私の夢の話①
「ーーー…あ、あっ、り、あっ!!」
暗い闇の中で、誰かが私の名前を呼ぶ。
今にも泣き出しそうで、縋り付くようなその声を聞いた私は、手探りで誰かの顔に触れて何かを呟く。
「……だ、いや、だ。」
「…、」
泣かないで?
それは、違う。
自分の口の動きだけは分かっている。
私がその言葉を口にした後、相手の声は明らかに切ないものに変わったのだ。
頬に触れた優しい温度と、身体を包み込んだまるでふわふわの羽のような感触。
何もかもがとてもリアルで、あの泣きそうな声も鮮明に覚えている。
「…り、あ、りり、あ!凛々亜!起きなさいっ、何時だと思ってるの!」
「んんー」
「今日から試験でしょう?、勉強するから早起きするって意気込んでたのに」
「うんー」
私の事を夢の中から強制的に連れ出したのは、部屋に響き渡った劈くような母親の声。頭から被っていた掛け布団を剥がされ、カーテンから差し込んだ朝日を浴びながら寝ぼけている私の名前は、長谷川 凛々亜16歳の高校一年生である。
春に入学した高校には仲良しの友達が二人。
彼氏は居ない。
そんな普通の人間である。
ちなみにさっきの夢は16歳の誕生日を迎えたのを境に見始めた奇妙なものであり、まだ誰にも話していない。
「テスト…」
「そうよ、テスト!!!」
眠い目を擦って起き上がると、母親からの追撃がきた。
そう、今は試験真っ只中の忙しい時期なのである。
母親は中間試験で赤点を取らないように、と早起きをする事を計画していた私を起こしに来ただけ。
部屋に入ってくる時に開けたであろう扉の隙間から、味噌汁のいい匂いが漂ってくる。
ああ、美味しそうだなぁ、なんて考えながらベッドから足を下ろす。
「…、ふああ、」
「ほら顔洗ってご飯食べちゃいなさい」
「うん」
今日も何の変哲もない朝だ。
母親の言葉を聞いてそう考えながら、私は部屋を後にした。