秘密の共有
「呼び出しなんて何の用事ー?」
鈴に呼び出された翌日。
逆に私たちは鈴を呼び出した。
小鳥とフランに相談したところ、鈴にはもう全部話してもいいんじゃないかなという結論が出たからだ。
「鈴、ごめん。昨日の話は全部嘘なんだ。」
「え!?なんで!?やっぱり変態なの!?」
「変態でもねえ。話を最後まで聞け。」
小鳥が立ち上がって、逃げようとする鈴の肩を抑えた。
「や、そんな。
俺までお前好みに染め上げようってか……?」
鈴が怯えた目で私を見る。
こんな時に思うことでは無いと思うけど、ちょっと可愛い。
「うん、覚悟して。今日はそのつもぃたっ!」
ちょっとふざけようと思ったらフランに腕を抓まれた。
「ごめん、フラン。つい……。」
じとーっとした目のフランに頭を下げる。
見ると小鳥も私に冷めた目を向けていた。
「悪い。今日は真面目な話をしようと思ってる。
このバカのことは一旦放っといてくれ。」
鈴はその言葉に少し落ち着いた。
私もそれに合わせて一度深呼吸。
真面目なテンション。真面目なテンション。
「鈴……実はね……。」
「フランは宇宙人なんだ。」
まずは私たちの秘密から。
鈴の秘密はその後だ。
私の言葉を聞いて、鈴は口をぽかーんと空けた。
というか鈴は全く気付いていなかったんだろうか?
同じ宇宙人同士、何か通じ合うものとかはないのかな。
「えっと……まじで?」
「はい、本当です。
私の本当の名前は∴❍❍•❍❑です。」
「∴❍❍•❍❑……?」
鈴がフランの言葉を復唱した。
地球人には発音できない不思議な言語。
それを復唱できたことが宇宙人であることの証明。
私たちが鈴も宇宙人であると確信したこと。
それに気付いて鈴はハッとした顔で口を抑えた。
「えっと。俺が宇宙人だって気づいてた?」
その言葉に私たちは首を縦に振った。
「まじかー……。」
鈴が腕を組んで黙り込んだ。
やっぱり正体については触れない方が良かったのかな。
いつまでも隠し事するのも駄目かなって思ったんだけど……。
「でもそっか……。
フランちゃんもそうだったのか……。」
鈴はその事実を噛み締めるように目を瞑った。
そして少ししてその目を開けた。
「ごめん、今日はちょっと帰るな。」
鈴はそう言って立ち上がった。
「あ、鈴!ちょっと待って!」
そう言って止めようとした私の手をフランが握った。
私は立ち上がることもできずに鈴の背中を見送った。
「行っちゃった……。」
外から車の発進する音が聞こえる。
大丈夫かな……。
また居なくなったりしないかな……。
そう思う私の手をフランは優しく両手で包み込んだ。
「大丈夫です。腕輪使ってみてください。
鈴お姉様から私への感情。
きっとそれで分かります。」
言われるがままに腕輪を使う。
鈴が今フランにどんな感情を向けているか。
それを調べてみる。
(わ……)
目を閉じて鈴のことを思うと、途端に頭の中に温かさが溢れてきた。
腕輪は大まかな感情しか分からない。
喜んでるとか敵意とか。
でもこの幸せな温かさは鈴がどれだけ昂っているかを明らかにしていた。
「小鳥も気づいてたの?」
私が聞くと、小鳥は頷いて答えた。
道理で鈴が帰るのを止めなかったわけだ。
でもそっか。
フランと同じように長生きなんだもんね。
鈴はどれくらい前から地球に居たんだろう。
そしてどれだけ多くの人が死ぬのを見送ってきたんだろう。
それを考えたら、同じ時間の流れを生きるフランの存在は嬉しいに決まってる。
だってずっと一緒に居られるんだから。
横に居るフランを見る。
私にくっついたまま、楽しそうに鼻歌を歌っていた。
(そっか。もうフランも寂しくならないんだな。)
私が死んでも1人にはならない。
鈴がフランの側に居てくれる。
私が死んだ後も寂しくならないように、フランにたくさん思い出を作る。
そんな私の生きがいも意味はなくなったのかな。




