みゆちゃんの夜
諸事情で明日更新できないため、今日更新させていただきます。
今日はいつにも増してほのぼのとした夜だ。
目の前にはパジャマ姿のみゆちゃん。
フランに髪を乾かして貰いながら、冷たい牛乳を飲んでいる。
今日はお昼にした約束どおり、みゆちゃんがお泊りに来た。
「フランちゃん、ありがとね。
ぎゅうにゅうもおいしい。」
「いえいえ!あたま痒いところはございませんか?」
「ううん、かゆいところないよ。
おふろきもちよかった。」
2人が話してるとまるで姉妹みたいに見える。
見てるだけで癒される。
なので私は黙って2人の会話を見守る。
「みゆ様、次は肩を揉みます。
そこに寝てください。」
「フランちゃん、まって。
つぎはわたしがかみのけかわかしてあげる。」
「私の髪は勝手に乾くので大丈夫です!」
「むぅ。フランちゃんのかみなでたいのに。」
「撫でてくれるのですか!?
それなら大歓迎です!」
フランとみゆちゃんが位置を交代した。
今度はみゆちゃんがフランの後ろ。
ドライヤーを当てながら、ゆっくりと髪を撫でる。
「フランちゃんのかみ、ほんとにもうかわいてる。」
みゆちゃんが静かに驚きの声をあげた。
「私は完璧な生き物ですからね。
これくらいはお茶の子さいさいです!」
「すごいね、フランちゃん。
じゃあドライヤーはもういいね。
なでるのにしゅうちゅうするね。」
ドライヤーを置いて、フランを両手で撫でる。
フランは嬉しそうにみゆちゃんに体重を預けた。
「……♪」
髪を撫でられるフランが鼻歌を歌い出す。
「……♪」
釣られてみゆちゃんも歌い出した。
2人とも歌が上手。
ぼんやり聞いてると心地よさが身体に染み渡る。
「このうたはフランちゃんがつくったの?」
ひと区切りついたところでみゆちゃんが尋ねた。
「うーん……。それが覚えていないんですよね。
物心ついた頃にはなんとなく気に入ってました。」
フランも首を傾げて答える。
「このうたすき。」
みゆちゃんが一言呟いて、また髪を撫で始めた。
そしてもう一度2人小さな声で歌い出した。
「お嬢様?」
フランに肩を揺すられて目が覚めた。
歌を聴いているうちにうたた寝しちゃったみたいだ。
「おきておねえさん。ねるじかんだよ。」
みゆちゃんが私の手を引く。
「フランちゃん、おふとんひいてあげて。
わたしははみがきにつれていくね。」
「承知いたしました。
お嬢様を宜しくお願いしますね。」
フランがお布団を引きに行った。
みゆちゃんが一生懸命に私の手を引く。
そんなに寝惚けてるわけではない。
でも2人がこうやってお世話しようとしてくれるのが微笑ましくて、ついそれに乗っかってしまう。
「おねえさん、ここにすわって。」
「うん」
寝惚けたフリで言うことを聞く。
でも次の瞬間には自分の間違いを悟った。
「くちあけて。みがいてあげる。」
その言葉を聞いて、流石に正気に戻った。
「大丈夫。自分で磨けるよ……?」
「ねぼけてるとあぶないよ。
これもかれしのつとめ。」
「ほら、私もう大人だし大丈夫。」
「おねえさんはうっかりさんだから。」
みゆちゃんは強情だ。
握った歯ブラシを手放す気配がない。
「お布団引いてきました!」
フランが戻ってきた。
ナイスタイミング。
フランに助けて貰おう!
「フラン、歯磨きはしないで良いって言って!」
「フランちゃん、おねえさんがはみがきしない。」
全く同じタイミング。
それでもフランは聞き取れたみたいだった。
そして少し考えたあと……。
「お嬢様。歯磨きはしないと駄目ですよ?」
フランは微笑んでそう言った。
「ち、ちが
「わたしにまかせて。ちゃんとピカピカにするね。」
「はい。みゆ様なら安心です。
普段はちゃんと歯磨きしてるのに、不思議ですね。」
私の言葉を遮るように、みゆちゃんが言葉を被せた。
そしてフランもその言葉に同調した。
まずい。
すごくまずい。
さすがに小学生に歯を磨いてもらうのは辱めすぎる。
(フラン、気付いてぇ……。)
なぜかみゆちゃんが私の歯ブラシ持ってるよ。
今まで歯磨きサボったことなんて一度もないよ。
みゆちゃんが私の歯を磨こうとしてるの。
みゆちゃんを止めて!フラン!
最後の希望を込めてフランを見る。
そこでようやく気付いた。
フラン、めっちゃニヤけてる。
「フラン」
「どうしましたか?お嬢様。ふふっ。」
明らかに面白がってる。
「では私は先にお布団に入ってますね!
お二人はごゆるりと歯磨きしてきてくださいね!」
逃げるように……、いやフランは逃げた。
私とみゆちゃんだけが取り残された。
「まかされた。がんばるね。」
ふふん、とみゆちゃんがやる気を漲らせている。
もう覚悟を決めるしかないか……。
「みゆちゃん、お手柔らかにね……。」
口を開く。
みゆちゃんは危なげなく、歯磨きをしてくれた。
ただものすごく心が疲れた。
「おかえりなさい!」
フランが布団の中から手招きする。
私もみゆちゃんもその中に入る。
クーラーをガンガンにつけても、フランの熱で暖かい。
「フランちゃん、あったかい。」
布団の中でみゆちゃんはフランを抱えこんだ。
フランもニコニコと抱きしめ返す。
「つぎはおねえさんもだきしめていい?」
みゆちゃんがフランを抱きしめながら私に問いかける。
「うん、もちろんいいよ。」
私がそう言うとみゆちゃんは嬉しそうに笑った。
「おねえさんはすこしひんやり」
「フランの後だからね。」
「お嬢様にも分けてあげます!」
2人がぎゅっと私を抱き締める。
多分天国はここにある。
みゆちゃんが静かに子守唄を歌い出す。
その声はどんどん小さくなって、歌声は聞こえなくなった。
フランが優しい笑みでその頭を撫でつけた。
幸せそうな寝顔。
フランの微笑みとみゆちゃんの寝顔。
その両方を目に焼き付けて、私もその目を閉じた。




