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余命60年の私と余命8億年の君  作者: とりもち
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修羅場キャンセル


気まずい沈黙。

被害者と加害者の邂逅。

小鳥は一気に警戒モードになった。

そんな中、最初に口を開いたのはこのみちゃんだった。


「ごめんなさい……」


それだけ言うとこのみちゃんは踵を返して走り去ろうとした。

でも鈴がそれを捕まえた。


「あ、もしかして前に言ってた子?」

鈴がそう言うと、このみちゃんは観念したように逃げようとする足を止めた。

「うん……。」

このみちゃんが頷くと、鈴は1つため息をついた。


「ほら、逃げるな。ちゃんと謝れ。」

鈴がいつになく真面目な顔。

鈴のそんな顔は始めて見た。


ちらりと雛乃の顔を見る。

その顔は少し安堵が浮かんでいた。

なんで?


「雛乃、大丈夫か?」

小鳥が雛乃に声をかけた。

「うん、大丈夫よ。

 このみちゃんも座っていいよ。

 少しゆっくりはなそ?」

その言葉に鈴がこのみちゃんを抑えつけて無理やり座らせた。


「うぅ……」

元から小さな身体を縮こまらせて座る。

すごく居心地が悪そうだ。


でも不思議だ。

このみちゃんと始めて会った時、自分がストーカーだったとは微塵も思ってなさそうだつた。

今は罪悪感で小さくなってる。


少し長い沈黙。


「雛乃さん……前はごめんなさい。

 僕、雛乃さんのストーカーでした……。」

「許すわ。」


雛乃が食い気味に答えた。


「はい。これでこの話はおしまい。

 一緒に旅行、行くんでしょ?

 ほら、早く計画立てましょう?」

「で、でも……

「でもはないわ。

 私はもう気にしてないもの。」


雛乃はそう言うと優しく微笑んだ。


「僕、ちょっとだけ席を外してもいいですか……?」

涙を目に浮かべて、このみちゃんが席を立った。

「じゃあ俺もついてくな!」

鈴も合わせて席を立つ。


フランはお茶とお菓子の準備中。

私と雛乃と小鳥だけが残された。


「ふぅ……」

雛乃が小さく息を吐いた。

「これで仲直りね。

 早く戻って来ないかしら。

 旅行の話が早くしたいわ。」

雛乃はさっきまでの話を気にしてないようで、チラチラと小鳥が持つ旅行のパンフレットを見ていた。


小鳥はちょっと頭を抱えている。

小鳥も過去の一件の当事者だ。

警戒するのは当然だろう。


それよりもまずは……。


「ごめん、小鳥。」

私は小鳥から止められてたのに、何度かこのみちゃんと話していた。

そこはちゃんと謝らないといけない。

「なんでお前が謝んだよ?」

ジトリとした目で小鳥が私を見る。

「いや、実はね……」

それから私は洗いざらい吐いた。

このみちゃんと一緒にパンケーキを食べに行ったこと。

連絡先を交換してたこと。

鈴の彼女がこのみちゃんだって気付けるタイミングはあったのに気付けなかったこと。


「……でもね。」

でも一番伝えたいことは。

「今は多分、大丈夫じゃないかな……。

 鈴とお互いに手綱を握りあってるみたいだし……。」

私がそう言うと、小鳥は小さくため息をついた。


「雛乃が許してるなら、あたしから言う事はねえよ。

 このみがもう大丈夫なのは分かるしな。」

そう言って小鳥は自分の手首を軽く叩いた。

そっか。腕輪で害意とかは分かるもんね……。

「でも雛乃、それにお前も。

 ちょっとは警戒しろよ。

 次も本当は良い人だとは限らねえからな。」

そこまで言い終えると、小鳥の眉間の皺が消えた。

もう言いたいことはないらしい。


「お話は終わったみたいですね。」

フランがお茶とお菓子を運んできた。


「ではこれからは旅行の計画ですね!

 楽しみです!」

その様子を見て、私も小鳥もようやく笑えた。

「2人も早く戻ってこないかしら。」

雛乃はさっきと同じことを言った。

よっぽど旅行の話をしたいらしい。


それから少しして2人も戻ってきた。


「ひなのんの旅費は俺らで持ちます!」

「えっと……はい!」


鈴に手を引かれてこのみちゃんもそう宣言した。


「別にそんなこといいのに。」

「でも僕のせいで引っ越したんですよね……?

 せめてそれくらいは……。」


ちょっと押し問答。

でも最終的に雛乃はその提案を受け入れた。


「じゃあこれで問題は解決ね!

 早く旅行の話をしよ!」


雛乃がすごくワクワクした顔でそう言った。

それで雛乃とこのみちゃんの因縁は完全に終わった。


でも……。


こっそりと私はスマホでメッセージを送る。


『このみちゃん、雛乃のこと黙っててごめんね。

 良ければ明日少しだけ話せない?』


私がこのみちゃんに嘘をついていたのも確かだ。

それはちゃんと謝らないといけない。


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