めぐるちゃんのお買い物
めぐるちゃんは唸っていた。
すごく真剣な顔。
まるですごく重要な問題に直面しているような。
こんな深刻な顔はあのチューリップ畑で再会した時以来だ。
でも敢えて私は問いかける。
「……これ、やめない?」
「やめないです!
王子様に一番似合うコスチュームは、絶対に私が見つけます……!」
めぐるちゃんがバニー服とチャイナ服を両手に私に吠える。
私はその迫力に気圧され、それ以上は何も言えなかった。
どうしてこんなことに?
その答えは明らかだった。
鈴のせいだ。
小鳥とフランといちゃついた朝。
そのあとめぐるちゃんに買い物へ行こうと誘われた。
もちろんフランも一緒。
だと思ったら鈴からも遊びの誘い。
じゃあ一緒にと誘ったのが間違いだった。
衣装作りに使う布地やアクセサリーを探したい。
そんな話だった。
なのに……。
「こいつに似合う服は俺が一番分かってるからな!」
「そんなことはありません!私が一番です!」
「い、いえ!こればっかりは譲れないですっ!」
なんか揉めた。
「じゃあ一番似合うコスプレ選んだやつが優勝な!」
鈴がそう言って駆け出した。
「承知しました!」
そう言ってフランがちらりと私を見た。
「いいよ。行ってきて。
めぐるちゃんには私がついてるから。」
「ありがとうございます!
可愛い衣装見つけてきますね!」
そう言い残してフランも駆け出していった。
「さてと……お手柔らかに頼むね。めぐるちゃん。」
正直めちゃくちゃ恥ずかしい展開になってしまった。
なんだよ。一番似合うコスプレって。
「はい!任せてください!」
でもめぐるちゃんも今すぐに駆け出したいのか、ソワソワとしていた。
これは止めるの野暮だよなー……。
そうして私に似合うコスプレコンテストが開幕した。
「王子様、これ持ってみてください。」
「めぐるちゃん、セクハラポイント1点。」
露出の高いバニー服。
似合う訳ないし、これは断固拒否する。
「王子様なら格好良く着こなせると思って……。」
小鳥ちゃんが目を逸らしながら釈明する。
「そもそもこういうのって胸の大きい人向けでしょ?
私には似合わないよ。」
自分の身体に合わせることもなく棚に戻した。
「お、王子様……。それは違います。」
でもめぐるちゃんは私の言葉の言葉に反論してきた。
「ん?何が違うの?」
「えっと……バニーは格好いい人にも似合うんですよ。」
そう言ってもう一度棚からバニー服を手に取った。
めぐるちゃんの中では私は格好いい人の認識らしい。
今さらそれについては何も思わない。
でもバニーって胸が大きくて可愛い人が着るものじゃないの?
そう思ったらめぐるちゃんが一言で私を論破した。
「小鳥ちゃんが着たら似合いますよね?」
「理解できた。ごめん、私が間違ってた。」
いや、私に似合うとは思わないけどね。
小鳥みたいなモデル体型の人には絶対に似合う。
ちょっとやさぐれた感じのバニー。
うん、一応買って帰ろう。
「でもこれは私より小鳥向けだね。
これは小鳥に買って帰ろう。」
「それはそうかもですね……。」
めぐるちゃんは納得したように頷いた。
そしてバニー服をもう1着籠に入れた。
「ちょっと待った。」
私の言葉にめぐるちゃんはきょとんとした顔をした。
「小鳥に着せるなら1着でいいでしょ。
2着は要らない。」
「小鳥ちゃん、絶対に1人だと着てくれないですよ?」
うーん……。
それは確かにそうだけど……。
「王子様は小鳥ちゃんのバニー見たくないですか?」
私は根負けした。
しょうがない。
それなら私の分は雛乃に着て貰おう。
「……ていうかちょっと待って。」
私はもう一着手に取り、籠に入れた。
「?雛乃ちゃんの分ですか?」
めぐるちゃんが頭にはてなマークを浮かべた。
そんな訳はない。
「これはめぐるちゃんの分だよ。
めぐるちゃんも絶対に似合うもん。」
線の細くて白い身体、黒が基調のバニーは絶対に似合う。
「……?」
めぐるちゃんは一瞬黙り込んだ。
「い、いや!待ってください!
私には絶対に似合わないです!」
そしてすごく焦った顔でそう言った。
「待たない。これは決定ね。
めぐるちゃんも着る。」
「むー……」
「めぐるちゃんが着るなら私も着る。
めぐるちゃんが着ないなら私も着ないよ。」
ちょっと頭を抱えるめぐるちゃん。
その肩がぴくりと動いた後、その顔をあげた。
なぜかにやりと悪い顔をしていた。
「私が着るなら着てくれるんですね……?」
「う、うん……。」
頷くとめぐるちゃんは明るい笑顔を見せた。
「じゃあこれも……?」
めぐるちゃんが手に取ったのはチャイナ服。
少し迷って頷くと、めぐるちゃんはさらに明るい笑顔を見せた。
めぐるちゃんが2着買い物カゴに入れた。
私は黙ってもう1着追加した。
ごめん、小鳥。
せめて一緒に。
「あ、あと王子様に似合いそうなのは……。」
めぐるちゃんが早歩きになる。
私はその手を掴んだ。
「ひゃっ」
そんな声を出して、その足を止めた。
「落ち着いて。ゆっくり歩かないと危ないよ。」
「は、はい……。ごめんなさい……。」
手を繋いで次のコーナーへ。
色々迷って、警察のコスプレグッズ。
計3種類買ったところで、タイムアップ。
フランと鈴と合流した。
「2人は何を買ったの?」
「秘密です!」
「秘密に決まってんだろ!楽しみにしてな!」
というわけで、2人が何を買ったのかは分からない。
鈴の車に乗り込んで、これから帰り道。
コスプレ大会というとても恥ずかしいイベントはもうすぐ近くまで迫っていた。




