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余命60年の私と余命8億年の君  作者: とりもち
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キラキラしわしわのお名前談義


「先輩もお名前で苦労してるって聞いたんです。

 良ければ少しお話したいなって……。」


キャプテンさんがそうちょっと気まずそうに口を開いた。

名前のこと。

私にとってはタブーな話。

でもそういう話をしたいってフランから聞いてたし、私もそういう話をしてみたかった。


「フランから話は聞いてたよ。

 キャプテンさんも大変だったんだね。」


だから私も笑顔で会話に乗った。

フランと雛乃は手を繋いで少し前を歩いてる。

なので今はほとんど2人きりだ。


「良かったです……。

 いえ、あまり共感される悩みじゃないので。」

そう言ってキャプテンさんは胸を撫で下ろした。

「でも私、キラキラネームではないよ?

 それでも大丈夫?」

そんな私の言葉にキャプテンさんは頷いて答えた。


私は自分の名前が大嫌いだ。

それはキラキラネームだからじゃない。

シワシワのお婆ちゃんみたいな名前。

しかも苗字と合体事故を起こしてダジャレみたいになってる。

だからもしキラキラネーム仲間だと思われてたらどうしようと思ってた。

でもそういう訳ではないらしい。


「いえ、私もキラキラ……ではないんです。

 でも名前と性格が合ってない気がして。」

キャプテンさんが少し言い淀む。

そして一呼吸置いてもう一度その口を開いた。


「私の名前、みかづきって言うんです。」

「みかづき?」


思ったよりも変な名前じゃない。

お洒落だしキャプテンさんの爽やかさには合ってる気がする。


「みかづきちゃんって名前だったんだね。

 あ、ごめんね。

 あんまり好きじゃないんだよね。」

「いえ、名前の響きは好きなんです。

 でも漢字が……。」


キャプテンさんが財布から身分証を出した。

そこに書いてあった漢字は『美花都姫』。

これでみかづきって読むらしい。


「美しい花の都のお姫様って……。

 なんだか名前負けしてる気がして苦手で。」

「確かにね。

『三日月』の方が爽やかで似合いそうかも。」

「そうですよね!

 女の子らしくって言われてる気がしちゃって……。」


個人的には『美花都姫』もそんなに悪くないとは思う。

でも本人があんまり気に入ってないなら、それが一番重要だろう。


それからしばらくキャプテンさんの愚痴を聞いた。

名前もこれまで通りキャプテンさん呼びが良いとのことだ。

私にとってキャプテンさんはキャプテンさん。

変えなくて良いのはありがたいかも。


「そういえば先輩のお名前聞いてなかったですね。

 もし良ければ聞いてもいいですか?」

「ああそういえばごめんね。

 すっごく変だから笑わないでね。

 まず苗字はね……。」


苗字を教えた。


「苗字はやっぱり普通ですね。

 むしろけっこう格好いいと思います。」

「そう、苗字だけなら良いんだよ。

 でも名前との相性が最悪でね……。」


名前を教えた。


「あー……。確かに。」

キャプテンさんは少し苦笑い。

「私の小学生の頃のあだ名分かるでしょ?」

私が聞くと小さく頷いた。

「小鳥と一緒に居るのも最初は怖かったんだよ。

 小鳥の苗字って安藤でしょ。

 私の名前とすごく噛み合わせ悪くて。」

小鳥の苗字も鈴の苗字も両方とも私の名前との噛み合わせは最悪だ。

苗字を変えるならめぐるちゃんに嫁ぎたい。

四ツ角ってめっちゃおしゃれでかっこいい。

「確かに……。

 小鳥さんとだと結局あだ名変わらないですもんね。

 先輩のお名前、確かに大変そうです。」

キャプテンさんが噛み締めるようにそう言った。

理解してくれて嬉しい。


「それに今どきカタカナ二文字っていうのもね。

 テストの時に書きやすいのは助かるけど……。」

「そこは少し羨ましいです。

 私の方は無駄に長くて大変です。」


名前談義でのんびり歩く。

駅までの30分はあっという間だった。


「じゃあね、新入り。また今度。」

「お話聞いていただきありがとうございました!

 また遊びに来ますね!」


手を振る2人に別れを告げる。

二人とも楽しそうに話をしながら改札の向こうへ。

私とフランの2人が残された。


「フランはいいな。すっごく素敵な名前。」

呼びやすい。

可愛い。

こんな素敵な名前は他にない。

「今ではフランシスよりも気に入ってますからね。

 私の自慢のお名前です。」

フランが私の手を握る。

2人だからね。

手を繋いで帰るのは当たり前だ。


「お嬢様?」

「どうしたの?」

「ふふふ。やっぱりお嬢様はお嬢様です。」


フランの手が私の手を強く握る。

やっぱり私の名前はお嬢様でいい。

フランがそう呼んでくれるなら、それが私の名前。


「フラン?」

「はい、お嬢様。」


何度も名前を呼びあって、私たちはアパートへと帰った。

 

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