小鳥のお嬢様
「ごきげんよう、小鳥」
「……げ」
「げ、とは酷いのではなくて?」
今日は執事喫茶非番の日。
それでいて小鳥はシフトが入ってる。
そんなの行くしかないじゃん!
ということで来たら嫌な顔をされた。
「ていうかその口調はなんだよ。」
やれやれ。
そんなの決まりきっているじゃないか。
「執事が居るのだから、お嬢様も居て当然。
そう思わないかしら?」
参考元は雛乃。
私にとって雛乃は尊敬すべきお嬢様の先輩でもあるのだ。
小鳥が1つため息。
でもすぐに執事としての小鳥に切り替えてくれた。
私の手を引いて席までエスコート。
いやー、すごくかっこい。
「んでお嬢様。ご注文は?」
実戦を積んできただけあって、立ち居振る舞いは執事そのもの。
つい見惚れてしまいそうになるが、今は我慢だ。
「ダージリンをいただける?」
私が言うと、小鳥は軽くお辞儀をして一度下がった。
後ろ姿もかっこいい。
だってさ、小鳥はありのままで超かっこいいんだよ。
引き締まった身体に整った顔立ち。
演技が上手ければ、宝塚で主役を張れる。
そんな小鳥がきっちりとした執事服。
そんなの大人気になるに決まってるじゃん!
早起きして並んで良かった……。
「待たせたな。ほら、火傷すんなよ。」
小鳥がゆっくりとティーカップを置いた。
ただそれだけの行為も、小鳥が行うと様になっている。
「ん?なんか変なところあったか?」
軽く首を傾げた。
「いや、かっこいいなーって思って。」
できるだけ普通のテンションで言うと、小鳥は冗談だと思ったのか鼻で笑い飛ばした。
まあ冗談だと思って貰えた方がいいけどね。
冗談のフリして本音溢せた方が良いガス抜きになるし。
「んでどうする?ゲームでもするか?」
小鳥がトランプを手に語りかける。
でもそれは謹んで辞退した。
「ん、今日はいいや。
そのままのんびり座ってて。
あ、でも追加料金は払うよ。」
今日は小鳥の執事服姿を目に焼き付けたい。
一緒に働いてると、お互いの仕事であんまり会話できない。
これは大変な誤算だった。
「別に良いけどさ。じゃあ帰ったら遊ぼうぜ。」
手持ち無沙汰になった小鳥が私の顔をじっくりと眺める。
なんだか気恥ずかしい。
「小鳥、顔見過ぎ。恥ずかしい。」
私が指摘すると、小鳥はぷいっと目を逸らした。
「そんなに見てねえよ。」
分かりやすい嘘。
でも深堀りするのも恐ろしい。
今の小鳥に可愛いとか言われたら、それが嘘でも死にかねない。
「そ、そういやフランはみゆとだっけ?」
「うん、2人で動物園行くって言ってたよ。」
話題を変えて誤魔化そうという意思は感じた。
でも私にも都合が良いから敢えて乗ることにする。
当たり障りのない会話。
ああでもそれがすごく楽しい。
時計がどんどん進んでいく。
あっという間に50分。
あと10分しか一緒に話せない。
「……どうする?写真撮るか?」
「うーん、どうしよっかな。」
チェキを撮ってもらいたい気持ちはある。
でもこのままお話してたい気持ちもある。
時間はないのに、すごく迷う。
「……せっかくだし撮ろうぜ、ほら。」
迷っている私の手を引き、カメラマンさんを呼ぶ。
横に立つと尚更小鳥のかっこよさが分かる。
ニヤけてないかな……。
変な笑顔になってないかな……。
パシャリ
フラッシュが一度光り、撮影が終わった。
「結局、お嬢様ごっこは途中で忘れてたな。」
目線を合わせず、小鳥が私に話しかける。
「小鳥があまりにかっこよくてね。
演技してる余裕なかったよ。」
本音。
「めんどくなっただけだろ?」
小鳥は小さく笑った。
写真を受け取り会計を済ませ。
小鳥が入り口までお見送りをしてくれた。
恭しいお辞儀。
少し離れたところで振り向くと、ちょっと恥ずかしそうに手を振ってくれた。
私も手を振って返した。
(……はぁ)
緊張したぁ……。
本当はもっと写真とか撮りたかったよ。
でもさ!無理!横に立つとか無理!
心臓弾ける!
でも!1枚撮れた!
緊張しすぎてポーズも撮れなかった。
ただ2人で横並びの写真。
でもでも、小鳥のかっこいい執事姿が写ってる!
「……ふっふっふ」
鼻歌を歌って家へと帰る。
めぐるちゃんにも自慢しよ!
小鳥をバイトに誘って良かった。
心からそう思う。




