第2回お部屋シャッフル
沖縄旅行まであと1週間と少し。
という訳で今日は旅行前に親睦を深めようの会。
じゃあ何をするか。
もちろん部屋シャッフルだ。
だって普段と違う組み合わせでも会話したいしね!
「せーの!グッパージャス!」
私、小鳥、めぐるちゃん、このみちゃんがグー。
フラン、みゆちゃん、雛乃、鈴がパー。
それが今回の部屋割りになった。
「じゃあまた明日の朝ね!」
「えぇ、また明日。」
「夜更かししすぎちゃ駄目ですよ!」
「またあしたね、おねえさん。」
「いてらー!」
パー組に手を振って小鳥の部屋へ。
小鳥はあらかじめ4人分の座布団を引いてくれていた。
さて、なにをしようか。
「はい!僕ゲーム持ってきました!」
「あ、私もです!」
後輩組が元気よく手をあげた。
威勢がいいのは良いことだ。
「じゃあ先に手をあげたこのみちゃんから。
なにを持ってきたの?」
「僕はこれです!」
このみちゃんが持ってきた鞄からなにかを取り出した。
ナンジャモンジャ?
そんな名前のカードゲームだった。
「あ、私もこれ持ってます!」
「え、そうなの!?
それならみんな経験者だったりしますか……?」
その質問には首を横に振った。
めぐるちゃんの玩具だらけルーム。
私たちはその全貌の1割だって遊べていない。
「にしても可愛い絵柄だな。どんなゲームなんだ?」
パラパラと小鳥がカードをめくる。
そこにはカラフルな一頭心のモンスターたち。
立派なヒゲが生えていたり、もじゃもじゃしていたり。
そんな可愛い生き物がそのカード1枚ごとに1人描かれていた。
このみちゃんが説明書を手に取る。
ルールは以下のとおりだ。
真ん中に山札を置き、1人ずつ順番にカードをめくる。
めくられたカードが初めて見るモンスターなら、めくった人が現れたモンスターに名前をつける。
そしてめくられたカードがもう名前のつけられているモンスターなら、参加者たちは早い者勝ちでその名前を叫ぶ。
最初に叫んだ人がそのカードを手に入れる。
それを繰り返して、山札が無くなった時に一番カードを持っていた人が勝利。
ちなみにモンスターは全部で12種類。
名前を覚えるのもけっこう大変な数だ。
「じゃあ順番はこのみからでいいよな。」
「はい!任されました!」
さっそくゲームスタート。
このみちゃんが1枚カードをめくる。
当然まだ誰も見たことないモンスター。
サングラスをかけた青く四角いモンスターだった。
「このみちゃんのネーミングセンスが問われるね。」
「ぷ、プレッシャーかけないでください……。」
うんうんと少し唸って、このみちゃんはその青いモンスターに『サングラさん』と名付けた。
「普通に覚えやすいな。」
「このみちゃん、もっと変なのでも大丈夫だよ。」
「じゃあ次はめぐるちゃんだね。
お手本見せてあげて。」
「え!?」
私からの無茶ぶりを受けて、めぐるちゃんが恐る恐るカードをめくる。
めぐるちゃんはどんな名前つけるかな。
楽しみ。
「サングラさん!」
「っ!?」
急にこのみちゃんが大きな声を出した。
え、え、まじで?
山札の横には2枚重なったサングラさんのカード。
まさかの連続サングラさん。
反応できたのはこのみちゃんだけだった。
「えへへ。1枚貰いました!」
嬉しそうに笑みを浮かべてこのみちゃんがカードを引き寄せる。
これでこのみちゃんが1枚リードだ。
「くそっ。油断してたな。」
「私も。まさかだったよね。」
私も小鳥も油断していた。
もう油断はしない。
そんな緊迫した空気が流れる。
「ふぅ……」
そんな中でめぐるちゃんはホッとしたように息を吐いた。
「じゃあ次は王子様ですね!
素敵なお名前期待してます!」
「え?」
まさかの反撃。
めぐるちゃんはニコニコと私を見ている。
自分の番が終わったから余裕の笑みだ。
私が引いたカードはピンクで丸くて、頭の上に雲を浮かべてるモンスター。
この子の名前か……。
よし。
「この子の名前は『めぐるちゃん大好き』にしよう。」
「え!?」
めぐるちゃんの顔から余裕の笑みが消えた。
「はい!分かりました!
『めぐるちゃん大好き』!ですね!」
「ふふっ。ああ了解したぜ。
『めぐるちゃん大好き』な。」
あわわとするめぐるちゃんをさておき、この子の名前は『めぐるちゃん大好き』に決まった。
この子が次に出たら『めぐるちゃん大好き』と皆で叫ぶ。
とっても楽しみだ。
「じゃあ次は小鳥だね。」
「ああ、じゃあいくぞ……!」
小鳥がカードをめくる。
そこに居たのはまた知らない子。
青い楕円に真っ赤なほっぺ。
それにキウイの皮みたいなのを被っていた。
「よし。」
小鳥は少し考えて、口を開く。
この子の名前は……。
「ぎゅぎゅいん、ぎゅいーん三世だ。」
「!?」
私が驚くと、小鳥はジト目を向けてきた。
「なんだよ。悪いか?」
「いや!悪くないよ!可愛いと思う!」
ぎゅぎゅいん、ぎゅいーん三世。
確かにキウイの皮は王族の冠っぽいかも……。
よし、覚えた。
これで一周。
それからもどんどんゲームは進行していく。
「じゃあこの子はヒゲモジャバナナにします!」
「え、えっと……。
この子は紫豆騎士です!
傘が武器みたいですから!」
「この子はアビスコンダクターテンタクル。
このランプは、深海を歩くのに使うんだ。」
着々と命名は進む。
次は小鳥の番。
「ぎゅいん、ぎゅいーん三世!」
「ぎゅぎゅいん、ぎゅいーん三世です!!!」
小鳥とめぐるちゃんが同時に叫ぶ。
私とこのみちゃんは出遅れた。
「小鳥さんの方が早かったですね。」
「でも残念。」
小鳥が首を傾げる。
「この子はぎゅぎゅいん、ぎゅいーん三世です!」
「え!そうだっけ?」
そう、小鳥は名前を間違えた。
なのでめぐるちゃんがそのモンスターを手元に収めた。
「ふふっ。自分でつけたのに間違えてんじゃん。」
「うるせ。」
なにはともあれゲーム再開。
いちごガール(このみちゃん命名)
赤髪公爵(めぐるちゃん命名)
ひゅいんひゅいんぷかぷか(小鳥命名)
ラビュリンスガーディアン(私命名)
変なキャラクターたちに変な名前がどんどんついていく。
「あ、めぐるちゃん大好き!」
「めぐるちゃん大好き!」
「えっと……出遅れたけど……。
僕もめぐるちゃん大好き!」
私の勝ち。
めぐるちゃんは顔を手で覆って隠した。
「めぐるちゃん大好き、可愛いな。」
「ああ、めぐるちゃん大好き。
とびっきり可愛いよな。
なんだかふわふわしてる。」
「やめてぇ」
「せ、先輩がた……。
それくらいにしては……?」
このみちゃんに止められたからストップ。
ゲーム再開。
やっぱり瞬発力を問われるゲームだと小鳥はとても強い。
それにこのみちゃんも瞬発力では負けていなかった。
だから私とめぐるちゃんは記憶力で勝負。
全部で12種類のカード。
前半は小鳥たちが強かったけど、後半にリードを詰めた。
山札は残り5枚。
名前をつけるのに使った12枚はゲームから除いて、奪い合うのは48枚のカード。
現在の内訳は小鳥が13枚。
めぐるちゃん9枚。
私とこのみちゃんが11枚ずつ。
誰が勝ってもおかしくない。
小鳥が山札をめくる。
「めぐるちゃん大好き!です!」
めぐるちゃん!?
「腹をくくりました……!この子は貰いますね!」
めぐるちゃんはそう言ってカードを手元に引き寄せた。
「成長したね。私は嬉しいよ。」
でも誤算だ。
めぐるちゃんはその子の名前を叫べなかった。
それに残りのカードの中にまだ『めぐるちゃん大好き』は1枚残ってる。
だからめぐるちゃんはもう脱落したと思ってた。
まだめぐるちゃんもワンチャンある。
「では次をめくりますね……!」
このみちゃんが山札に手をかけた。
カードがめくられるその一瞬を、目を凝らして待ちわびる。
「アビ……」
「アビスコンダクターテンタクル!」
「アビスコンダクターテンタクル!」
めぐるちゃんの方が私より一瞬早かった。
これで11枚。
私とこのみちゃんに並んだ。
「めぐるちゃん大好き!」
まためぐるちゃん。
完全にゾーンに入っている……!
残りは1枚。
小鳥が現在13枚。
めぐるちゃんが12枚。
私とこのみちゃんが11枚。
もう私たちに勝利の可能性はない。
(……でも)
一度深呼吸。
次にカードをめくるのは小鳥。
私はそれが裏返るその一瞬に備え、呼吸を整える。
「ラビリュっいたっ!」
「え、え、ラビュリンスガーディアン?」
舌かんだ。
残りのカード、わかってたのに。
私のあとすぐにめぐるちゃんが取って勝者確定。
小鳥とめぐるちゃんが同率1位。
私とこのみちゃんが同率3位となった。
「……おめでとう、2人とも」
「えと……先輩、大丈夫ですか?」
このみちゃんが心配そうに見てくる。
小鳥が水を入れてくれた。
「なにはともあれおめでと!」
私が言うと小鳥とめぐるちゃんは少し口角を上げた。
「お二人とも強かったですね。
次は負けませんからね!」
このみちゃんが言うと、めぐるちゃんはその手を握った。
「うん、また一緒にしようね!
このみちゃんも強かったよ!」
勝負のあとはノーサイド。
お互いの健闘を称え合う。
接戦だったし、とても楽しかった。
「あ!ちょっと待っててくださいね!」
みんなでワイワイしていたら、めぐるちゃんは自分の部屋へとピューっと走っていった。
そういえばめぐるちゃんもやりたいゲームがあるって言ってたっけ。
どんなゲームだろ。
「お待たせしました!これ!やりたい!です!」
その手に持つものを見て思う。
めぐるちゃんは本当に欲望に忠実で可愛いな、と。
「ツイスターゲーム!やりたいです!」
めぐるちゃんはそう元気よく宣言した。




