コスプレ大会は小鳥視点で
なんか変なものに巻き込まれた。
「はいこれ。」
「……なにこれ?」
家に着くなり、バカがホワイトボードを渡してきた。
チーム名会議や料理対決でも使ったホワイトボード。
あたしの知らない間に知らない企画が始まっていた。
「私がコスプレするから、その点数付けて。
私に似合ってたら高得点。」
こいつは何を言ってるんだ?
あたしがそう言う前に、顔を真っ赤にして手をぶんぶんと振った。
「いや!違うからね!
私がコスプレしたいからじゃないから!」
「じゃあなんで……?」
「鈴お姉様の提案です!」
フランの言葉に納得した。
まああいつならそういう突拍子もないことするよな……。
バカも1つ静かなため息をついていた。
あたしたちの間には、鈴への変な信頼が等しく存在してた。
「小鳥っちー!待ってたぜー!」
ガラリと扉を開けて鈴が出てきた。
その後ろにはめぐるとみゆ。
まあ普段のメンバーだ。
「え、えっと……。私からでいいですよね?」
めぐるがバカに向けて尋ねた。
「うん、お手柔らかにね。」
そしてバカはめぐるの手を取って隣の部屋へ。
「ことりおねぇさん」
みゆが私の服の裾を掴んだ。
「はいはい。ちょっと待ってな。」
脇を抱えて膝の上へ。
ちょっと嬉しそうに鼻歌を歌い出した。
「めぐるちゃん……セクハラポイント100点。」
「じゃ、じゃあこっちは……?」
「うーん……70点くらい?」
そんな会話が向こうの部屋から聞こえる。
めぐるはどんな衣装を用意したんだよ。
気になったけど突っ込まないことにした。
ルームメイトにドン引きしたくない。
それからガサゴソと衣擦れの音。
そして扉が開いた。
「じゃーん。どう小鳥?似合う?」
「あー。うん。似合う似合う。」
お団子。黒のチャイナ服。それに黒の丸メガネ。
チャイニーズマフィア風。
「えー。感想適当じゃない?」
ぶーぶーとバカが文句を言う。
「ほれほれ、メガネだよ?」
私の隣に座り、擦り寄ってアピールしてくる。
「……小鳥ちゃん、絶対に気に入ると思ったんだけどな。」
めぐるもそう言って不思議そうに首を傾げた。
でもあたしは内心、すごく動揺していた。
(……やばい。めっちゃ似合ってる。)
別にこいつはスタイルが良いわけではない。
背はあたしより一回り低いし、微妙に猫背だし。
でもチャイナ服を着てると、身体のラインが際立つし、スリットから覗く脚もすごく綺麗に見える。
それに黒眼鏡。
距離が近いと、黒眼鏡の奥からこいつの少し眠そうな綺麗な黒目がちらりと見える。
可愛い……。
「そんなに似合ってなかった?」
お願いだからくっつかないで欲しい。
あまりにも目に毒だ。
「そんなことはねぇけどさ……。」
あたしはしどろもどろになりながら、そう答えることしかできなかった。
「それでてんすうは?」
膝の上に座ったみゆが尋ねてきた。
正直、早く着替えて欲しい。
直視できないから困る。
そう思ってあたしはわざと低い点を答えた。
「まぁ……50点くらいかな。」
「嘘はいけませんよ。小鳥お姉様?」
「ダウト。100点の間違いだろ?」
「ことりおねぇさん、うそはだめだよ」
フランに鈴。それにみゆちゃんまで。
私の判定に審議をつけてきた。
ていうか宇宙人なフランと鈴は分かる。
ある程度感情読める腕輪持ってるし。
なんでみゆまで……。
「ことりおねぇさん、すごくドキドキしてるもん」
そう言ってみゆはあたしの身体にさらに体重を傾けた。
心なしか、少しドヤッとしてる。
「みゆ……」
あたしがひとことそう言うと、みゆは「えへへ」と悪戯な笑みを浮かべた。
「それで本当の点数は?」
「……100点だよ、バカ。」
バカとめぐるが嬉しそうにハイタッチした。
次は鈴のターン。
鈴に引っ張られて、もう一度隣の部屋へ。
「絶対に小鳥ちゃん、好きだと思ったんですよ。」
「……嘘ついて悪かったな。」
「いえいえ!」
そんな会話をして待っていると、また隣の部屋から会話が聞こえた。
「鈴。セクハラポイント1垓点。出禁。」
「なんで!?」
「ほら、出てって出てって。」
「ごめん!冗談だよ!本命はこっち!」
「あ、こっちは可愛いかも。出禁解除。」
2人の気の抜けた会話。
高校の頃を思い出して少し懐かしい。
でもセクハラポイント1垓って……。
何を用意したんだよ。鈴のやつは。
少しして扉が開いた。
「じゃーん。今度は巫女さん。似合う?」
「……」
またすごく似合ってる……。
露出のほぼないオーソドックスな巫女さんスタイル。
後ろに纏めた髪も清楚に見えて綺麗だ。
そしてまた眼鏡……。
今度はボストン型。
クラシックな丸みを帯びたデザイン。
柔らかくも理知的な雰囲気がまたこいつの眼の魅力を際立たせていた。
「面倒だから最初っから答え合わせな。
みゅー、何点って思ってる?」
鈴がみゆに向けて尋ねた。
みゆが私の胸に手を当てる。
「すごくドキドキしてる。
たぶんひゃくてん。」
その言葉を聞いてバカ2人がニマニマとあたしを見た。
「はぁ……100点だよ……。早く着替えてくれ……。」
その言葉を聞いて、2人もハイタッチした。
なんであたしがこんな辱めにあってるんだ?
「ではお嬢様。次は私です。」
フランが手を引いてまた隣の部屋へ。
「わ。フランの選んでくれた服、すごく可愛い。」
「お嬢様にぴったりの物を選びました。」
「ありがとね、フラン。今日も天才だね。」
「えへへ……。」
相変わらず2人は仲が良い。
しばらく2人で褒めあった後、満を持して扉が開いた。
「……」
絶句した。
可愛すぎた。
ズルだと思った。
「ずばり、貴族令嬢のお忍びコーデです。」
フランはそう言って胸を張った。
中世ヨーロッパの庶民風。
麻でできた素朴なドレス。
長い髪は2つに編んで、肩から前に垂らしていた。
それに眼鏡。
ラウンド型の眼鏡が垢抜けていない、素朴な雰囲気を醸し出している。
「小鳥さん。いかがでしょうか?」
役になりきっているのか、穏やかな口調。
それもいつものバカさとは違っていて、変にドキドキしてしまう。
あたしは1つため息をついた。
これはまぁ完敗だ。
バレると分かってる嘘をつくほど滑稽なことはない。
「100点だよ。すごく可愛い。」
「やった。」
そう言って小さくはにかんだ。
かわいい……。
「よし!みんなありがと!!」
でも次の瞬間にはいつものバカに戻った。
大人しそうな令嬢役も終わり、フランを抱えてくるくると回り出す。
なんとも楽しそうな。
そう思って笑ったあと、ふと思った。
今の楽しそうな姿も100点だ。
じゃあこいつってどんな格好してても……。
そこまで考えて、私は一度考えるのを辞めた。
今日の趣旨はコスプレ大会。
あのバカ自身の点数なんて、今日のテーマには合わない。




