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余命60年の私と余命8億年の君  作者: とりもち
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みんなで夏祭り 後編


「新入り!大好き!」


お留守番中、いちごうさんが私に抱きついた。

そして私の身体を大きく揺さぶった。


「わ、わわわ」

「超大好き、一生養う!最高!」


揺さぶる速度が上がる。

そしてそれが最高速に達したとき、フランたちが戻ってきた。


「わ!お嬢様を離してください!」

「わ!ごめん!」


いちごうさんからフランへ私の身体の所有権が移る。

フランはぎゅっと私の身体を抱きとめてくれた。

大変な目に遭った。

ちょっと目がくらくらする。


「だって見て!新入りが当ててくれたんだよ!」


スマホの画面。

そこにはソシャゲの10連ガチャの結果画面。

キラキラとした女の子が2人映っていた。


「まさか2枚抜きしてくれるなんて!

 課金しても出なかったのに!」

「どういたしましてだよ。役に立てて良かった……。」


フランだけじゃなくてみゆちゃんも頭を撫でてくれた。

怪我の功名。

ちょっと得した気分。


「あ、みゆちゃん。次はお好み焼き?」

「うん。またとくべつ。」


半分こされたお好み焼きの上にはたこ焼きが乗っていた。

ほくほくとした笑顔でみゆちゃんが頬張る。

食べ終わると、みゆちゃんは雛乃の膝の上で寛ぎ始めた。


「よしよし。ゆっくり休んでね。」

膝の上に座るみゆちゃんを雛乃が撫でる。

みゆちゃんは嬉しそうにされるがままになっていた。

「あ、良いな〜。みゆちゃん、こっちにも。」

「駄目、みゆちゃんは渡さないわ。」

「ケチ!私の方にも来て!」

雛乃とメイドさんたちで熾烈なみゆちゃんの奪い合い。

渦中のみゆちゃんはそれを気にも止めずに、姿勢を変えた。

雛乃の膝を枕に、ゆったりと寝転ぶ。

「まんぷく。うごけない。」

よっぽど満腹になったらしい。

そのまま動かなくなってしまった。


「ねーむれー。ねーむれー。」


雛乃が子守唄を歌う。

ちょっと音痴だったけど、みゆちゃんはすぐにスヤスヤと寝息を立て始めた。


「新入り、みゆちゃんは私が見ておくから。

 お祭り楽しんできていいわよ。」


雛乃はそう小さな優しい声で言った。

どうしようかなって思った時だった。


「雛乃だけだと危ないだろ。あたしも残るよ。」

「ひゃい!?」


小鳥も残ることを提案した。

それならむしろ残る方が邪魔だろう。

メイドさんたちもそれを察したようで、雛乃たちを残して私たちは改めて屋台の方へと向かった。


鈴とこのみちゃんは少し2人で回りたいと別行動。

それでもけっこうな大人数。

わちゃわちゃしながら歩く。


「キャプテンさんは残らなくて良かったの?」

ちょっと離れたところで聞いてみた。

キャプテンさんも小鳥が好き……だったよね。

雛乃と2人残すのは心配じゃないのかな。

「大丈夫です!まだお腹いっぱいじゃないですから!」

ちょっと首を傾げたあと、キャプテンさんはそんなお返事をした。

意図はうまく伝わらなかったらしい。


こういう場合ってなんて言ったら良いんだろ……?

雛乃もキャプテンさんも応援してるから、どっちかに肩入れすることはしたくないし……。

複雑……。


「あ!」


何かに気づいたようにキャプテンさんは声をあげた。

そしてチョチョイと手招き。

私の耳元に口を寄せた。


「えっと私から小鳥さんはアイドルを推してるみたいなものなので……。

 気にしないでくれて大丈夫です!」


そこまで言って、キャプテンさんは1歩私から距離を開けた。

そしてまたひとこと。


「もちろん先輩を邪魔する気もないですよ!

 応援してます!」


そう爽やかに言った。

私を応援?

私は……。


「新入りー!なんか奢る!ガチャのお返し!」

「わ!」

「お嬢様、大丈夫ですか?」


急に浴衣の袖を引っ張られて体勢を崩しかけた。

よろめいたところを、今度はフランが支えてくれた。

キャプテンさんに声をかけ直そうとしたら、ニッキさんがキャプテンさんと話し始めてしまった。

仕方ない。

今はフランといちごうさんとお話しよう。


「お嬢様は水ヨーヨー釣りが得意なんですよ。」

ふふんっとフランが胸を張る。

私もそれに合わせて胸を張った。

「こう見えて手先は器用だからね。

 取ってほしい水ヨーヨーがあったら教えてね。」

ちょうど水ヨーヨーの屋台が近くにあった。

ここは実践で見せるとしよう。


「めぐるちゃん、どれがいい?」

どうしても奢りたいといういちごうさんに奢ってもらい、こよりを構える。

めぐるちゃんが奥の綺麗な紫色の水ヨーヨーを指差した。

狙いを定めて、ゆっくりと……。

「ふふんっ。」

取れた水風船を見せびらかす。

みんなが拍手でお祝いしてくれた。

とても気持ちいい……。


「じゃあ次は私も〜」

「じゃあ私も頑張りますね!」


ニッキさんとキャプテンさんも店主さんに100円ずつ。

2人もこゆりを構えてゆっくりとヨーヨーに近づけた。


「わ、キャプテンさん上手ですね!」

めぐるちゃんの感嘆の声。

「屋台とか昔から得意なんです。

 はい、お一つどうぞです!」

キャプテンさんはささっと3つ取って、そのうちの1つをめぐるちゃんにあげた。

「私はだめだ〜。いちちゃん、取って〜。」

「はいはい、全くしょうがないなー!」

ニッキさんは1つも取れずにこよりが千切れた。

代わりにいちごうさんが1つ取って、ニッキさんにプレゼントした。


「ふふふ。お嬢様、負けないでください!」

「ふふっ。頑張るね。」


1人につき取れるのは3個まで。

水ヨーヨー釣りマスターとして、キャプテンさんに並びたいところだ。

さっきよりも集中。


「どう!?すごいでしょ!?」

「お嬢様!さすがです!」

「新入りもやるじゃん!」


2個同時釣り。

これで面目は保たれた。

ふふふ。えへ


「ぎやっ!」


こよりが千切れて2つとも落ちた。

びちゃんと上がる水しぶき。

私の成果は1つだけになってしまった。


「お嬢様、お嬢様」


フランが手招きする。

私はそこに寄っていく。


「よしよし。」

「ありがとフラン……。」


私の手を取ってさすって慰めてくれた。

ちょっと元気回復。


「あー………。優しいフランちゃんも好き……。

 癒される……。」

「サンサンお姉様にも。」

「ひゃーっ!!」


フランがサンサンさんの手も取る。

サンサンさんは悲鳴をあげて倒れ込みそうになった。

いちごうさんとニッキさんがそれを支えた。


「お前ら何やってんだよ。浮かれすぎんなよー。」


そんな時によく知った声が後ろから聞こえた。

鈴の声。

振り返るとまぁ楽しそうな姿が見えた。


「な、なんでそんなに僕のこと見るんですか……?」


青い浴衣姿のこのみちゃん。

そこにりんご飴、綿あめ、ヒーローのお面、変な声で鳴く黄色い鳥の玩具。

そんなゴテゴテのトッピングがされていた。

さっき別れたのはつい15分くらい前。

たったそれだけの時間でそれだけ楽しめるとは……。

できる奴。


「ごめんね、これ触ってもいい?」

「え、どうぞです。」


黄色い鳥のお腹をぎゅって掴む。

ぅぁぁーーっと変な声が鳴った。


「へいキャプテンちゃーん。楽しんでるー?」

少し目を離した隙に鈴がキャプテンさんにだる絡みしていた。

「はい!もちろんです!

 はい、鈴ちゃんにもこれあげます。」

3つ有った水風船。

そのうちの1つが鈴に。

鈴は楽しそうにビヨンビヨンとヨーヨーで遊び始めた。


「なぁなぁ、キャプテンちゃん借りていー?」

しばらく遊んで満足したのか、鈴はキャプテンの手を引きながらそう言った。

「はい!大丈夫ですよ!

 あ、でも2人の邪魔にはならないでしょうか?」

キャプテンはこのみちゃんの方をちらりと見てそう言った。

「鈴ちゃんとはお祭り何回も行ってますから。

 気にしないで大丈夫ですよ!」

そうこのみちゃんが言ったことで、キャプテンさんは大人しく鈴たちについていった。


「じゃあ私たちも少し別行動するね!」

「ほら、さんちゃん。行くよ〜。」

「わ、ま、待って!フランちゃんもっと

「待ちません!」


いちごうさんとニッキさんがサンサンさんを引っ張っていく。

私とフランとめぐるちゃんの3人になった。


「今日はいつもより賑やかだったね。

 みゆちゃんの人徳はさすがだよ。」


私が言うと、フランもめぐるちゃんも口元を抑えて静かにくすりと笑った。


「どうしたの?なにか変なこと言った?」


笑われるようなこと言ったかな?

でもその答えはすぐに教えてくれた。


「皆さんお嬢様のお友達でもありますよ?」

「はい、私たちみんなのお友達ですから。」


そして2人はまた小さく笑った。

それが当然だというように。


(そっか。私の友達でもあるんだよね。)


メイドさんたちにキャプテンさん。

そういえば今日は自然に笑って話せてたっけ。


「ふふっ。そうだね。私の友達でもあるね。」


なんだか幸せな気分になって笑ってしまった。

なんとなく皆とはちょっと壁を感じてたけど、そんなことはないのかもね。


「ねぇ、皆もダメ元で旅行に誘ってみていい?」

「もちろんです!」

「はい、王子様がしたいなら!」


フランもめぐるちゃんも頷いてくれた。

まぁ本当にダメ元だけどね。

最悪お土産のリクエストだけでも聞いてみよう。

そう思った時。


「きょうだいー。キャプテン旅行駄目だってー。」

「急すぎるもん。仕方ないよ。」


後ろからそんな声が聞こえた。

鈴とその後ろに苦笑いのこのみちゃんと申し訳なさそうなキャプテンさん。


「俺が車で連れてくって言ったのにー。

 駄目だって言われちった。」


鈴が口を尖らせる。

キャプテンさんは困ったように、でもどこか嬉しそうに微笑んだ。


「今回はごめんなさい。

 でも皆が誘ってくれて嬉しかったです。」


皆?


「はい、小鳥先輩もみゆちゃんも。

 それに雛乃ちゃんも誘ってくれたんですよ。

 もし次があれば、その時は絶対参加しますね!」


その言葉で改めて理解する。

キャプテンさんは皆の友達。

私の友達のキャプテンでもなく。

小鳥の友達のキャプテンさんでもない。

友達の友達じゃなくて、皆の友達。


「じゃあ次は絶対に。

 そうだ、お土産なにがいい?」

「沖縄だとやっぱりちんすこうでしょうか?

 美味しいものだと嬉しいです!」


もちろん了承した。

とびきり美味しいものを探してこよう。


そのまましばらくウロウロ遊んで。

メイドさんたちにもお土産を聞いて。

目覚めたみゆちゃんとも少し遊んで。

そのお小遣いが無くなった頃。


「そろそろ帰ろうか。」


小鳥がそう切り出した。

楽しい時間はあっという間。

時刻は19時。

もう帰る時間だ。


皆で撤収する時間。

駅まで歩く時間。

そんな時間も全部が楽しくてあっという間。

皆と別れて電車に乗って。

アパートのメンバーだけの帰り道。

ちょっと寂しくなったけど、それでも楽しい時間。


だからきっと私たちの時間は全部が楽しくて。

沖縄までの一週間もあっという間に過ぎていく。

そして9月の6日金曜日。


私たちの沖縄旅行はもうすぐ始まる。

沖縄の前に、1話だけ幕間のお話を挟みます。

鈴ちゃんとこのみちゃんのふたりっきりの日のお話です。

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