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蛇足 幼馴染は馬鹿女  作者: 金平糖2式
蛇足の締め その後のお話ーお墓参りでの再会
6/7

 どうやら私と同じ理由――と、言っていいかはわからないけれど。

 ソウ君とミナちゃんも先生のお墓参りに来たらしい。


「正直、ここに来るつもりはなかったんだよ。

 ただまあ……なんというか、あれからいろいろあってさ。

 区切りというか、気持ちの整理をつける為っていうか、報告がてら、な。

 ああ、と――それと、何だ」


 久しぶりだな、とバツが悪そうに、ソウ君は私に向けて告げる。

 その調子からは、あの時見せた様な様な怒りも、冷ややかさも感じない。

 ただ、純粋に予期せぬ再開に、戸惑っている様にも見える。

 

「うん……久しぶり、ソウ君。

 それと……隣の娘は、ミナちゃん、だよね?」


「……ああ」


 私の言葉に、ソウ君は頷いて。

 隣のミナちゃんは続く形で、どうも、と短く返し、ぎゅ、とそんな彼の腕へ、寄り添う様に、縋りつくように抱きしめている。

 それに対し、ソウ君も満更ではなさそうな様子を見れば、二人が今どんな関係なのかは私でもわかった。


 ……ああ、そうか。そうなんだ。


 つまりは。

 ミナちゃんは、小さい頃からの初恋を諦めずに叶えたのだ。

  

「――も、―――か?」


「……―――、だいたい、――――!

 ――――、―さん―って、――――?」


「あはは……仲が……いいんだね」


 それに気づく事が出来た後、言葉を交わしていても、その意味が頭に上手く頭に入ってこない。

 二人の姿は、今の私にはあまりに眩しすぎた。


 ごく自然な……それでいて、昔とは明確に違う、男女の――恋人としての距離感。

 お互いがお互いを、心から想い合っている、気負う事のない二人のやり取りから、伝わってくることがある。


 ……二人共、今、幸せ……なんだ。


 私の事なんて、もう、どうでもよくなってしまうくらいに。

 私には、それを喜ぶ資格も……惜しむ資格もないけれど。

 きっと……いいことなんだと、思う。


 ソウ君と、ミナちゃんの幸せが、私が仕出かした事なんかに、阻まれていいはずがないのだから。


「ごめん、私……もう、行くね」


 だから、無理やりにでも話題を切り上げて急ぎこの場から去ろうとした。

 二人の仲睦まじい様子に耐えられなかった、という事も、あるのかもしれない。


 私がここにいるだけで、二人の邪魔になる。

 それだけは駄目だ。駄目なんだ。

 今の私にできる事なんてもう……本当にこれくらいしかない。


 そう自分に言い聞かせ――急ぎ、踵を返しかけた私に。


「あー……和香!」


「…………ソウ、君?」


 大声で呼び止められて、足が止まる。

 

「いや……別に何って訳じゃないが……身体にだけは気をつけて。

 それと――」


 一瞬だけ――言葉を止めて、ガリガリと頭を掻きむしり、それでも。


 元気でな、と、苦笑しつつ、言葉を続けてくれた。

 

 ソウ君からの声の調子に、気負うようなものはない。

 この言葉は、私が、滅茶苦茶にしてしまった過去を乗り越えた証。

 ソウ君は……見違えるくらいに、本当に大人になっていた。


 ――ああ。


 拒絶の言葉ではなく、元気で、と言ってくれたからこそ。


 ソウ君の人生に、もう(・・)私が割って入る隙間なんて、ないと。

 心の何処かで諦めきれていなかった……私の身勝手なエゴが、完全に終わっていた事を、最後の最後で、改めて思い知る。

 

「あの……和香さ――のど姉!」


 ミナちゃんも、続く形で私を呼び止める。

 昔の私の綽名で、目を逸らすことなく、ただ真っすぐに。


「えっとその……のど姉も、お元気で!

 おじさんとおばさんにも、よろしくです!」


「……ミナちゃん」


 彼女も……本当に――大きくなった。

 私では届かないくらいに、心も、身体も。


 駄目だ。

 ……視界が、涙で滲む。

 声が震えてしまう。


 それでも何とか、その優しさに甘えないように。

 精一杯取り繕って、絞り出すように。


「うん、二人も……ソウ君もミナちゃんも……元気でね」


 ただそれだけを、声に出した。


 ……今度こそ、私はその場を去る事為に、足を動かす。

 今度は声がかかる事も……振り返る事も、なかった。


(本当にありがとう……そして、ごめんなさい)


 最後の言葉は、口に出して伝える事は出来なかった。


 それでも、ひょっとしたら……今日のように、二人と、また顔を合わせる偶然もあるのかもしれない。

 その時は、その時こそは……きちんと、私の口から気持ちを伝えられるようになろう。


 こんな馬鹿な女の私でも……

 犯した罪からも、他の誰でもない、私自身の人生からも。

 もう逃げないと。そう思う事が出来たのだから。

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