特別編② いつかの1月2日
年末年始でちょっと時間できたので、再度特別編です。
「……おはよう」
「いつにもまして元気ねぇな」
「……色々あった」
朝の10時。
待ち合わせはいつものゲームセンター前。
ゲームセンターも含めて殆どのお店は休業中。
人が居なくて良い感じ。
だけど心はまったく晴れなかった。
「一昨日と昨日で叔父さんに説教され続けた……。
叔父さん居なくなるまで帰りたくない……。」
年末年始で帰ってきた親類。
大して仲良くもないのに、みんな私に説教しくさる。
ものすごく疲れた。
また去年みたいにバリケード作ろうかな……。
でもそれはそれで親類帰ったあとめっちゃ怒られるし……。
詰んでる。
「中々そっちは大変そうだな。」
「ん、ありがと」
小鳥はそう言って私のマフラーを軽く締め直した。
ちょっと暖かくなった。
「小鳥の方はどうなの?」
「あたしの方は特になんも。
親類帰ってくるとかねぇし。
正月も平常運転だよ。」
まあ小鳥は家族から腫れ物扱いらしい。
すごく静かな家庭だと聞く。
そっちはそっちで寂しそうだ。
「クリスマスが一番嫌いだったけど……。
お正月が更新したよ。来年は逃げる。」
「じゃああたしもついてくよ。暇すぎる。」
でもまあ来年はなんとかなりそうだ。
どっか空いてるカラオケでも探して潜り込もう。
小鳥となら2、3日くらいどうにでもなるだろう。
「とりあえず今日はどうする?
どこも空いてねえだろ。」
「行きたい場所あるから大丈夫。
ついてきて。」
私が歩き出すと、小鳥も横に並んでついてきた。
今日は上着もあるから暖かい。
いくらでも歩ける気がする。
それに目的地はここから遠くない。
歩いて20分くらい。
今日は歩けなくなる心配もなさそうだ。
小鳥に延々愚痴を聞いてもらいながら20分。
目的地は小さなお社。
寂れてて無人。
おみくじも御手水もない。
ただお社だけがぽつんとあった。
「どう?」
前に小鳥との待ち合わせで早く来すぎた時にウロウロしてて見つけた場所。
小鳥もきっと気に入る。
「うん、いいな。」
小鳥はそう言ってボロボロのお財布を開いた。
小鳥のお財布はボロボロ。
使えるからいいだろ、と前に言っていた。
そこから5円玉を取り出して小さなお賽銭箱に投げ入れた。
私も続いて50円を入れて一呼吸。
二拝、二拍手。
願いを込めて、また一拝。
私の初詣はあっという間に終わった。
「小鳥は何願ったの?」
「今年は何もありませんように。」
「ふふっ私も。」
同じ願いで安心した。
何もないのが一番いい。
このまま2人で何もなく。
それで卒業して、実家から出る。
完璧な1年だ。
「ちょっと休んでいい?」
近くにボロいベンチ。
汚かったからタオルを引いて小鳥にも座らせる。
「ちょっと良い感じ。」
人が来ないのがいい。
ここはどんな神様がいるんだろ。
「でもこんなに寂れてたら期待できないかもな。」
小鳥がそう小さく呟いた。
「私の考えは違うね。
ここは私と小鳥だけしか来てないだろうし。
神様は私たちしか見てないから。
全力で私たちの願い叶えてくれるよ。」
私が言うと小鳥は小さく笑った。
「じゃあきっと叶うな。」
「うん、きっと何もない1年になるよ。」
2人ぼんやりお社を眺める。
私がもう一度手を合わせると、小鳥も小さくお辞儀をした。
「もう行くか?なんか温かいもの欲しいだろ?」
小鳥が私の手を引く。
私はそれをちょっと強く引っ張り返す。
「なんと今日はね……。じゃーん。」
なんと魔法瓶があるのです。
中には温かいコーヒー。
クリスマスも同じミスはしないのです。
「はい、小鳥。先にどうぞ?」
「悪い。さんきゅーな。」
小鳥が一口魔法瓶に口をつける。
そして私に手渡した。
(関節キス……なんてどうでもいいか。)
一瞬よぎったけど、別にどうでもいいや。
小鳥はただの友達だし。
ドキドキするようなことでもない。
「あったかい。」
「だな。」
今日の時間潰しは夕方まで。
いや、ちょっと夜にかかるくらいまで。
まだまだ時間はたっぷりある。
でもまあ大丈夫だろう。
小鳥と一緒なら、こんな何もないところでも温かく過ごせる。
だからまあ今日という日は大丈夫だ。
小鳥と寄り添い、そのまま1月2日はベンチの上で1日を過ごした。
温かい1日だった。




