執事喫茶の日常
今日は私と小鳥の出勤日。
昨日変な噂が立ってたし、どうなることかと思ったけど特に変わりは何もなかった。
強いて言うならば、お店の女の子に謝られた。
「変な噂してごめんなさい。」
私が気にしてないことを伝えると、ぺこりと頭を下げてフィナンシェを1つくれた。
だから今日の問題はそこじゃなく。
「え、小鳥さん駄目なんですか…?」
「申し訳ございません。
彼はただいま来客対応をしておりまして。」
小鳥の人気が上がりすぎていることだ。
気持ちは分かるけどね!
フランもメイドカフェの時と同様に、私の出勤日には何度もお店を訪れてくれている。
だけど今回は前ほどの騒ぎにはなっていない。
可愛いお客様として、常連さんの間で囁かれているくらい。
それも偏に、このお店の中での注目を小鳥が独占しているからだろう。
(まあそこは店長さんにお任せするとして……)
あの店長さんだし。
小鳥目当てのお客様が小鳥とろくに話せずに帰ることになっちゃう問題については解決策をすぐ用意してくれるだろう。
ならば私にできることはただ1つ。
「お嬢様、僕では駄目でしょうか…?」
跪いてお客様の手を取る。
「そ、それじゃあ今日はお願いしてもいい?
でももし良ければ小鳥さんともお話したいな。」
「嬉しいです……。
お嬢様とお茶をするのは久しぶりですね。
腕によりをかけさせていただきます。」
お客様の手を取り、席へとお連れする。
小鳥がこっちに来れるかは分からない。
だから小鳥のことを忘れちゃうくらい楽しんで貰おう。
それが私の任務だ。
まあ私は人を演技で騙すのが得意な訳で。
それはそんなに苦になる仕事でもなく。
20分後。
「お嬢様、降りますか?それとも勝負を続けますか?」
「え、えっと……うーん……勝負する!」
「……お見事。お嬢様の勝ちのようですね。」
「わ!やった!やっと勝てた!」
前にめぐるちゃんたちとやったインディアンポーカー。
お客様に勝ってもらったり負けてもらったり。
まあ普通に自分の引いたカードが思ったより低くて負けたりもするけどね!
それでもとても楽しんで貰えた。
「小鳥さんじゃなきゃって言ってごめんなさい。
次は最初から新入りさん指名するね!
また遊んでね!」
手を振るお客様にお辞儀をして見送る。
小鳥からお嬢様を奪ってやったぜ。
ふっふっふ。
とはいえ1人奪ったところでだ。
もう小鳥はシフトの時間いっぱいまで予約入っちゃってるしね…。
私が多少奪っても、焼け石に水としか言いようがない。
それでも小鳥と店長さんのためだ。
どんどん奪っていこう。
また小鳥目当てのお客様をエスコート。
次はフラン。
新規のお客様。
小鳥目当てのお客様。
小鳥目当てのお客様。
フラン。
「楽しかったです!お嬢様!
頑張ってくださいね!」
フランにも手を振って、また次のお客様。
最後のお客様は私目当てに来てくれた子だった。
「いつもありがとうねお嬢様。いつものでいい?」
「え、分かるんですか…?」
「あぁごめんね。やっぱり今日は違うのが良かった?」
「い、いえ。嬉しいです。じゃあいつものを……。」
1回来てくれたお客様のことは忘れない。
それも楽しんでくれた子なら尚更だ。
「そのカチューシャ、すごく似合ってるね。」
前の時もつけてたカチューシャ。
きっとお気に入りなんだろう。
「え、えへ。ありがとうございます……。」
女の子は少し照れながら紅茶に手を付けた。
「あ、あつっ」
女の子が照れを誤魔化そうと勢いよく口をつけた。
熱い紅茶。
焦ってカップから手を離す。
手から離れたカップがどうなるかなんて分かりきっていた。
「あぶなっ」
「くねえよ。ほら、気をつけろよ。」
小鳥がカップを空中でキャッチ。
そしてそのまま机の上に置きなおして、女の子の頭を優しくぽんぽんと叩いた。
それからそのまま次のお客様の元へ歩いていった。
やられた。
いやめちゃくちゃありがとうなんだけどね。
おかげでお客様火傷しなくて済んだし。
「小鳥さん……」
でもお客様の目は完全に小鳥に夢中になってしまった。
どうしよ。
「お嬢様。火傷などはなさいませんでしたか?」
「あ、うん大丈夫です……。」
「紅茶、ゆっくりで良いですからね。
私はここでお待ちしておりますので。」
「う、うん……。」
小鳥を目で追っていて、心ここにあらず。
結局その子は紅茶を飲んだら退店してしまった。
そして終業後の控え室。
「小鳥ー。人気すぎー。かっこよすぎー。」
「うっさいバカ。」
お互い執事服を脱いで普段着に。
私は髪を結う位置を下に。
小鳥もバイクに乗るために下目な位置で結んでるからお揃いだ。
「ていうか落としたカップ空中でキャッチて。
人間業じゃないじゃん。」
「なんかできたんだから仕方ねえだろ。」
裏口から小鳥と店外へ。
こっからは仕事の話は厳禁。
「そういや今日の夜ご飯なにか聞いてる?」
「ぶっかけうどんだって」
「お、まじか夏っぽい」
「しかもなんとフランの手打ちです。」
「まじか!すごいな!」
「なので私は今とてもお腹が空いております。」
「でもちゃんと力入れろよ。振り落とされんなよ。」
「大丈夫。落ちる前にキャッチできるでしょ?
今日やってたじゃん。」
「バカ。無茶言うな。」
小鳥がバイクに跨り、私はその後ろに掴まる。
そうして普通の出勤日は終わり。
あとはフランの手打ちうどん!
結局普通の日もフランにかかれば特別なのです。




