フランに私の思い出を
「お嬢様が誘ってくださるなんて!
すごく嬉しいです!」
フランが助手席で足をパタパタとさせる。
「夕方からになっちゃってごめんね。」
運転しながら答える。
普段あんまり運転しないから緊張する。
でも今日は頑張るしかない。
二人きりのデートがしたかったから。
「お嬢様、良ければ運転変わりましょうか?」
緊張してるのがバレたみたい。
「大丈夫。
行き先、秘密にしたいから。
フランは安心して待っててね。」
「それなら承知しました!
楽しみにしてますね!」
フランはニコニコしながら納得してくれた。
今から行くのは私が1番好きな場所。
いや、好きだった場所。
何年も行けていなかった。
それでもフランと行ってみたかった。
「今日はお嬢様のこと、朝から心配してました」
移動中にぼそっとフランが呟いた。
「ご飯作ったらごめんねって言いますし……。
でも今は楽しそうなので良かったです!」
多分フランは今笑ってる。
心配かけちゃってごめんね。
そう言おうと思ったけど、謝ったら悲しんじゃいそうで口に出すのはやめた。
「ありがとね。心配してくれて。」
代わりにそう言うと、横からふふって笑う声が聞こえた。
「ついたよ。
お手をどうぞ、執事さん。」
車のドアを開けてフランをエスコートする。
フランはちょっと驚いたあとに私の手を握ってくれた。
「わ!すっごく綺麗……!」
フランが感嘆の声をあげる。
夕日がフランの顔を赤く染める。
その目線の先には一面のチューリップ畑があった。
「お昼はお祭りもやってるんだよ。
でも私はこれくらいの時間が1番好き。」
私もチューリップ畑を見つめる。
昔は春が来るたびに親にせがんで何回も連れてきてもらった。
友達も連れて毎年来ていた。
楽しい思い出の詰まった場所。
「やっぱりこの星のお花すごく可愛いです。
来年はお祭りも一緒に来ましょうね!」
フランがぎゅっと手を握る。
「うん、来年も再来年もずっと一緒に。
楽しい思い出、私からもフランにたくさんあげるね」
私も握る手に力を込める。
フランの横顔を見ようとしたら目が合った。
私たちは二人で笑いあって車に戻る。
いつか私が死んだあともフランにとっていい思い出になりますように。
そんなことを思いながら。




