くんづほぐれつツイスター
ツイスターゲーム。
それを見て最初に思ったこと。
(これって現実にあるんだ……。)
漫画では確かによく見るけど、まさか自分がすることになるとは思わなかった。
あれだよね、組んず解れつするエッチなゲーム。
めぐるちゃんの目は燦々と輝いている。
組んず解れつしたいのが丸わかりだった。
「ツイスターゲームか……。
めぐる、お前大丈夫なのか?」
小鳥の言葉にめぐるちゃんは頷いて答えた。
めぐるちゃんは運動全般が苦手。
ツイスターゲームだって得意じゃないと思う。
それでもワクワクしながらボードを床に敷いた。
赤、青、黄色、緑。
縦にその順番で、横には各色6つずつ。
計24個の丸が広がっていた。
「じゃあ4人だしトーナメント制にしよっか。」
グッパーでチーム決め。
一回戦は私とめぐるちゃん。
2回戦は小鳥とこのみちゃん。
そこが事実上の決勝戦だ。
「お手やわらかに頼むよ。」
「こ、こちらこそです。えへへ。」
ニヤけが隠せていないめぐるちゃんはさておき。
審判である小鳥からルール説明。
「えーと。一応ルール説明な。
審判がルーレットを回す。
そんでルーレットに指示された色に、指示された身体の部位を置いてください。
掌と足の裏以外が地面についたら負けな。」
ルールのおさらいもオッケー。
最初の位置である左右端っこ、真ん中2つの青と黄色。
そこに足を置いて向かい合わせに立つ。
さっそくゲームスタートだ!
「行くぞ……!」
カラカラと音を立ててルーレットが回る。
最初の一つは……。
「赤に左手。」
めぐるちゃんが赤の丸にそっとその手を置いた。
私も隣接する赤の丸に手を伸ばす。
「お、王子様……?近くないですか……?」
「だって組んず解れつしたいんでしょ?
望み通りにしてあげるよ?」
「は、はい……。」
小鳥をチラリと見る。
ため息をついてたけど、ゲームを止める様子はない。
囁き戦術はルール違反ではないらしい。
「次は黄色に右足です!」
今度はこのみちゃんがルーレットを回した。
めぐるちゃんは安定優先。
私はまためぐるちゃんの近くに足を置いた。
(ちょっときついけど……!)
私はまだ耐えられる。
手や足がクロスになる場所はなく、力も入れやすい。
だけどめぐるちゃんにとっては最悪の引き。
腕も足も力を入れにくい体勢。
身体をぷるぷると揺らし、限界が近いことを物語っている。
もうちょっと揺さぶれば勝てる。
「めぐる。そんなに頑張らなくていいよ?
大丈夫。
負けてもちゃんと抱き締めてあげるから。」
めぐるちゃんが目を瞑る。
今は私の話を聞く余裕もないらしい。
「次は青に左足なー。めぐる、頑張れー。」
気の抜けた小鳥の声。
それに応えるようにめぐるちゃんがその足を動かした。
でもその両足の間にはスペースがあった。
今ならもっと踏み込める!
「もうこんなに近いね、めぐる。
めぐるがバランス崩したら、私下敷きだね。
降参してもいいんだよ?」
めぐるちゃんの下に身体を潜りこませた。
私を下に敷かないように、めぐるちゃんが両手両足に力を込める。
身体をさらに反らせたことで、めぐるちゃんはさらに限界へと近づいた。
あとほんの少し。
ほんの少しで私の勝ち。
綻びそうになる顔を気合いで抑える。
今はめぐるちゃんの好きな耽美系王子様になりきろう。
「めぐるの顔が近いの、すごく嬉しいな。
ふふっ。顔真っ赤だよ。
あ、そうだ。
負けたらお仕置きの方がいいかな。
その方がめぐるは嬉しいよね?」
私がそう言うとめぐるちゃんはぎゅっと歯を食いしばる。
まだ耐えるか。
「……先輩っていつもああなんですか?」
「……いつもだよ。まったく。」
このみちゃんと小鳥のヒソヒソ話。
私からはあんまりよく聞こえなかった。
「無理だったら降参でもいいですからね!
次は……緑に左手です!」
私からはちょっと辛くて、めぐるちゃんには楽な位置。
ここでは決められなさそうかな。
そう油断した時だった。
「ひゃっ」
身体に柔らかな感覚。
それと顔のすぐそばにめぐるちゃんの綺麗な顔。
今、私、押し倒されてる……?
赤らめた顔でぱくぱくと口を開けるめぐるちゃん。
と、とりあえず私の勝ちでいいんだよね?
めぐるちゃんがバランス崩して私ごと倒れたんだから。
「め、めぐるちゃん……?
私の勝ちだね、退いて?」
めぐるちゃんは赤らめた顔のまま、じっと私を見つめた。
そして……。
「ひゃっ。」
私のお腹に手を入れて軽くくすぐった。
そしてすぐにブンブンと首を横に振って、逃げるように立ち上がった。
「ご、ごめんなさい!頭冷やして来ます!」
「え、え!?めぐるちゃん!?」
そしてぴゅーっと本当に逃げてしまった。
「ふふっ。じゃああたしが呼んでくるな。」
「え、え、じゃあ私も!」
「先輩はだめです!」
小鳥がめぐるちゃんの部屋へ。
私はこのみちゃんに裾を掴まれたから、ついていけなかった。
「先輩はステイです。」
じとーっとした目のこのみちゃん。
ジャージの裾を握られているから、動けない。
「私なんで駄目なの?」
私が聞くとこのみちゃんはため息をついた。
「その質問の時点で駄目駄目です。
先輩はめぐるちゃんの理性に感謝してください。」
そう言ってこのみちゃんはぷいっと横を向いた。
ちょっと怒ってるみたいだった。
それからちょっとして。
小鳥がめぐるちゃんを連れて戻ってきた。
「お前。失格。最下位。」
ただそれだけ言われた。
勝ったのに最下位らしい。
でも小鳥の言う事だ。
甘んじて受け入れよう。
それから小鳥とこのみちゃんのツイスターゲームを観戦した。
いや、すごかったよ。
どんな体勢からでも余裕でクリアするんだから。
それでも最後はこのみちゃんが負けた。
30分にも渡る大激闘だった。
さあ後はお風呂に入って寝よう。
今日もすごく楽しかった。
でもその前に。
「めぐるちゃん、さっきはごめんね。
調子に乗りすぎちゃった。」
ちゃんと謝っておかなきゃ。
からかいすぎちゃってごめんね。
ちょっと線引き間違えちゃった。
「い、いえ。王子様は悪くないですよ!」
「でも大変そうだったよね。
からかいすぎちゃった。」
「い、いえそれも全然大丈夫です……。」
めぐるちゃんは歯切れが悪い。
あんまりこの話題続けてもかな。
別の話題に切り替えよう。
そう思った時だった。
「……ぅじ様ってあんな可愛い顔もするんですね……。」
めぐるちゃんはとっても小さな声で囁いた。
それはとっても小さくて私にはうまく聞き取れなかった。
「ごめん、ちょっとあんまり聞こえなかった。」
「な、なんでもないです!」
まためぐるちゃんはぴゅーっと自分の部屋に逃げてしまった。
取り残された私はこのみちゃんに尋ねる。
「めぐるちゃん、大丈夫だと思う?」
「大丈夫じゃないです。って行っちゃだめです!」
またこのみちゃんに裾を引かれた。
人の心は難しい。
地球人同士だって、それは分からないことだらけだ。




