か?」
小鳥が私たちに向けてそう言った。
水には浸かれたけど泳げないからこれ以上は進めない。
でも楽しいから親指を立てて答えた。
「おねぇさん、およぎかたおしえようか?」
「うーん、でも昔から泳げないから。
今度プールで教えて。
今日はここでのんびりしてる。」
「そっか。じゃあね。えいっ!」
「わっつめたいっ」
みゆちゃんがぱしゃぱしゃと水をかけてきた。
私も手で水鉄砲を作り対抗する。
それに合わせて雛乃とめぐるちゃんもみゆちゃんに向かって攻撃を始めた。
「おそい。おそいよ。」
みゆちゃんは水に潜って私たちの攻撃を躱す。
3対1だけど、みゆちゃんの方が機動力の分有利。
「めぐるちゃん、すきあり」
「ひゃっ」
いつの間にか後ろに回るみゆちゃん。
ぱしゃりと水がかかるとめぐるちゃんは小さな悲鳴をあげた。
「えへへ。ひゃっ」
私たちが振り向く前にみゆちゃんもまた小さく悲鳴をあげた。
フランがみゆちゃんを捕まえていた。
「みゆ様、悪い子ですね。ふふっ。」
「わるいこじゃないよ。えへへ。」
捕まったみゆちゃんに3人で水をぱしゃぱしゃと掛ける。
みゆちゃんはくすぐったそうに笑った。
「みゆ様、降参しますか?」
フランの問いかけにみゆちゃんが頷く。
フランが力を緩めると、みゆちゃんはするりとその腕の中から抜け出し、そのままぱしゃぱしゃと小鳥たちの方へと泳いで行った。
「みゆちゃん、泳ぐの上手よね。
今度教えてもらわなくちゃ。」
雛乃がみゆちゃんの姿を見ながらそう言った。
綺麗なフォームで小鳥たちの元へと泳いでいくみゆちゃん。
確かにあんな風に泳げたら気持ち良さそうだ。
みゆちゃんの動きが一瞬止まり、大きく息を吸い込むのが見えた。
次に静かな音を立てて水に潜った。
音もなく小鳥の元へ。
「あ、小鳥ちゃんに不意打ちしようとしてる。」
めぐるちゃんがぼそっと呟いた。
水面に静かに顔を出したみゆちゃんが手で小さな水鉄砲を作った。
不意打ちの1秒前。
私たちは固唾を飲んで見守った。
「小鳥っち!後ろ!」
「あ」
鈴の言葉に小鳥が振り向く。
そこには水をかけようとするみゆちゃん。
刹那のフリーズ。
先に言葉を発したのは小鳥だった。
「みゆ、いたずらか?」
にこりと微笑んで小鳥がみゆちゃんを睨む。
するとみゆちゃんは脱兎のごとく、私たちの元へと逃げてきた。
「みんな、たすけて」
「小鳥、みゆちゃんは渡さないよ。」
「じゃあ喰らえ!」
「ぎゃっ」
私が壁になった瞬間、小鳥に水をかけられた。
全然躊躇しなかった……。
ならば。
「復活。めぐるちゃん、みゆちゃん守るよ。」
「ふふっ。小鳥ちゃん、ごめ
「じゃあめぐるも喰らえ」
「きゃっ。ひ、ひどいよ、小鳥ちゃん!」
まさかのめぐるちゃんにも容赦なし。
もうこうなったらしょうがない。
小鳥は心を無くした鬼だと思おう。
そして私の近くにはその鬼の味方になるであろう存在が一人。
敵になる前に倒す!
「雛乃も喰らっぎゃっ」
「ふふっ。新入りのやることなんてお見通しよ。」
「雛乃、よくやった!ぎゃっ」
「ことりおねぇさん、すきあり」
雛乃を撃とうとした瞬間に雛乃に撃たれ、その間に小鳥もみゆちゃんに撃たれた。
てんやわんやだ。
もうこうなったら乱戦するしかあるまい。
「フラン!喰らえ!」
「あ、やりましたね!お嬢様!」
フランにも水をかける。
するとフランもぱしゃぱしゃと水を飛ばし始めた。
「いいなー!俺もする!」
鈴が浮き輪に乗りながらこちらに向かってくる。
そんな鈴には横からこのみちゃんが水をかけた。
全員が敵のバトルロイヤル。
雛乃とめぐるちゃんのきゃっきゃという可愛い声。
女の子って感じだ。
ただまぁ私と小鳥と鈴は……。
「沈め!鈴!」
「兄弟!ケリつけてやる!」
「二人とも隙だらけだ!喰らえ!」
「やりやがったな!」
そんな女の子らしくない争い。
ばしゃばしゃと水を掛け合う。
そんな争いはめぐるちゃんの体力が切れるまで続いた。




