美ら海withフラン
「着いたぞー!降りろ!ハリーアップ!
このみ、早く、早く!」
目的地に着くと、後部座席からそんな声が響いた。
押し出されるように車から飛び出すこのみちゃん。
目的地、美ら海水族館。
そこに着いた途端に鈴のテンションはさらに一段階上がった。
テンションが極限まで上がっているのは鈴だけではない。
運転席のフランも同様だった。
「あぁついに……ついにです………!
ジンベエザメさん、すごく楽しみです……!」
そんな風にボソボソと呟いていた。
その手を握る。
するとフランはキラキラと目を輝かせて私の顔を見あげた。
「一緒に!見れますね!」
「うん、一緒にね。楽しみだね。」
繋いで無い方の手でフランのほっぺをムニムニと触る。
フランはえへへと顔を綻ばせて笑った。
駐車場から降りて少し歩いて中央ゲートを抜ける。
そこから見えたのはエメラルドに光る海と大きな公園。
それだけで私たちのテンションは最高潮へと昇っていく。
「あそこ!見てください!イルカが!
かっこいいです!賢いです!」
「うん!すごいね!」
遠くて全然見えないけど、きっとフランにはもうショーが見えているのだろう。
私の手を握ってきゃーっ!と黄色い声をあげている。
私はそれを見てテンションを上げた。
「王子様、最初はどこに行きましょうか??」
「やっぱりジンベエザメだよな!
めっちゃ大きいらしいし!」
めぐるちゃんと小鳥もハイテンションだ。
手も足もソワソワと、早く水族館の中に入りたいとその全身で訴えていた。
だけどフランの目は遠くのイルカに釘付けだ。
仕方ない。
「ふふっ。私はフランとここでイルカ見てるね。
みんなは先に行っていいよ。」
「じゃあまた後でな。周りきったら連絡くれよ。」
小鳥は話が早くて助かる。
美ら海はフランと2人で周ることになった。
私たちがゲートをくぐった時には既にショーは中盤くらいだったらしい。
10分もしないうちに、フランは正気に戻った。
「わ!お嬢様!ごめんなさい!
ここからじゃお嬢様は見えないのに……。」
「ううん。また後で一緒に行こうね。
それよりも早く水族館の中行こう?」
しゅんとするフランの手を引き、水族館の中へ。
施設に入ると、しゅんとしたテンションは終わった。
ぎゅっと私の手を握り、水槽の近くへとその手を引く。
最初に目に入ったのは珊瑚礁に住むお魚たちの水槽。
青く綺麗な水槽の中、色とりどりの魚が泳いでいた。
「わぁ……」
9月。
お客さんは私たちの他にも多い。
それでもフランの口から漏れた感嘆は私の耳まで届いた。
「どの子が好き?」
私が聞くとフランは口を数回パクパクさせて、そして閉じた。
「決めきれない?」
もう一度聞くと、ただ首を縦に振って答えた。
しばらくそのまま眺めていると、フランははっとした顔で私の手を引いた。
「この先にもたくさんお魚さん居るんですよね??
時間が足りなくなってしまいます!!」
そのまま次のエリアへ。
今度は熱帯魚の水槽。
またキラキラとしたお魚たちが縦横無尽に泳いでいる。
「わ!フラン!この子!」
「あ!クマノミさんですね!」
その中にはクマノミがいた。
みゆちゃんと雛乃と買ったお揃いのキーホルダー。
それもクマノミ。
私たちにとっては絆の象徴とも言えるお魚だ。
「フラン、写真撮ってもらってもいい?」
「もちろんですよ。お嬢様。」
フランがスマホを構え、パシャリと1枚。
綺麗に私とクマノミが写り込んでいた。
「思い出ゲット。ありがとね。」
フランの頭を一度撫でる。
「えへへ。気に入っていただけて嬉しいです。」
フランは目を細めてにこりと笑ってくれた。
それからしばらくのんびりと移動。
フランが立ち止まったり、私が立ち止まったり。
それぞれ好きなように好きなものを好きなだけ見て進む。
とてもとてものんびりとした時間。
「お嬢様、ヒトデさんかわいいですね。
ヒトデさんは星みたいなんですよね。」
水槽の下の方。
そこで寛ぐヒトデを見てフランはそう言った。
「うん、お星様みたいだね。」
私がそう答えると、フランはくすくすと笑った。
「?なにか変?」
「はい、宇宙の星たちとは全然違いますから。」
フランはヒトデに見惚れながらそう笑う。
そっか。
フランは宇宙の旅で星をたくさん見てるもんね。
ヒトデはお星様には見えないのかな。
「はぁ……ヒトデさん可愛いです……。」
でもそんなことは関係ないらしい。
涎を垂らさんばかりにヒトデを慈しむフランの姿。
「ヒトデさんはヒトデさんの形です……。
せめて星たちがヒトデ形を名乗るべきです……。」
そう他の水槽よりも長いこと愛でるように立ち止まっていた。
しばらくしてヒトデの居た水槽を後にした。
次は待ちに待った……。
「あ!王子様!」
後ろからそんな声がした。
そして次の瞬間、背中から抱き締められた。
「めぐるちゃん!?」
急にどうしたの!?
そんな街なかで抱きつくような子じゃなかったよね!?
そう思いながら振り向くと、顔を真っ赤にした雛乃が居た。
「ごめんなさい……。躓いちゃっただけよ。」
恥ずかしそうに目をそらす雛乃。
その少し後ろに小鳥とめぐるちゃんが居た。
「よっ。雛乃、大丈夫か?」
「は、はい。お見苦しいところを……。」
「いいよ。ほら。」
雛乃がさらに顔を赤くして小鳥の手を取る。
でもこれで5人になった。
次のエリアはジンベエザメ。
みんなが見たがっていた今回の旅の目玉の一つ。
5人で見たら、きっとまたすごく楽しい。




