お嬢様とお嬢様
「お帰り、お嬢様。今日はどのお茶が
「お嬢様!格好いい!格好いいです!」
言葉を遮るほど大興奮のフラン。
今日は約束通り、お客さんとして皆がお店にやってくる。
最初に訪れた……というより開店時刻までお店の前で待機していたのがフランだった。
「ふふっ。この姿は見慣れてるでしょ?」
昨日と同じく、着付けからメイクまでフランが手伝ってくれた。
この男装執事姿は何度も見てるはず。
「格好だけじゃなく、今は中身まで執事ですからね。
すごくお似合いです!」
フランは目を燦々と輝かせてそう言ってくれた。
完璧で究極の執事であるフランに褒めて貰えるのはすごく自信が持てる。
「褒めていただき光栄です。
お嬢様も今日のお召し物、すごくお似合いですよ。」
「えへへ。今日は立場逆転ですからね。」
フランがくるりとその場で1回転。
すると釣られてスカートも小さくふわりと舞った。
ガーリーなワンピースのお嬢様風コーデ。
美少女であるフランにはこれまたすごく似合う。
「ああでもどうしましょう。
お嬢様は今日はお嬢様じゃなくて……。
なんてお呼びすればいいでしょうか……?」
フランがとても困った顔をしている。
確かに紛らわしいかもね。
お互いお嬢様だし。
「気にしないで、お嬢様。
いつもどおりに呼んでくれたら嬉しいな。」
でもフランにお嬢様って呼んで貰うの好きだし。
そこは譲れないや。
今日はお互いにお嬢様の日だ。
「お嬢様、一緒に写真撮って貰ってもいいですか?」
「もちろんです。お手をどうぞ、お嬢様。」
フランの手を取ってエスコート。
お嬢様ごっこをフランも楽しんでるみたいで、お淑やかにしずしずとついてきてくれた。
「お嬢様、どのようなお写真にいたしましょうか?」
「今日はこの3つをお願いします!」
フランがさっさっさとポーズを指定した。
事前に決めてきている辺り、さすがフランだ。
多分フランは毎日来るつもりだろうしね。
全部一気になんて無粋な真似はしないのだ。
「お嬢様、お手を失礼します。」
フランの手を取って口をつける振り。
きゃーっとフランは小さく足をパタパタさせた。
抱きしめたいけど我慢。
さすがにお店でそれをしたらクビになってしまう。
「お嬢様お嬢様。
次の写真も一緒に撮ってください。」
「はい。お嬢様のご命令なら何でもしますよ。」
フランの指示で追加で写真を撮る。
椅子に座ったフランの横でポーズを撮ったり、壁ドンしたり。
私の一挙手一投足でフランは目を輝かせてくれた。
「ぁぁ……眼福です……」
カメラマンさんに写真を見せて貰って、心底幸せそうにフランは笑う。
「お家に帰ったら私にも見せてね。」
私がそう言うと、フランはちょっと表情を変えた。
ほんの少しだけいじわるな表情。
「ふふっ。お嬢様、執事じゃなくなってますよ。」
「あ、いけない。
お嬢様、後で僕にも見せてくださいね。」
慌てて取り繕うと、フランはまた小さく口を抑えて笑った。
「では一度私は失礼させていただきますね。」
写真が出来上がると、フランはそそくさと立ち上がった。
「もう行ってしまうのですか?」
「はい、今日はまだまだやることいっぱいなので!
休んでる暇などないのです!」
私が問いかけると、フランは違う席で接客している小鳥の方を見た。
「小鳥お姉様とこのみ様。
お二人にも写真を撮らせて貰ったらまた来ますね!」
元気よく手を振ってフランがお店から出ていく。
私はお辞儀をしてその姿を見送った。
顔をあげると、ちょっと離れた所でフランが私に手を振っていた、
私も小さく手を振って返す。
それを見て、フランは小さくスキップしながら一度その場から立ち去った。
「ふふっ♪」
フランに喜んでもらえた。
フランに喜んでもらえた!
次にフランの接客できるのはいつ頃かな。
「もし」
舞い上がる私にお客さんが声をかけてきた。
サングラスにマスク。
すごく不審者。
「お忍びですか?お嬢様。」
「え、えっとそうなのよ。
こ、ことりさんいるかしら?」
まあどう見ても雛乃だった。




