歓喜のバーベキュー
鈴の事情についてはまた今度時間を取るとして。
今日は鈴が良いものを持ってきてくれた。
「じゃーん!バーベキューセット〜。」
車の後ろから鈴がどんどんと物を取り出す。
バーベキューコンロに網に炭。
鉄串にバケツに、どれも新品だった。
「ちょっと待ってろ!」
そう言って鈴が私たちの部屋へと走って行った。
「鈴お姉様!鍵!」
フランが慌ててそれを追いかける。
「これ全部新品だよね……?高くなかった?」
隣でニコニコと鈴の様子を見守ってたこのみちゃん。
尋ねるとこのみちゃんは首を傾げた。
「僕も全然分からないんですよね……。
いつも急に色んなもの買ってくるので……。」
このみちゃんが少し私から目を逸らした。
なんだか苦労してそうなオーラ。
「高校の時と鈴は変わらないみたいだね。
振り回されるの疲れない?」
「まあそこも鈴ちゃんの魅力なので。」
このみちゃんは少しはにかんで答えた。
「ばーべきゅー。はじめて。」
「私も初めてね。鉄串、本格的じゃない?」
「見ろよ。炭も備長炭だ。きっといい炭だぞ。」
3人もすごくソワソワしている。
道具の一つ一つにテンションを上げていた。
横のこのみちゃんもソワソワしている。
だってフランと鈴がお肉焼いてくれるんだよ。
美味しいに決まってる。
「お待たせー!」
「お待たせしましたー!」
鈴とフランがクーラーボックスを持って現れた。
「みんな集まれ!今日の主役を紹介するぜ!」
そう言って鈴がクーラーボックスを開けた。
そこから出てきたものを見て私たちは言葉を失った。
肉。それもすごく大きい塊肉。
漫画かよって思うような威圧感。
四角く分厚いそれは私たちを興奮させた。
「すごい!おいしそう!」
最初に声を上げたのはみゆちゃんだった。
「しゃしんとってもいい?」
「もちろん!好きなだけ撮って!」
鈴が答えるとみゆちゃんは小走りで自分の家に戻った。
小鳥が急いでそれを追いかける。
転けてカメラを壊さないように。
小鳥はいつもみゆちゃんのカメラを運んであげている。
「こっちの大っきいのは俺が焼くな。
フランちゃんには他のを頼んでもいい?」
「もちろんです!」
待ってる間に2人の間で役割が決まった。
鈴が大っきい塊肉担当。
フランはその他のお肉や野菜担当。
そして私と小鳥がいつもどおり運ぶ担当だ。
「あ、めぐるお姉様!お魚もありますよ!」
フランがお魚を見つけてそう声を上げた。
めぐるちゃんはお肉が苦手。
だけど魚は大好き。
「ふっふっふ。」
鈴はちゃんと全員が楽しめるように気を配ってくれているみたいだった。
このみちゃんがドヤ顔する鈴の頭を撫でた。
でもひとまずはまだ朝の6時半。
バーベキューをするには早すぎる。
しばらく皆でゲームして遊んで。
そしてお昼ごろ。
みんなで椅子や机をセットして、準備はばっちり。
エプロン姿のフランと鈴がコンロの横に立つ。
「じゃあバーベキュー開始!」
鈴の一声でフランがお肉や野菜を焼き始めた。
そして鈴も鼻歌混じりに塊肉の調理を始めた。
「なにか手伝うことあるかしら?」
雛乃の一声。
「ないです!」
「ない!座ってて!」
フランと鈴が断った。
料理は宇宙人が地球人と食事の時間を楽しむ唯一の方法。
そこは二人とも共通の認識らしい。
「断られちゃったわ。」
「2人は料理が好きだからな。
今はのんびり待とうぜ。」
小鳥に慰められて、雛乃は大人しく席についた。
(でもこうやって改めて見ると……。)
フランも鈴も中学生くらいにしか見えない。
最初に同級生として現れたからか、全く違和感に気づかなかった。
真剣な顔をしていても、すごく愛くるしい。
フランは13歳って設定だけど、鈴は20歳って設定だ。
正直無理があると思う。
でも騙されてたからなぁ……。
腕輪の違和感を無くす能力。
改めて宇宙パワーを感じる。
「最初のお肉が焼けましたよ!」
フランが私たちに呼びかける。
運ぶのは私と小鳥の仕事。
急いでフランの元へと向かう。
「おー!すごい!」
「えへん」
Theバーベキュー。
そんな名前をつけたくなるような串焼き。
串にお肉に野菜、きのこが綺麗に刺さっていた。
「まずは一本ずつ焼きました。
感想楽しみにしてますね!」
お皿に3本ずつ乗せて、フランが私たちに小さく手を振った。
そのうちの一本はお肉の代わりに海老と帆立が入ってる。
これはめぐるちゃん用。
さすがの気配り。
雛乃とめぐるちゃんの分は小鳥に任せ、私はこのみちゃんとみゆちゃんにお肉を運ぶ。
「あ!ありがとうございます!」
このみちゃんが満面の笑みで受け取ってくれた。
燦々と輝く目。
わきわきと動く指。
今すぐに食らいつきたいのを必死で堪えてる。
「どんどん焼いてくれるからどんどん食べてね。」
私がそう言うと、このみちゃんの顔がさらに明るくなった。
「じゃ、じゃあお言葉に甘えますね……!
いただきます!」
「いただきます。」
このみちゃんがガブリと串焼きに噛みつく。
それを真似するようにみゆちゃんも齧りついた。
「おいしい!おいしいです!」
「おいしい……!」
2人揃って感嘆の言葉。
蕩けるような顔で串焼きを食べる。
これはフランに伝えなければ。
二人ともすごく幸せそうに食べてたよって。
「先輩も早く食べてください!」
「うん、はやくはやく。」
催促されて私も串にかぶりつく。
口の中にお肉の香りが広がる。
すっごくおいしい!
「美味しい!美味しいね!」
夢中で串に齧り付く。
すごい、野菜もすごく美味しい。
語彙が死ぬくらい美味しい。
すごく美味しい。
「昔、自分で串焼き作ろうと思ったんですけど。
その時は失敗しちゃったんですよ。
お肉と野菜、両方ちょうどよく火入れられなくて。
でもこれは……。」
このみちゃんの言いたいことは分かる。
お肉も野菜もちょうど良い火加減。
全部同時に串で焼いてるはずなのに。
「ふしぎだね」
みゆちゃんも首を傾げた。
でもまた次の一口でその顔を蕩けさせた。
「フランに感想伝えてくるね!」
「いってらっしゃいです!」
「いってらっしゃい」
2人に見送られてフランの元へ。
フランは鼻歌混じりにお肉を焼いていた。
「フラン!聞いて!」
私が呼びかけるとニコニコしながらこっちを向いた。
「お嬢様?美味しかったのは聞こえてましたよ?」
「フランの串焼き!すごく美味しかったよ!
みゆちゃんとこのみちゃんもすごく気に入ってた!」
それでも私が言葉にすると、フランは嬉しそうに笑った。
「それは焼いた甲斐がありました。ふふっ。」
フランはすごく嬉しそうにお肉をまたお皿に乗せる。
鈴はたくさん色んなものを買ってきてくれた。
お皿の上にはお肉だけじゃない。
野菜に海鮮、焼きそばまである。
どれもキラキラと輝いて見える。
「あ、お嬢様。」
フランが私の口元に手を伸ばす。
そしてその指で私の口元についたソースを拭った。
「あーん」
「え?」
そして口を開けるように促した。
そっかフランはソース舐めたりできないもんね。
言われるがままに口を開け、フランの指についたソースを舐め取った。
「ん。やっぱり美味しい。」
「ソースも鈴お姉様の特製らしいですよ。」
「あやつもいい仕事をするな。」
そしてまたフランが鼻歌を歌いながらバーベキューコンロに向き直った。
私は貰ったお肉たちを持って席へと戻る。
「せ、せんぱい!」
「このみちゃん、しー。」
私に何か言おうとしたこのみちゃん。
それをみゆちゃんが止めていた。
「いつものこと。」
「そ、そうなんだ……」
まだ何か言いたげなこのみちゃん。
でもその表情もお代わりのお肉を見るとまた一気に輝いた。
「美味しい!美味しいです!」
また恍惚とした表情。
私が作ったわけじゃないけど、見てる私まで幸せな気分になれる。
そんな良い食べっぷりだった。
そして何度かフランからお代わりを貰ったころ。
「みんなー!来てー!」
鈴がそう大きな声を出した。
私たちは言われるがままに鈴のコンロへと向かう。
「これから仕上げをします。」
鈴はそう言ってふふんと笑った。
目の前には美味しそうに焼けた塊肉。
今の段階でもすごく美味しそう。
「鈴お姉様、やっぱりお上手ですね。」
切り分ける前からフランはその出来の良さが分かるらしい。
もうニコニコと鈴を褒め始めた。
「ふっふっふ。でも褒めるのは仕上げの後ね!」
そう言って鈴は何かを取り出した。
そしてそれをお肉に回しかけた。
火が激しくなる。
その後ろで鈴が不敵に笑った。
「特製のガーリックバターソースです!」
すごく良い香り。
早く切り分けてほしい。
そんな私たちの期待を知ってか、鈴はちっちっちと指を顔の前で振った。
「これから一度お肉を休ませます。
5分後にまた来てください。
ほら!散って散って!」
期待させておいてまだ食べれないの……?
でも横を見たらフランが腕を組んで頷いている。
工程に間違いはないらしい。
それから5分後。
「みんな来てー!食べさせてあげるよー!」
鈴から再度収集がかかった。
焦らされたせいか余計に気になる。
目を輝かせる私たちのまえで、ついに塊肉に包丁が入った。
「おー……」
誰かが感嘆の声を上げた。
もしかしたら私の声だったのかもしれない。
それくらいに美味しそうなお肉だった。
赤みがかったお肉に、半透明のガーリックバターソースが煌めく。
見た目だけで涎が垂れそうだ。
「はい、このみ。」
鈴がこのみちゃんに切り分けたお肉を差し出す。
「えっと……僕が最初でいいのかな。」
良いに決まってる。
鈴の彼女はこのみちゃんなんだから。
早く感想を聞きたい鈴のためにも早く食べてあげるべきだ。
「……!!」
一口食べてこのみちゃんの表情が変わった。
この世の幸せを煮詰めたような、そんな表情。
「鈴ちゃん!すごい!天才!」
「えへへ……ありがとよ。」
このみちゃんの満面の笑み。
それを見て満足したみたいで、このみちゃんと同じような笑顔を浮かべた。
お揃いの笑顔。
それを見ると私たちの心まで温かくなった。
やっぱり2人はすごくお似合いだ。
すっごく幸せそう。
「あ!鈴ちゃん!みんなにも!」
「あ!悪い!」
このみちゃんのひとことで鈴がお肉の切り分けを再開した。
私も一口。
その一口で私も幸せになれた。
塊肉の後はフラン手作りのプリン。
幸せは留まるところを知らない。
どんどんと上限が更新されていく。
仲間を見つけた鈴の歓び。
それを共有してくれたことに感謝しながら、私たちのバーベキューは終わりを迎えた。




