小鳥の執事練習会
「おじょうさま。おちゃをおもちしました。」
「うーん、棒読みになっちゃってますね……。」
「あぁ……くそっ」
バイトも終わり、小鳥の部屋。
私たちは特訓に明け暮れていた。
「えっと、小鳥さん。
笑顔がちょっと不自然になっちゃってます……。」
このみちゃんも協力してくれている。
他のみんなはネタバレしたくないからと、私の部屋で遊んでる。
皆が楽しみにしてくれてるのを感じて、小鳥は尚焦ってしまったみたいだった。
お店で試してみた時よりも一層棒読みになってしまった。
「むずい……」
小鳥が机に突っ伏した。
十回目の挑戦も失敗。
お茶を運ぶところで躓いて、まだその先に行けてない。
「えっと、小鳥さんはすごくかっこいいですし!
僕よりもずっと向いてると思います!
だからあとちょっとですよ!」
このみちゃんが小鳥を慰めている。
それを見て私はちょっと困っていた。
いや、あれなんだよ。
小鳥の普段のかっこよさ。
それを全部伝えてさ。
そのうえでそれをお仕事でもやって?って伝えればいい。
でもそれってさ……。
私が普段の小鳥をめっちゃかっこよく思ってるみたいじゃん……。
「先輩?どうしましたか?」
うんうんと唸っていたら、このみちゃんが心配そうに私に声をかけた。
「ちょっと考え中。
ごめんね。少しそっとしてもらっていい?」
私が言うと、このみちゃんは首を傾げた。
それでも私の言うことを聞いてくれて、一旦はそれ以上の追求はしないでくれた。
小鳥、再チャレンジ。
ぎこちない笑顔にギクシャクとした動き。
どう見てもドツボにはまっていた。
(あぁもう!しょうがない!)
「小鳥。ストップ。」
「あぁ、また駄目か。あたし、向いてねえのかな。」
そんなことはない。
小鳥は格好いいし、執事に向いてる。
ちょっと遠回しにそれを伝えよう。
「小鳥、一旦執事のことは忘れて。
それで私たちにお茶淹れてくれる?」
「……?なんで?」
「いいからいいから。」
小鳥は首を傾げて、それでもお茶を淹れに台所へと戻ってくれた。
「はいよ。どうだ、お嬢?」
小鳥が私たちの前にお茶を置く。
それに口をつけると、小鳥は心配そうに口を開いた。
「……うまいか?」
頷いて答える。
小鳥もフランからお茶の淹れ方を教わってる。
だからちゃんと美味しい。
「そっか。それなら良かった。」
ほっとしたように小鳥は笑った。
その様子を見て、このみちゃんも笑った。
「今の!すごく良かったです!
なんていうか……彼氏感ありました!」
「執事じゃなくていいのか?
ていうか彼氏感でもねぇだろ。今のは。」
きょとんとした顔の小鳥。
小鳥は自分のかっこよさにもっと自覚を持つべきだ。
そんなことは言わないけど。
「小鳥は変に執事ぶろうとしなくてもいいんだよ。
設定とかは私が小鳥に合わせたの考えるよ。
ありのままの小鳥で大丈夫。
すごく格好いいよ。」
だいいち、小鳥は顔も格好いい。
それが目の前でじーっとお茶を飲むところ見てくるんだよ。
そんなの私ならお金めっちゃ払う。
チェキ撮りまくるよ。
「よく分からねえけど……。
これであたしも執事として働けんのかな。」
小鳥は少し自信なさげにそう言った。
それはもう間違いなく働ける。
みんなで小鳥のことを褒めまくって肯定する。
すると小鳥はちょっと恥ずかしそうに私たちを止めた。
顔を真っ赤にして可愛らしい。
幸いにして、普段の小鳥を格好いいと言ったのは気づかれてないみたい。
これなら全部問題ない。
「ちょっとお手洗い行ってくるな。」
弾む足取りで小鳥が席を立った。
嬉しいのを隠したいのだろう。
気づかない振りをしてやろう。
「あ、あの……」
このみちゃんが声をかけてきた。
「あ、さっきはごめんね。もう大丈夫だよ。」
考え事しててちょっと冷たくしちゃったかも。
申し訳ないや。
「先輩、小鳥さんのこと大好きなんですね。」
「うん。……いや!違うよ!」
自然な流れで言われたからつい頷いてしまった。
違う。
違うからね。
「な、なんのこと。
それよりこのみちゃん、帰らなくていいの?」
恥ずかしいから話を逸らそう。
でもこのみちゃんはその話題に食いついて離さなかった。
「今日は鈴ちゃん忙しいみたいで。
めぐるちゃんの部屋に泊めてもらうんです。
それより!小鳥さんのこと!
普段から格好いいって思って見てるんですか??」
このみちゃんの琴線に触れたらしい。
誤魔化そう。
いや、違うな。
「小鳥、戻ってきて!
お茶こぼした!手伝って!」
嘘で小鳥を呼び戻す。
小鳥は急いで戻ってきた。
このみちゃんもさすがに本人を前にそう言う話題は続けなかった。
私の作戦勝ち。
なにはともあれ、これで小鳥も執事デビューできるはず。
明日はみんなもお客さんとして店を訪れる。
小鳥の執事姿を皆と楽しめる。
気合いも入るというものだ。
「……むぅ」
何か言いたげなこのみちゃん。
一旦それは置いといて、私は小鳥のまだ見ぬ執事姿に思いを馳せるのであった。




