夏休みのアルバイト
『新入り、ちょっとお願いがあるんだけど……。』
それは一本の電話から始まった。
雛乃はいつになく真剣な声をしていた。
「私と雛乃の仲だよ。
何すればいい?
私、雛乃のためならなんでもするよ。」
『私と新入りってそこまでの仲だったかしら……?
でもそう言って貰えるのはすごくありがたいわ。』
雛乃の声が少し和らいだ。
でも真剣なお願い?
私でなんとかできることならいいけど……。
『実はね、店長さんが今すごく困ってるのよ。』
そう言って雛乃は直面している問題について教えてくれた。
店長さんが新しいお店をオープンするらしい。
そこで雇う予定だった女の子の何人かが来れなくなってしまった。
代わりの子は決まったけど、あと2週間は先になる。
だからその2週間のあいだ、ヘルプとして入って欲しいとのことだった。
「うん、だいたい分かったよ。
それなら大丈夫だと思う。」
店長さんにも借りがあるしね。
助けになれるなら嬉しい。
「足りないのは1人だけじゃないんだよね?」
来られなくなったのは何人か居るって言ってた。
何人くらい必要なんだろ。
『うん、必要なのは3人って言ってたわ。
本当は私も行けたらいいんだけど……。』
雛乃はメイドカフェの1番人気。
余所で働くことができないのはしょうがない。
「3人なら多分大丈夫。
私に任せて。」
『この借りは絶対に返すわ……。
本当にありがとうね。
でも無理はしないでね。』
「大丈夫大丈夫。」
心配そうにする雛乃を宥めて電話を切る。
とりあえず詳しいことは店長さんに直接聞こう。
皆に声を掛けるのはその後だ。
「もしもし」
『その声は……もしかして新入りちゃん?
久しぶりね。
でもごめんね……。ちょっと今忙しくて……。』
「雛乃からお話伺いました。
良ければ詳しく教えてもらえませんか?」
『ほんとに!?』
という訳で細かな条件も抑えた。
新しいお店がどんなお店かも。
やばい。めっちゃ楽しそう。
思ったよりも私好みだった。
「お嬢様!お電話終わりましたか??
一緒にゲームしましょう!!」
フランは私が働くことに基本反対。
私にはずっと遊んでいて欲しいと思ってる。
でも今回はきっと別だ。
かくかくしかじか。
フランに事情を伝えた。
「えー!ぜひ!ぜひ働いてください!
絶対に遊びにいきます!!」
フランは大喜びで賛成してくれた。
今回もフランは制服のサイズがないので一緒に働くのはできない。
それでもこの喜びよう。
私も気合いが入るというものだ。
「小鳥お姉様とめぐるお姉様にも声かけてください!」
「めぐるちゃんは高校生だから駄目だよ。
とりあえず小鳥と鈴とこのみちゃんかな。」
勢いに任せて小鳥の部屋に直撃!
「へい小鳥。うまい話があるんだぜ。
聞きたい?聞きたいよね??」
「うっとうしい……。なんだよそのバカテンション。」
そんな小鳥も事情を聞いたらあら不思議。
「まじか!めっちゃいいじゃん!あたしも参加する!」
小鳥もノリノリで参加を決めてくれた。
「でしょー。そう言ってくれると思った。」
「小鳥お姉様も参加してくれるの嬉しいです!
すごく!楽しみです!」
フランが小鳥の胸に飛び込む。
小鳥は嬉しそうにフランを抱えてくるくる回りだした。
「それじゃ、鈴とこのみちゃんにも声かけてみる。」
2人が聴きやすいようにスマホのスピーカーはオン。
『もしもしー』
「鈴!今このみちゃんも一緒??」
『一緒だよー。どうかしたのー?』
かくかくでしかじか。
『『いいなー!』』
スマホの向こうから2人分の声。
『僕!参加できます!やってみたいです!』
このみちゃんは弾んだ声でそう言った。
これで3人。必要人数は揃った。
「鈴はどう?」
必要な人数は3人。
でももっと呼んでもいいとのことだ。
『ん。俺は無理。お客さんとして行く。』
意外な返答。
なんで!?
『フランちゃんは制服のサイズないんだろ?
じゃあ俺も無理じゃない?』
あ。
横を見るとフランも小鳥も驚愕を顔に浮かべていた。
『あと俺は兼業禁止のとこで働いてるから!
楽しみにしてるな!』
そこで電話は切れてしまった。
「皆で舞い上がりすぎたね。」
そんな簡単なことにも気づかないなんて。
「はい、お恥ずかしい限りです。」
フランも恥ずかしそうに目を逸らした。
なにはともあれ!
これからの楽しみが1つ増えた!
男装執事喫茶『classics』
フランみたいに!執事になれる!




