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余命60年の私と余命8億年の君  作者: とりもち
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山城メアリの取り調べ


「……202ちゃん、お酒は飲める?」

「絶対だめです!」

「……そっか。」


私の部屋の真下。

102号室。

そこで私たちは取り調べを受けることになった。

カツ丼の代わりに差し出されたワイン。

当然、フランが許してくれるはずなかった。


「あぁもう!また散らかして!」

「……ごめんね。」


さらに、家に入るとフランはぷんぷんと怒り出した。

空っぽのワイン瓶やおつまみの袋で散らかった部屋。

それを見るなりフランは怒りながら部屋を片付け始めた。

山城さんも気まずそうにゴミ袋を用意して、近くのものをぽいぽいと捨て始めた。


「あ、私もなにか手伝います!」

「……いや、触らないでいいよ。

 捨てたくないものもあるし……。」

「いえ、全部捨てます!

 これなんて腐ってるじゃないですか!」

「……大丈夫。私なら食べれるから。」

「だめです!絶対にだめです!」


机の上に出しっぱなしだったカニカマ。

フランはそれを迷わずゴミ袋に入れた。

そんなこんなで30分。


「……ごめん、起きて。」

山城さんが私の背中をさする。

ついウトウトしてそのまま寝てしまったみたいだった。

「ごめんなさい、普段寝てる時間だったので……。」

私がそういうと、山城さんは小さく首を横に振った。

「……ううん、大丈夫。それよりも……。」

山城さんが言葉を溜める。

次の言葉で私はまた一気に現実へと引き戻された。


「……フランちゃん、何者なの?」


そうだ。

見られたんだった。

フランが空歩いてるところ。

あぁでも眠すぎて頭回らない。

フラン、フランは……?


「……フランちゃんならゴミ袋取りに行ってるよ。

 だから……202ちゃんが答えて。」


フランは居ない。

居ない隙に私を起こすなんてずるい。

そんなの……。

私もズルで返すしかないじゃん。


「……」

「……え、え、寝ちゃった?嘘でしょ?」


寝たふり。

せめてフランが帰ってくるまでは誤魔化す。

だって大事なことだし。

フラン居なきゃ答えません。


「起きて。202ちゃん、前に生ハムあげたでしょ?」

「……むにゃむにゃ。おなかいっぱいです。」

「たぬき寝入りじゃん……。バレてるよ……?」

「ただいま戻りました!」


よし、時間は稼げた。

立ち上がってフランの元へ。


「よし、じゃあフラン。帰ろっか。」

「……え」

「あ!お嬢様!メアリお姉様とお話したいです!」


フランがそう言うのなら。

誤魔化す作戦は中止だ。


「見られちゃったからにはしょうがないですよ。

 うー。それにしても迂闊ではありました……。」

フランはそう言って私の裾を小さく引っ張った。

山城さんがお昼には活動できないこと。

だから深夜にお散歩してることが多いこと。

それを忘れてたのは実際私たちのミスだ。

「しょうがないか……。

 それで質問とはなんでしょうか?」

改めて山城さんに向き合う。

一瞬目を離したら、その手には安そうなワイン。

グラスも用意せずにラッパ飲みしていた。


「あー……。ごめん。202ちゃんが誤魔化すから……。

 お酒飲みたくなっちゃった……。

 そうそう……。えっとね……。あれ?」


頭を傾げる山城さん。

その様子を見て思う。


「フラン、もう良くない?」

「駄目ですよ。」


駄目だった。

まあ私の知らないところでフランと山城さん、けっこうお話してるみたいだし。

さっきもまた散らかしてって怒ってたし。

きっとたまにお掃除してあげてたのかも。

あんまり友達の信頼損ねる行為は駄目か。


「私たちのお散歩見たんですよね?」

「……あー、うん。そうだった。教えて……?」


かくかくしかじか。

今日はお祭りがあったこと。

空飛べたら急いで帰るときも楽だと思ったこと。

夜更かしのためにフランにお着替え手伝って貰ったこと。

空で見たフランの顔はすごく綺麗だったこと。


「つまりフランはすごく可愛いんです。」


私はそう言って結論づけた。


「え、えっと……。たしかに、そうかも、ね……。」


山城さんは少し首を傾げながら納得してくれた。

誤魔化すことに成功した?

多分?


「それと私は宇宙人です。

 改めてよろしくお願いしますね。」


だけどフランが答えを言ってしまった。

山城さんは首を傾げて3秒ほどフリーズした。


「……あ、えと、や、やっぱり?」

「まあ、はい、その通りです。」


もうフランが答えを言ってしまったからにはしょうがない。

私が認めると、山城さんはゆっくりとワインを飲んだあと。

「……そっかー。」

とひとことそう言った。


「……大丈夫。誰にも言わないから。」


山城さんはそう言ってプリンターからコピー用紙を1枚抜いた。

そして【誓約書】とタイトル。

その下にもなにやら色々と書き込んだ。


『私、山城メアリは秘密を守ります。

 破ったら、1千万円払います。

 破らなかったら、たまに褒めてくれたら嬉しいな。

                 山城 メアリ』

 

「……これでいいよね?」

「えっと、はい。大丈夫です。」


とはいえ、なんの効力もないコピー用紙への殴り書き。

そこまで安心材料にはならない。

でも一応は受け取ってフランにしまってもらった。


「……まだ足りない、よね。」


山城さんがとても小さな声でそう言った。

聞き取れたのが奇跡と思えるような声量。

そして1つため息をついて私の耳元に顔を寄せた。


「……私の秘密も教えてあげる。」


冷えた吐息が耳にかかる。


「……実は私ね」


「……吸血鬼なの。」


高い身長、金髪、赤い目。

彼女の見た目を思い出す。

そんな一瞬。

その一瞬で彼女は私の首筋にそっと歯を立てて。


そしてフランに弾き飛ばされた。


「……痛い」

「お嬢様は私のお嬢様です!」


フランがはむはむと私の首筋を歯を立てずに甘く噛む。

マーキングされてる。


「……ごめん。冗談だよ。普通に人間。

 2人ともこわいかおしてたから。

 笑わせようと思ったの。鉄板ネタだから。」


山城さんが早口で謝る。

全然冗談に思えなかった……。


「……でも秘密は本当だから。信じて欲しい。」

「それは……本当にお願いしますね。」

「……うん。」


首筋をはむはむするフランの代わりに答える。

少しマーキングして満足したのか、フランが私の手をひいた。


「ではお嬢様はもう睡眠の時間なので。

 今日は失礼します。

 ちゃんとしたもの食べてくださいね!」

「……うん、ばいばい。またね。」


私も手を振って部屋から出る。

そのまま階段を上がって自分の部屋へ。

お風呂に入って、布団に潜って。

フランが優しく頭を撫でてくれるなか、私は眠りについた。


山城さんはよく空にいる私たちを見つけられたなー。


そんなぼんやりとした疑問なんて、眠るころには完全に消えた。

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