ランニングはお客さまと一緒に
ピンポーン
チャイムの音で目が覚めた。
こんな時間に誰だろ……?
昨日夜更かししちゃったせいですっごく眠たい。
(あ……)
今さらだけど昨日はフランを抱いて寝てたみたい。
お客さんを迎えに行こうとフランが私の腕の中で藻掻いていた。
「お嬢様?起きてますか?」
てちてちと優しくフランが私の頬を叩く。
「うん……起きてるよ……。眠いけど……。」
頭がまだぼーっとする。
昨日は何時まで起きてたんだろ。
とりあえず今の時間は5時半。
いつもならランニングの時間。
ピンポーン
またチャイムが鳴った。
早く出ないと……。
フランを抱えたまま立ち上がろうとしたら、小鳥がムクリと起きて玄関へと向かった。
私は小鳥に甘えて、そのままフランを抱えて寝転んだ。
「おっはよー!」
「お、おはようございます……。」
「ねぇ?ほんとに起こして大丈夫だったの?」
鈴が元気に。
このみちゃんと雛乃がその後ろに続いて部屋に入ってきた。
「みんなおはよう……。
珍しいね……みんなが来るなんて……。」
雛乃は気が向いたらたまに参加。
鈴とこのみちゃんは初参加だ。
今日はランニングしない予定だったけど、みんなが来てくれたならしょうがない。
「よし、頑張るか。ちょっと顔洗ってくる。」
「お嬢様?無理はしてませんか?」
「大丈夫。フラン抱いて寝たから元気。」
フランを抱えて洗面所へ。
顔を洗って、ジャージに着替えて。
外に出るともうみんな準備はばっちりだった。
私、雛乃、鈴の運動できない組に世話役のフラン。
それに小鳥、みゆちゃんの運動できる組にこのみちゃんが加わった。
めぐるちゃんは夜更かしに慣れてなさすぎて起きられなかったので置いていく。
「位置について〜。よーい、どん。」
大家さんの掛け声で私たちは走り出した。
途端に運動できる組は私たちを置いて猛スピードで走っていった。
「このみちゃんもすごく速いのね。」
背中を見送った雛乃がそう呟いた。
「なにせ俺の彼女だからな!
このみが居ればサッカーも勝てたかもなー。」
さすがにそれは言い過ぎだとは思うけど、戦力になるのは間違いない。
次にまた運動する機会があれば、絶対に仲間にしたいところだ。
「まぁ俺らはゆっくり走ろうぜ!」
鈴のペースは超ゆっくり。
ほとんどお散歩みたいなペースで私たちは走る。
(あれ?でも鈴も宇宙人なんだよね?)
ふと思った。
フランと同じ宇宙人なら、体力は無限なのでは?
もしかして今は手加減してるのかな。
宇宙人ってバレないための演技ならすごく上手だ。
私はずっと鈴のこと運動音痴だと思ってたし。
フランを見ると2リットルの水筒を担いで楽々としている。
ふへぇと息を切らして走る鈴とは偉い違いだ。
「暑いと疲れるわね……」
「はい!お水どうぞ!」
雛乃のひとことに、フランが瞬時に水筒を渡した。
さすが私の完璧執事。
走ってる時でも優秀だ。
執事ポイント100点。
「ありがと、フランちゃん。いただくわね。」
ちょっと立ち止まって雛乃が水を飲む。
ついでに私も立ち止まって水を飲む。
のんびりランニングとはいえ、水分補給は大事だ。
「こいつも食え!」
そして鈴が塩飴をくれた。
手作りらしい。
とてもとても美味しい。
鈴にも執事ポイント100点。
飴を喉に詰まらせないよう、のんびり歩く。
もう完全にお散歩気分だ。
「ひなひなはなんで眼鏡してんのー?
目悪くないでしょー?」
「え、えっと……。これはオシャレよ!」
「眼鏡すごく似合ってますよね!」
「うんうん。すごく可愛いよね。」
雛乃はいつもすごく可愛い。
だからみんなで褒めて歩いた。
すると前の方から人影が見えた。
それは猛スピードで私たちへと近づく。
「あ、小鳥。」
「悪い!みゆを頼む!」
「たのむ」
小鳥の背中におんぶされていたみゆちゃんが私たちのパーティーへと合流した。
そして小鳥はその勢いのまま、走り去っていった。
「小鳥はどうしたの?」
私が聞くとみゆちゃんは。
「きょうそうちゅう」
とだけ答えた。
「あ!このみ!おーい!」
続いて小鳥のちょっと後ろからこのみちゃんが走ってきた。
「ごめん!急いでるから!!」
このみちゃんも息を切らしながら全速力。
またすぐにその背中は小さくなった。
「……やっぱり小鳥っちはすごいなー。」
見送った鈴がそう呟いた。
「このみちゃんも早いけど、小鳥には敵わないね。」
途中までみゆちゃんをおんぶして、それでも小鳥優勢。
今はもう小鳥の圧勝だろう。
「ふふんっ。そう、小鳥さんはすごいのよ。」
雛乃のドヤ顔。
小鳥大好きなのが隠せていない。
「なぁひなひなって……。」
「隠してるつもりだからそっとしてあげて。」
私がそう言うと、鈴は口にチャックを走らせた。
「私たちも戻ろっか。」
このままのんびり歩いて帰ったら小鳥たちがお腹を空かせてしまう。
塩飴も舐めきった。
私たちは小走りで来た道を戻る。
「みんな、がんばって」
「あとちょっとですよ!」
みゆちゃんとフランの応援。
それを受けながら走ると、不思議と疲れない。
「俺のことは置いてってくれ……。しぬぅ。」
「しょうがないですね。」
鈴は違ったようですぐにへばった。
フランが鈴を背中におぶる。
そんなことをしているうちに、すぐアパートが見えた。
「ゴール!」
大家さんがパチパチと拍手をしてくれた。
めぐるちゃんも無事に起きれたようだ。
でもまだちょっとぼーっとしてる。
一拍置いて、めぐるちゃんも拍手してくれた。
大賑わいのゴール地点。
喧騒の中でフランが私の裾を小さく引っ張った。
「ちょっとお話したいことがあります。」
引かれるがままに物陰へ。
少しキョロキョロと周りを見渡して、フランが私の耳元に口を寄せた。
「私が宇宙人だってバラしてもいいですか?」
アパートのメンバーだけじゃない。
みんなが居る絶好のタイミング。
私はその言葉に頷こうとした。
「うん、いいえっ!?」
視界に捉えたのは全力で走ってくる鈴。
それはその勢いのまま私にタックルを仕掛けようとして……。
フランが綺麗にそのタックルを受け流した。
ズザザザっと激しい転倒音。
心配して手を伸ばすと、鈴はその手を強く握った。
「お願い!誰にも言わないで!頼む!」
真剣な表情の鈴。
私とフランは顔を見合わせて首を傾げた。
「鈴ちゃん!急にどうしたの!?」
鈴を追いかけてきたこのみちゃん。
「な、なんでもないよ!
スライディングしたくなっただけ!」
身体中の砂をはたいて、鈴は去っていった。
とりあえずフランの正体を晒すのは延期。
まだしばらくは地球人のフリをしてもらうことになった。




