フランとの夏祭りデート
「お嬢様お嬢様。えへへ。こちらに来てください。」
朝ごはんの後しばらくして、フランが私の手を引いた。
ジャージから着替えて今日は何しようかな、そう思っていた時だった。
「お嬢様、今日はですね。
行きたい場所があるんです。」
「行きたい場所?」
「はい。でもその前にプレゼントです!」
フランがクローゼットから何かを取り出した。
そしてその正体はすぐに分かった。
「じゃーん、浴衣です!
お揃いなんです。一緒に着ませんか?」
上目遣いで私を見上げるフラン。
もちろん私は了承した。
お揃いなんて素敵すぎる。
とっても嬉しい……。
「量販店で買ったものですけどね。
チューリップの柄、中々見つからなくて。」
「ううん、ありがとね。フランと一緒嬉しいな。」
白地に青のチューリップ柄。
それに濃い青色の帯。
青い色はフランっぽくて好き。
それに……。
「チューリップ嬉しいな。
私の好きなお花選んでくれたんだ。」
「えへへ。ちゃんと覚えてますからね。」
チューリップは思い出の花。
家族との楽しかった思い出とフランとめぐるちゃんとの大事な思い出。
それを選んでくれたのがすごく嬉しい。
ワンタッチ式の簡単な浴衣。
さっと着れたから次はフランの番。
「フラン、着替えるの手伝ってあげる。」
「大丈夫ですよ?」
「いいからいいから。」
執事服を脱がせて、ハンガーに。
フランの可愛くて綺麗な身体に浴衣を合わせる。
ぱちん、と帯を留めてフランも浴衣姿になった。
「髪の毛も失礼しますね!」
次は髪の毛。
髪の毛はゆるく巻いて簪で留めてくれた。
項がスースーして少し涼しげ。
「フランも同じでいいよね?」
「はい!」
フランの長い髪も同じように簪で留めた。
完璧な双子コーデ。
もうこれだけですごく楽しい。
「お嬢様、こちらもどうぞ!」
「わ!可愛い!」
チューリップの柄の巾着。
着物とは少し違うタッチのチューリップ。
ってことはもしかして……。
「こっちは手作り?」
「はい!いい布が有ったので!どうでしょうか?」
「最高だよ!ありがとね!フラン!」
フランを抱えてくるくる回る。
やっぱりフランの作るものは全部可愛い。
ご飯も可愛い。
もちろん巾着も可愛い。
こんな嬉しいプレゼントを貰えるなんて。
どうやってお返しすればいいかな。
「お嬢様……。早くお祭りに行きたいです……。」
胸の中でフランがそう言った。
「わ!ごめんね!そうだね、行こ!」
そして胸の中から私の隣へ。
手を繋いで歩き出す。
駅までの道だって楽しい。
電車に乗っていくつかの駅を越えて。
私たちは夏祭りの会場へとたどり着いた。
駅前の商店街を歩行者天国にしてのお祭り。
あまり大きな規模ではないけど、それでもお昼前の街はとても賑わっていた。
「今日はお猿回しが来るんですよ。
すごく気になります!」
フランが私を見あげてそう言った。
猿回し、見たことない。
私も気になる。
「それはすごく楽しみだね。」
「はい!お猿さん見るの初めてです。
きっとすごく可愛いですよね!」
すごくキラキラとした目。
これは絶対に一緒に見ないとだ。
でも猿回しは14時半から。
今は11時。
またけっこう時間はある。
「フラン、それまで屋台見てもいい?」
私が言うとフランは首を縦に振ってくれた。
「もちろんです。一緒に楽しみましょうね。」
私の手をフランが軽く引っ張る。
最初に目に入ったのはじゃがバター屋さんだった。
「あれ食べてもいい?」
「今日はお嬢様のお好きなように。
美味しく食べる姿、たくさん見たいです。」
フランが許可をくれた。
さっそく買って道の端っこへ。
「バターたっぷり。夏だしちょっと熱いけど。」
ふーふーと冷ます。
するとフランが私の袖を引っ張った。
「冷まして差し上げます!」
「ふふっ。ありがとうね。」
フランの口元にじゃがいもを近づける。
するとフランはその小さな口でふーふーと息を吹きかける。
「お嬢様、これで冷めました!
どうぞ召し上がってください!」
フランがどやっとその口角をあげる。
口に運ぶとまだちょっと熱いけど、さっきよりも美味しく感じた。
「フランは息だけで美味しくしちゃうね。」
「愛をたっぷり込めました。
なんてちょっとお恥ずかしいですね。」
ちょっと照れたように顔を赤くするフラン。
私も釣られて照れてしまう。
食べ終わるころには顔に熱さを感じるようになった。
「あ、あっちのかき氷食べたい!
買ってくるね!」
私は慌てて逃げ出した。
だってこのままじゃフランへの大好きが溢れてしまう。
一旦ちょっと冷たいもので頭を冷やそう。
しゃりしゃりとするブルーハワイ味。
いまいちブルーハワイが何味なのかは分からない。
だけど茹だりそうな頭にはツーンとよく効く。
「お嬢様お嬢様。スプーン貸してください。」
キラキラとしたフランの目。
その目をされると頷く以外の選択肢はいつもなくなってしまう。
この先の展開が分かっていても、私はスプーンをフランに差し出した。
「お嬢様、あーん」
フランがかき氷を人掬いし、私に差し出す。
言われるがままに私は口を開ける。
えへへ、とフランは笑って次のかき氷を掬う。
頭を冷ますために買ったのに、また顔が熱くなってしまう。
でも幸せだからしょうがないじゃん。
フランとデートできるの幸せなんだもん。
断るなんてできない……。
かき氷を食べきる頃には、心がぽかぽかしてまた汗をかいてしまった。
ここがアパートの中ならたくさん抱き締めて発散するのに。
外なのがもどかしい。
「あ、お嬢様!わたあめ!わたあめ食べてください!」
今度はフランが私の手を引いた。
おっきな綿あめの屋台。
「お兄様、綿あめ1つください!」
「……はいよ」
フランが巾着から小銭を出して綿あめを注文する。
屋台のおじさまは心なしか大きめに綿あめを作ってくれた。
「ありがとうございます!」
フランが綿あめを受け取り、楽しそうにお礼を言う。
店主さんは仏頂面のまま、小さく手を振ってくれた。
「私の顔より大きいですね!」
フランが綿あめで顔を隠す。
「ふふっ。フランは顔ちっちゃいもんね。」
「お嬢様も隠せますよ?持ってみてください。」
フランに手渡された綿あめを顔の前へ。
「ほらやっぱりです!お嬢様も可愛いです!」
フランが跳ねる声で私を褒める。
私は綿あめに隠してへへへ、とニヤけるように笑ってしまった。
「お嬢様、綿あめまだ食べちゃだめですよ。
お写真撮らせてください。」
また道の端っこ。
フランがスマホを構えて写真を撮る。
未だに自分が撮られるのはちょっと照れる……。
綿あめを顔の横に。
それでパシャリと1枚。
次は食べる瞬間を1枚。
そして私が食べている間もパシャパシャとシャッター音は鳴り続けた。
「ふふっ。ちょっと恥ずかしいな。」
「そんなお顔も可愛いです!
お嬢様、こっち向いてください!」
綿あめから目線をフランに向ける。
また1枚写真が増えた。
綿あめの後はフランクフルト。
そのあとは焼きそば。
お腹いっぱいになるまでフランが全部食べさせてくれた。
時刻は13時。
猿回しまであと1時間半。
ここからは食べ歩きから屋台で遊ぶ時間だ。
フランの手を握り、私たちはまた歩みを進めた。




