表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
余命60年の私と余命8億年の君  作者: とりもち
106/298

このみちゃんが倒れている


夏休み前最後の日。

今日は一人で大学に来ていた。


フランは小鳥と2人で古民家の片付け。

私も行くと言ったら危ないから駄目ですと固辞された。

まぁ何かあった時に私は足手まといだもんね。

しょうがない。


そんな感じで珍しく一人。

ぷらぷらしていると、見知った顔を見つけた。


(あ、まずいかも)

このみちゃんが向こうから歩いて来ていた。

普段あんまり会わないから、警戒を緩めていた。

さすがに正面から会ったら挨拶しなきゃな。

そんな風に考えていた。


「このみちゃん久しぶり。……あれ?」

このみちゃんはフラフラとした足取りで私を無視して通りすぎていった。

完全に私に気づいて居なかった。


そしてそのまま、よたよたとまっすぐ歩いて。

近くにあったベンチへと倒れ込んだ。


「このみちゃん!?」

もう季節は夏。

熱中症かもしれない。

私は急いでこのみちゃんに駆け寄った。


「このみちゃん!大丈夫!?」

いくらこのみちゃんでも熱中症になってたらまずい。

私は咄嗟にこのみちゃんに声をかけた。

でもその様子は熱中症じゃなさそうだった。


「あれ、先輩……?

 う、うわぁぁん!先輩!聴いてくださいよぉ!」

私を見るなり、大きな声で泣き始めた。

めんどうなことになった。

そう思ったけど、もう手遅れだった。


しばらく泣いたあと。

私たちは大学から出て、駅前の喫茶店に入った。

一応お店の出口に近い席。

何かあったら逃げられる。


「それで、結局どうしたの?」

泣いてる間は支離滅裂で何を言ってるのか分からなかった。

改めて泣いてる理由を聞いてみる。


「……僕、先輩と話したあとに彼女ができたんです。」

パンケーキを食べながらこのみちゃんが語りだす。

ちなみに今回は奢りじゃない。

このみちゃんにそれは断られた。


でもこのみちゃんに彼女かー……。

また勘違いだったりしないかな。

それとなく探りを入れてみるか。


「それは良いことだね。

 付き合って1ヶ月くらいだよね。

 今が1番楽しい時期じゃないの?」

「……」


私の言葉にこのみちゃんはただ悲しそうな顔をした。

そして彼女のスマホを無言で差し出してきた。

そこには『ダーリン』と登録されている名前の人とのトーク画面が写っていた。


「彼女のことダーリンって呼んでるんだね。」

「それは彼女が勝手に登録したんです……。

 それよりも内容見てください!」


内容は以下の通り。


一昨日の会話がこれ。

ダーリン『明日誕生日だったよね?』

このみちゃん『覚えててくれたんだ!嬉しい!』

ダーリン『そりゃもちろんよ。明日の夜空けといて。』

このみちゃん『分かった!ありがとね!』


そして昨日。

10分間の電話。ただそれだけ。


その前の会話はすごく甘ったるかったので割愛。

確かに付き合ってることは間違いなさそうだった。


「でもこの会話がどうしたの?

 プレゼントがあんまり良くなかったとか?」

そう聞くとこのみちゃんは涙を浮かべた。

そして涙を堪えて、静かに呟いた。


「昨日、誕生日会バックレられたんです……。」

「うわぁ……。」


さすがにそれは可愛そう。

誕生日会するって言い出したのそっちじゃん。


「あ、でも何か急用とか……?」

私の言葉にこのみちゃんはポロポロと涙をこぼした。

「友達と遊ぶ予定が入ったって……」

誕生日会に来なかった理由を教えてくれた。

あまりにもどうしようもない……。


「1日くらい誤差だって……。

 今日の夜に延期になったんです。」

パーティは今日やるみたいだけど、ぞんざいに扱われてる感は否めない。


「……もう別れたら?」

多分、その人と付き合っても辛いだけだと思う。

そう思って提案したけど、それには首を横に振られた。


「ようやく復縁できたすごく素敵な人なんです。

 可愛くて、かっこよくて……。」

私は別れた方が良いと思うけど……。

でも本人がそう言うなら、それ以上言う気はない。

無理しないでね。

それだけしか言えない。


そのあとすぐにこのみちゃんはパンケーキを食べ終えた。

そしてこのみちゃんは一度頭を下げた。


「今日はありがとうございました。

 それと……。この前は無理に迫ってごめんなさい。」


その言葉に私はちょっと驚いた。

でもすぐにこのみちゃんの頭を撫でて許した。

多分、この子は色々慣れてないのかもしれない。

もう会うことはないだろうけど、雛乃にもいつか謝れる時が来るんだろうか?


「また何か困ったら相談には乗るよ。

 あと、お会計は私がしちゃうね。」

「え、そんなの悪いです!

 先輩は珈琲しか飲んでないのに!」

「昨日、お誕生日だったんでしょ?

 私からのお祝いだよ。」


そんな感じでお会計も済ませた。

時間もあったし、ちょっとゲームセンターでも寄ろうかと提案したらそれは断られた。


「彼女が見たら悲しんじゃうかもなので。

 いつか彼女を紹介します!

 多分すぐに友達になれますよ。

 その時は3人で遊びに行きましょうね!」


このみちゃんがそう言ったから、今日はそこでおしまい。

ちゃんと付き合ってたら、すごく健気で良い子なんだな。

良いことを知れた気がする。


「あ!そうだ!連絡先、教えて貰えませんか?」

このみちゃんがスマホを出した。

ここで教えないのも悪いしな。

それになにより、このみちゃんのことが少し心配だった。

私は素直に連絡先を教えた。


結論から言うと、この選択は間違いじゃなかった。

このみちゃんも近いうちに私たちみんなの友達になった。

でもその話はまた別の機会に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ