鈴の紙芝居
「ようこそ!鈴ちゃんの紙芝居小屋へ!」
「今日は楽しんでいってな!」
このみちゃんの家に入ると、2人のテンションが急に上がった。
私が困惑を浮かべると、このみちゃんは目を逸らした。
「……鈴ちゃん、やっぱりこの感じは駄目そうだよ。」
「大丈夫大丈夫。いけるいける。」
2人でボソボソと話すと、もう一度私たちの方に向き直った。
「えっと、今日は鈴ちゃんの秘密について紙芝居とクイズ大会形式で発表します!」
「クイズ大会の優勝者には豪華景品!
さぁさぁ!位置について!」
手を引かれて、家の奥に進むと椅子が3つ。
ご丁寧に私たちの名札まで作ってある。
「お嬢様、私こういうの大好きです……!」
フランがニコニコしながら私を見上げる。
「そう言ってくれると用意した甲斐があったぜ。」
鈴もフランの反応を見て上機嫌。
このみちゃんもほっと胸を撫で下ろした。
「悪い、ちょっと質問。
このみはどこまで知ってんの?」
小鳥が手を挙げた。
あ、たしかに。
このみちゃんが鈴の正体を知ってるかまで、私たちは知らない。
「はい!じゃあそれが第1問!
このみはどこまで知ってるでしょうか??」
「え、え、鈴ちゃん!?聞いてないよ!?
第1問は鈴ちゃんの趣味についてだよね??」
もうこの反応で大体分かった。
なんていうか、鈴はひどいな……。
「……言っちゃっても良いの?」
私が聞くと、鈴はどうぞどうぞと身振りで示した。
「このみちゃんは何も知らない。」
「正解!まずは一ポイント!
では紙芝居で解説します!」
そう言うと鈴は紙芝居を取り出した。
このみちゃんは頭にはてなマークを大量に出したまま、鈴の動向を見守っていた。
『いまよりちょっとむかし。
おやまにおんなのこがおちてきました。
そらからおちてきたこのなまえは◈◈✵✥◑◑。
のちにりんとなのるおんなのこ。
そのしょうたいは……。
いちおくはっせんさいのうちゅうじんでした。』
鈴をデフォルメしたイラストの1枚目。
古い都が描いてあるから平安時代くらい?
とても可愛いけど、今はそれよりも……。
「……?????」
鈴を見て口をパクパクさせるこのみちゃん。
何か言おうとしてはその言葉を飲み込む。
一分ほど経って、ようやく言葉を紡いだ。
「……鈴ちゃん、あとで怒るからね。」
「今まで隠しててごめんな。
でも信じてくれてありがとな。」
このみちゃんも一応は鈴の正体について飲み込んだらしい。
何回か深呼吸をして、普段の表情に戻った。
「すごいな。そんなにあっさり信じれるなんて。」
小鳥の言葉に、このみちゃんが小さく息を吐く。
「言われると心当たりがすごく多かったんです。
ご飯食べないし、寝ないし、トイレ行かないし。
鈴ちゃんはすごいなーって勝手に納得してました。」
そう言うとこのみちゃんが椅子を用意して、私たちの横に座った。
このみちゃんもクイズ大会に参加者としてエントリーするらしい。
「はい!それでは第2問です!」
「その前に質問があります!」
フランがびしっと手を挙げた。
「鈴様は一億八千歳というのは本当ですか!?」
「あー、やっぱそこだよなー。
うん、本当。ちょっと恥ずいな。」
鈴が頭を掻きながら目を逸らした。
恥ずかしい?
どうしてだろう。
「鈴様。今までよく1人で頑張ってきましたね。
おいで。なでなでしてあげます。」
フランがすごく暖かな目で鈴を手招きする。
鈴はとても恥ずかしそうに、それを拒んだ。
私と同様に、小鳥とこのみちゃんも首を傾げた。
あ、でもそうだ。
フランは90億歳だっけ。
しかもフランの星からここまで一億年はかかる。
そうなると鈴の年齢は実質8000歳くらい。
フランと比べたら赤ちゃんだ。
「そっか、鈴って赤ちゃんだったんだね。」
私が言うと、フランは頷いた。
でも鈴はジトーっとした目で私を見た。
「俺からすれば、お前らの方が赤ちゃんだからな。
赤ちゃん呼ばわりはやめろ。」
……うん。たしかにそうだ。
「ごめん、私が間違ってた。」
「許す。」
私は素直に謝った。
とりあえず次の問題へ。
「では第2問!
宇宙人と言えど、生きていくにはお金が要ります。
さて、俺はどうやってお金を稼いできたでしょう!」
さっきのイラストからして、鈴が地球に降りてきたのは随分昔のことらしい。
ということは……。
「農業とか畑仕事でしょうか?」
「残念!俺にそんな体力はありません!」
フラン、はずれ。
でもちょっと気になることがあった。
「はい、質問。
宇宙人って体力無限じゃないの?」
フランは疲れを知らない完璧な生き物を自称している。
ならば鈴もそうなのでは?
「はい、じゃあ逆に考えてみてください。
小鳥を地球人の代表とします。」
鈴が小鳥を指差す。
「小鳥の体力を地球人の基準とされたらどう思う?」
また私は的外れなことを言ってしまったらしい。
小鳥が地球人の基準なら、私は虫けら同然だ。
「ごめんなさい。」
「いいよ。」
ということで2問目は続行。
「はい!鈴ちゃんは料理でお金を稼いだと思う!」
「残念!料理はこの百年くらいの趣味です!」
「あ、じゃあ神様として祀られたとか?」
「それをしようとしたら、妖怪として追われた……。」
「いっそ人間と関わらずに暮らしてたとかか?
飯の必要ないならそこまでお金要らねぇだろ。」
「いやー、ちゃんと金は稼いでたぜ。
誰とも関わらないなんてつまんねぇもん。」
このみちゃん、私、小鳥の順番で外れ。
全員外れたから、鈴は紙芝居を1枚捲った。
『おんなのこはわるい人をつかまえて、おかねをかせぎました。』
鈴が悪そうな顔の人を捕まえる絵。
賞金稼ぎしてたの……?
「厳密に言うと、悪い人だけじゃねえけどな。
これを使ったのよ。」
鈴がドヤ顔で手首を見せびらかした。
あ、そっか。
それ使えば悪人だろうと行方不明者だろうと捜索は楽だもんね。
このみちゃんにも腕輪のことを説明。
困惑したまま、とりあえず納得してくれた。
「そんでここからが重要な話。」
鈴が真剣な表情を浮かべ、声のトーンを落とした。
「人相書きを書くと、すぐにその人が捕まる。
しかも毎回同じ人が連れてくる。
俺はどう思われるでしょう?」
考えなくても分かる。
どう考えたって怪しい。
「まさかそれで……」
宇宙人、いや当時だと妖怪とかに間違われた?
それで今も警察とかに追われてる?
だから宇宙人だと明かさないようにしてるとか?
「そう、多分お前らが思ったとおり。
俺は宇宙人だとバレました。」
「え?え、え?鈴ちゃんそれは大丈夫なの……?」
鈴は慌てるこのみちゃんに近づき、安心させるように頭を撫でた。
「大丈夫だから安心して!
いや宇宙人をどうするかみたいなところはもう解決しててさ……。」
「俺、世界で1人の宇宙人だからってさ……。
我が儘言い過ぎたんよ。」
鈴がぽいっと小鳥に物を投げてよこした。
小鳥がそれをキャッチして、私たちに見せる。
手帳?
「うわ、まじか」
最初にその内容に気付いたのは小鳥だった。
次いで私たちも理解した。
警察手帳。
階級は……うわ。
小鳥は警察手帳であることに驚いたが、私はその階級に驚いた。
階級は警視。
めちゃくちゃなエリートだ。
「り、鈴!?嘘でしょ!?」
「えへへ……。」
照れたように目を逸らす鈴。
いや、どういうこと?
「いや、ちょっとなー。
警察ですぐに見つけられないやつを俺が教えてさ。
それでお金貰うの繰り返してたんだ。
んで偉い階級欲しいってねだったら貰えたの。」
腕輪があれば確かにできるだろうけど……。
そんなことしてお金を稼いでいたとは。
「でももしもう1人宇宙人居るってなったらさ。
俺の扱いぞんざいになるかもだし……。
結構我が儘言ってきたから、クビになるかも……。」
鈴が今度はフランのもとに擦り寄った。
フランは穏やかな顔で鈴の頭を撫でた。
「大丈夫ですよ。鈴様。
鈴様が頑張って得た地位なのでしょう?
私はそれを取ったりはしません。」
「ありがと!フランちゃん!
恩に着るよ!」
フランと鈴が指切り。
めぐるちゃんやみゆちゃんには、フランのこと話したかったけど理由があるならしょうがない。
私も鈴と指切りをした。
「じゃあこれにてクイズ大会と紙芝居は終わり!
優勝者は一ポイント獲得のた
「本名を呼ぶならバラすよ?」
「兄弟です!」
鈴が私の腕をとって掲げた。
結局クイズは2問だけだったのに。
優勝って言われても実感は湧かないや。
「はい!じゃあこれ景品!」
鈴が私の手に何かを渡した。
「あ、小鳥にもこれあげる!」
そして鈴は小鳥にも何かを渡した。
「……っ!?」
「……!!?」
鈴から貰った豪華賞品。
それは昔鈴が描いた私と小鳥の百合漫画。
その続編だった。
「なにをもらったんですか?
……ひゃっ。り、鈴ちゃん!!」
このみちゃんが本を覗きこんで、そのあと顔を真っ赤にした。
フランには見せられない。
私はフランが覗き込む前に隠した。
「鈴、まじで正座。」
「私も絶対に許さない。
こういうのは描くなって昔言ったよね。
それに小鳥に見せるなって。」
「鈴ちゃん、そういうのはセクハラだよ。」
そこからは鈴が謝るまで3人でお説教。
お説教が終わると、フランはよしよしと鈴を慰めた。
そして鈴が運転する車で帰宅。
百合漫画は封印した。




