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余命60年の私と余命8億年の君  作者: とりもち
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フランとお掃除


夏休みに入って数日後。

今日は肝試しに使わせてもらった古民家のお掃除の日だ。


「今日はフランとふたりっきりー♪」

手には鎌。

今は1時間くらい草刈りをしたところだ。

「お嬢様、疲れてきてませんか?

 疲れたら休んでくださいね。」

フランが私の汗を拭いながらそう言った。

「まだ大丈夫!

 たまにはこういうのも楽しいね。」

私がそう言うと、フランは少し複雑そうな顔をした。


「お嬢様は働かなくていいのに……。

 でもお嬢様と一緒なのは嬉しいです……。」


小さな声でそう言うと、フランはむーっと唸った。

困ってる顔もかわいい。

頭を撫でると、少し喜びの割合が多くなったみたい。

むーっとしたまま、口角が少し上がった。


フランはいまだに隙あらば私を堕落の道に誘おうとする。


『お嬢様は働かなくていいんですよ?』

『お嬢様の面倒は一生私が見てあげます。』

『小鳥お姉様も一緒ならいいですか?』

『一生遊んで暮らす方が楽しいですよ。』


だいたいこんな感じ。

靡きそうでちょっとこわい……。


「でも今日は仕事じゃなくて遊びの気分!

 フランと一緒ならなんでも楽しいからね!」


鎌を置いてフランに抱きつく。

するとフランも抱きしめ返してきた。

フランは夏でもサラサラしてていいな……。

汗かかないの羨ましい……。


「!?」 

やばい!私は汗かいてるのに!

「お嬢様、どうしましたか?」

フランが心配そうに私を見る。


「ごめん、私は汗でびちゃびちゃなのに!

 気持ち悪くなかった?

 ごめん!」

私がそう言うと、フランは口元を抑えて笑った。

「私は気にしないですよ。

 むしろそんな理由で抱き締めてもらえないのは寂しいです。」

そう言ってフランが両手を広げる。

「ほら、もう一度お願いします。」

お言葉に甘えて、もう一度抱きつく。

そして手を離した頃には、フランはいつもの楽しそうな顔に戻っていた。


「でもお嬢様。ここで1回休憩にしましょう。」

フランがテキパキとクーラーボックスからペットボトルを取り出した。

「ふふっ。まだまだ私は大丈夫だよ。

 最近は鍛えてるからね。まだ疲れてないの。」

私のドヤ顔にフランはため息で返した。

「鍛えてても、水分は摂らなきゃだめです。

 やっぱりお嬢様はちょっと危ういです。」

またフランの喜びゲージが少し下がってしまった気がする。


少し休憩を取って草刈り再開。

まだまだ10分の1も終わってない。

やっぱり広い家って手入れが大変なんだな。


「広い家にはやっぱり住めそうにないな。」

ぼそりと呟くと、フランが私の服の裾を引っ張った。

「お嬢様には御屋敷、似合うと思います。

 私という執事も居りますし。」

確かにフランにお屋敷は絶対似合うな。

むしろ今がミスマッチとも言えるし。

「でもお屋敷だとフランとの距離遠くなっちゃうよ?

 私は今くらいの方が好きだな。」

私の言葉に、フランは豆鉄砲を食らった顔をした。

「確かにそうですね……!

 お屋敷はやめておきます!」

そしてまた鼻歌まじりに草刈りを再開した。


2時間ほど経ったころ。

さすがにちょっと疲れてきた。

でも作業の終わりが見えた。


フランは最初に邪魔になりそうな大きな草を引き抜いてくれていた。

木には手を出さないでいいという話だから、あとは小さな草を刈るだけ。

あと2時間もすれば終わるだろう。


それから1時間くらいしたころ。


「う、うそでしょう?」


少しふくよかなマダム。

ここの地主さんが様子を見に来た。


「あ!地主さん!こんにちは!」

「ごめんなさい!まだ終わってないです!」


それから10分くらい、地主さんは私たちをたくさん褒めてくれた。

草刈りは自分でやるか業者に頼むか迷っていたらしい。

それで業者に頼む前に、素人がどこまでやれるか見ておきたかったとのこと。


「そしたらほとんど終わらせてくれるなんて!

 2人ともすごいわ!」


フランは褒められて満更でもなさそう。

そして私も褒められて嬉しい。

とてもいい気分だ。


「最初は大学生に貸し出すなんてって思ったのよ。

 でも良い子たちで助かったわ。」


マダムはお喋りが好きみたいで、止まることなく私たちを褒めてくれる。


「あら!汗かいてるじゃない!

 実は差し入れ持ってきたの!

 ちょっとだけお家の中で涼みましょう?」


マダムが玄関を開けて、中に入る。

すると、またすぐにマダムは大きな声を出した。


「うそ!お家の中も掃除してくれたの??」

マダムのびっくりした声にフランが答える。

「そちらはここに居ない友人が掃除してくれました。

 使わせていただいたせめてものお返しです!」

そう、家の中は小鳥とめぐるちゃんと鈴が掃除してくれた。

肝試し用に装飾された封印された部屋も今は普通の部屋に戻してある。


「あらあらまあまあ!

 ここまでしてくれるとは思わなかったわ!

 ちょっとだけ待っててもらえる??

 良いものあげるから!」


そう言うとマダムはぴゅーんと走って車に乗り込んだ。

私は貰ったアイスを齧って、また草刈りを再開。

マダムが帰ってくる頃には草刈りはほとんど完了した。


「あら!涼んでてくれて良かったのに!

 これ良かったら食べてちょうだい!

 育ち盛りだものね!

 お肉、好きでしょ!」


楽しそうにマダムは紙袋をフランに差し出した。


「そんな!悪いですよ!

 私たちはお家を借りたお返しをしたまでです!」

「そうですよ。無茶を聞いてもらった立場ですし。」

「いいからいいから!

 業者さんに頼むよりも安く済んだもの!

 また遊びに来てちょうだいね!」


マダムの熱量に結局私たちは押し切られてしまった。

お肉にお菓子、美味しそうなものをたくさん頂いた。


「本当に色々とありがとうございました。」

私が頭を下げると、マダムはニコニコと微笑んだ。

「良いから良いから!

 お友達にもよろしくね!」

それから私たちが車に乗り込むまで、マダムはずっとここに居ない小鳥たちのことまで褒め続けた。


車の中で私とフランもニコニコと喋る。


「すっごくいい人だったね。

 みんなのことまで褒めてくれた。」

小鳥たちへの褒め言葉もすごく多かった。

全部伝えたいけど、覚えきることはできなかった。

「私は一言一句覚えてますよ。

 あとでちゃんと伝えましょうね。」

さすがフラン。

私も記憶力は良い方だけど、フランには負けちゃうな。


あ、そうだ。

覚えてることだけでも伝えちゃおう。


小鳥に電話をかける。

すぐに電話に出た。


『もしもし。』

「小鳥は良い子だね。

 こんなに良い子は今どき珍しいよ。」

『は?』

「小鳥はすごくかっこいいし、かわいいよね。」

『意味が分からん。』

「って地主さんが褒めてたよ。」

「本当はちょっと違いますけどね!」

『絶対ほとんど嘘だろ?』

「まあうん。」

『まあいいや。今めぐるとゲームしてるから。

 電話切るぞ?』

「あ!じゃあ最後に!」

「今日の夜ごはんはすき焼きです!」

『まじか!やった!』

「めぐるちゃんとみゆちゃんに声かけといて!」

「かけといてください!」

『おう!』


それから鈴が前に教えてくれた彼女との同棲先に寄って、お肉とお菓子をお裾分け。

鈴は自分が食べるわけでもないのにすごく喜んでいた。


というわけで今日の夜はすき焼き!

夏でもすき焼きは美味しいからね!



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