イルカショーとめぐるちゃんとの約束
「イルカの名前はオキちゃんって言うのよ。
なんとね。もう50歳も超えてるの。」
イルカショーへの道中。
雛乃がワクワクとした声で解説してくれた。
私たちはそれをふむふむと聞く。
雛乃がすごく楽しそう。
それだけで解説の価値はある。
「王子様、雛乃ちゃんすごく物知りなんですよ。
水族館でもたくさん解説してくれました!」
「ふふっ。新入りもなんでも聞いてちょうだいね。
私、沖縄のことたくさん勉強してきたんだから。」
めぐるちゃんも雛乃のそんな姿を誇らしげにしている。
解説、ちょっと羨ましいな。
宿への道中でちょっと聞かせてもらおう。
マンタのこと、もっと知れたら嬉しいな。
「イルカ♪イルカ♪イルカのショー♪」
フランはもう夢見心地。
マンタのぬいぐるみを抱いて歌を歌っていた。
ああ可愛い。
頭を撫でると満点の笑顔。
ああ可愛い。
ゆっくり歩いてイルカのショーの入り口。
ちょっと早めに到着できた。
前の方の席。
ここに居たらばしゃーんと水がかかるらしい。
楽しみ。
「フラン、ぬいぐるみしまった方がいいんじゃない?」
「大丈夫です!ちゅらちゃんは私が守ります!」
そう言ってフランはマンタのぬいぐるみをぎゅっと抱きかかえた。
いつの間にか名前もつけてあげていた。
マンタのちゅらちゃん。
可愛い。
私もそんな名前になりたい。
『ご来場の皆さまに……』
そうこうしている間に、開演直前のアナウンス。
あとちょっとで始まる。
期待はもう最高潮だ。
ジャンっジャジャンっ
そして沖縄の楽器の音。
確か三線っていうんだっけ?
それをきっかけにイルカのショーが始まった。
「わ、すごい。すごいです。」
フランが小さな声でボソボソと呟く。
多分意識的には発していない言葉。
高速で泳いで、高く跳ねる。
そんなイルカを見て、無意識に口から溢れているのだろう。
そしてそれはもう一人。
「おきちゃん、がんばれ。すごい、すごいわ。」
雛乃もイルカのショーに釘付け。
ふと手元を見ると、小鳥の手を強く握っているのが見えた。
後で絶対にパニック起こすのは確実。
小鳥さんの手を握ってしまうなんて!
そんな風に。
でもそれくらいイルカに夢中なのはきっとすごいことだ。
私ももうちょっと集中しよう。
イルカは早いな。格好いいな。
すごい勢いで泳ぐ。
あ、こっち来てる。
あれ、ここで跳ねたら……。
「ひゃっ!」
ばしゃーんと跳ねて水しぶき。
思ったよりも水がかかった。
びしょびしょ。
でも確かフランがタオル持ってたはず。
あとで貸してもらお……。
っ!?
そう思って横を見た時に異変に気づいた。
フランの髪に青の線。
腕輪!外れてる!
「ふふふフラン!?そ、それ??」
「えへへ。ちゅらちゃん守りました。」
濡れた髪を気にせずにフランは笑う。
その手元には渇いたままのちゅらちゃん。
何をしたか分からないけど、何かすごい力で水しぶきから守ってあげたらしい。
そんなことを考えている間に、イルカ最後のハイジャンプ。
ショーは無事に大団円を迎えた。
フランの髪はもう綺麗な黒髪に戻っていた。
髪ももう乾いてる。
ただひたすらに可愛い普通のフランになっていた。
「すごく濡れちゃった!でも楽しかった!」
「ふふ。良かったな、雛乃。楽しみにしてたもんな。」
「うん!……うん?ひゃっ!小鳥さん!
私、なんてことを……。」
「いいよいいよ。おかげであたしも楽しかった。」
小鳥が雛乃の頭を拭く。
私も小鳥の真似をしよう。
「めぐるちゃん、拭いてあげ
「王子様、拭いて差し上げますね!」
「わ!」
ワシャワシャとめぐるちゃんが身体を拭いてくれた。
先を越されてしまった。
まぁいい。
お互い拭きあいっこだ。
「も、もう大丈夫ですよ?
フランちゃんも拭いてあげてください……。」
「フランはもう乾いてるから大丈夫。
濡れたままだと風邪引いちゃうよ?」
せっかくだし頭も撫でておこう。
めぐるちゃんの髪はいつでもサラサラ。
触れる時に触らなきゃ勿体ない。
ああでも今は外だ。
「……またあとでね。」
めぐるちゃんに耳打ち。
もう頭も服も拭けた。
早く車に戻ろう。
鈴とこのみちゃんがきっと待ってる。
踵を返して駐車場へ。
するとめぐるちゃんが私の裾をちょんと引っ張って軽く手招きをした。
近寄る。
「わっ」
めぐるちゃんは唐突に首に手を回して、私の頭を少し下げさせた。
そして今度はめぐるちゃんから耳打ち。
「……約束ですよ。」
それだけ言うと、めぐるちゃんは大慌てで私たちの前を先導するように歩きだした。
追いかけて車に向かう。
約束か。
まあいい。
髪を撫でさせてくれるのは嬉しいな。
あとでが楽しみだ。
駐車場に戻ると、鈴もこのみちゃんものんびり後部座席でくつろいでいた。
やっぱり待たせてしまってはいたらしい。
とりあえずこれで美ら海水族館の探検は終了。
とても楽しい水族館だった。
まずはひとつ、いい思い出作成完了だ。




