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余命60年の私と余命8億年の君  作者: とりもち
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幕間 フランちゃんと出会った日

せっかくなので、山城さんとフランちゃんが出会った日のお話です。

時系列的にはめぐるちゃんと出会ってちょっと経ったくらいの頃です。


「今日は〜星見酒〜。ふんふふーん。」


天気は晴れ。

お月さまもお星さまもよく見える。

そんな最高の天気。

今日の肴は綺麗な夜空。

お金もかからないし、ふふふ。

とっても素敵な夜だ。


大家さんが作ってくれたベンチに腰掛けて空を見上げる。

そして手に持った安物のワインをひとくち。

ああなんと素晴らしい。

綺麗な星に美味しいワイン。

誰に気兼ねすることもなく、それを楽しむ。

まるでこの夜の主役になったようだ。

だれにも私の邪魔はできまい……!


「こんばんは!何してるんですか??」

「……っ!!」


小さな子どもの声。

え、今は深夜の1時だよ……?

だ、だれ……?


お化けかと思い振り返る。

そこには中学生?くらいの女の子。

しかもなぜか執事服。

あまりにも現実離れしている。


「し、執事の幽霊……?」


手を伸ばし、その頬に触れてみる。

ぷにぷにしてる。

どうやら幽霊ではなさそう……。


「幽霊とは失礼ですね!

 私はフランと申します。お嬢様の執事なのです。」


恭しくお辞儀をする女の子。

釣られて私も頭を下げた。

えっと、私も自己紹介した方がいいのかな……。


「……私は山城メアリ。そこのアパートに住んでる。」

「わ!住民の方だったんですね!

 私も同じアパートです!

 202号室に住んでるんです!

 ようやくお会いできて嬉しいです!

 よろしくお願いしますね!!」


女の子はすごくにこやかに私の手を取ってぶんぶんと振り回した。

でも202号室?

あそこは202ちゃんが一人暮らししてるんじゃなかったっけ。

いつの間にこんな可愛い子と暮らすようになったの?


なんか話すほど疑問が出てくる。

こういう時は一度お酒を飲もう。


「あっ!」

「ひゃっ!」


女の子……いやフランちゃんが急に大きな声を出したからびっくりしてお酒を零してしまった。

い、いったいどうしたの……?


「それ、お酒ですよね!

 し、しかも瓶ごと一気に……!

 駄目です!健康に悪いです!」


ぴょんぴょんと跳ねて私の手から瓶を奪おうとしてくる。

私は両手をうんと伸ばしてお酒を死守した。

こればっかりは渡せないから。

それに……。


「……大丈夫。私は健康。」


そう、私は至って健康なのだ。

心配されることなどなにもない。

ていうかむしろ心配すべきは……。


「……フランちゃんこそ夜は危ない。

 早く帰りなさい。」

「私は大丈夫です!

 山城さんこそ危ないです!」


フランちゃんはまだぴょんぴょんと跳ねている。

絶対に夜に出歩く方が危ないのに。

どうにかしてお家に帰さないと……。


「……じゃあ今日はお酒飲むのやめる。

 だからフランちゃんも帰ろう?」


私がそう言ってお酒をフランちゃんに渡すと、渋々といった風に頷いてくれた。

星見酒が中断したのは残念だけど、背に腹は代えられない。

この子の無事の方がよっぽど大事だ。


「ではお部屋までお見送りしますね!」


フランちゃんはそう言って私についてきた。

そんな必要はないけど……。

まあでもそれでこの子が満足するならいいかな。

私はまっすぐに自分の部屋へと向かう。


部屋の扉を開けて、フランちゃんに向き合う。

最後にちゃんとお家に帰るように念を押しておこう。


「……フランちゃん。こんな深夜に……

「メアリお姉様。」


念を押そうとした時、とてつもなく冷えた声が聞こえた。

それがフランちゃんから出た声だとは気づかなかった。

それほどまでに、その声に含まれる怒りは小さな女の子から出たものとは思えなくて。

私はぎゅっと口を結ぶことしかできなかった。


「それは、なんですか?」


フランちゃんが指を指す。

その奥にあるのは……。


散らかりに散らかった私の部屋。

玄関までゴミが散らかっている汚部屋だった。


「こ、これは……。」

「お片付けしましょう。こんなの許せないです。」


ずけずけとフランちゃんが部屋に入ってくる。

押し返そうとしたら、すごいパワーで弾き返された。


「これなんて腐ってます!

 もう!今から大掃除です!

 ゴミ袋とってきますね!」


そしてフランちゃんは瞬く間に私の部屋を綺麗にし、その3倍の時間をかけて私にお説教をした。


「これからもちょくちょく見にきますからね!

 ちゃんとしてたら褒めて差し上げます。

 だから頑張ってくださいね!」


ぷんぷんと頬を膨らませる私よりもずっと小さな女の子。

私はそれを正座してガクガクと震えながら眺めることしかできなかった。


つまり、私とフランちゃんの格付けは一夜にして決まってしまった。


私は怒られる立場のダメ人間。

フランちゃんはしっかりものの良い子。


だから私はフランちゃんの夜更かしを嗜める権利なんて失ってしまったのである。

それが私とフランちゃんのファーストコンタクトだった。


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